勇者編⑦ 追放
シオンは能面のような表情で私を見つめ続けていた。おそらく私も似たような表情をしているだろう。
話す言葉が見つからず見つめ続けていたその時に淫者がこう言った。
「イエ~イ、護衛係さん見てる?君の護衛対象は今こんな風になってるんだよ、ホラホラホラホラ。ほらもっとしっかり見てやってよ。この穴の中の貝柱みたいにコリコリしてるところが君の護衛対象は好きみたいでね。うまく弄るとビクってなるんだ。君も覚えておくといい。今度喧嘩したときの仲直りックスに使えるしさ、ホラホラもっとじっくり見てやってよ」
「や、やめ・・・」
「フフフ、そんなか細い声で言われても誘っているようにしか聞こえないよ?続けて欲しいのかい?君の大切な護衛係の前で弄られたいんだね?フフフ、わかるよ。君のここはこんなに素直に反応しているからね」
ふと見るとシオンの表情が死んでいた。レイプ目になっていた。能面どころではない。完全に死んでいた。
「・・・お邪魔しました」
「おや、見ないのかい?それじゃあ2時間ほどしたらまた来てくれたまえ。いわゆるご休憩だね。2時間後には新しい世界を知った君の護衛対象が快楽堕ちしているはずだ。ハッハッハッ、再会が楽しみだねえ」
明らかにこの状況を楽しんでいる淫者に殺意が湧いた。殺意の湧いた私は四つん這いの体勢からマウントポジションに移動し、淫者が逃げられないように上にのしかかった。
私は容赦なく淫者の顔面を殴り続けた。淫者は殴られながらもニタニタと愉しそうにしていた。
・・・・・・・・・・
「いやあ、殴られたの久しぶりだけど悪くないね。M心がときめいたよ」
「クソ淫者、ちょっと黙ろうか」
あれだけ殴られたのに特にダメージは無いらしい。それなりに威力を込めて殴ったのだが、傷がついてもすぐに治っていた。今ではすっかり完治して元気いっぱいだ。それどころか悦んでいた。やっぱり変態だわ。
というか何者だこいつ?この再生能力は普通の人間じゃないぞ?まあそのことの追求は後だ。今はそれよりも大事なことがある。
「・・・・・・」
「ねえ、シオン」
ビクリッ。声をかけた瞬間シオンの肩が不自然に跳ねた。ものすごく気不味そうに視線があちこち動いている。
「無理やりされてたの。来てくれて助かったわ」
私は容赦なく淫者を諸悪の根元として売ることにした。あながち嘘ではない。淫者の巧妙な口車に騙されたからああなったのだ。私は被害者のはずだ。そうしとこう。
「む、無理やりだったのですか?」
「そう、そうなの。薬を飲まされて自由を奪われて無理やりされてたの。泣きそう」
「おやおや、酷い言い草だね。うーん、ビデオカメラがあれば私の無罪が証明出来るはずなんだけどね。もうそういう便利な道具は無くなってしまったからなあ」
「こいつの言うことは全て嘘よ。信じないでシオン。私が嘘を言ったことある?」
「・・・普通に何度もあるかと」
自分の過去の行いが憎かった。シオンはこちらをジト目で見ていた。付き合いが長いだけはある。明らかに怪しまれていた。
「護衛係さんと喧嘩したのがショックだったみたいでね、慰めてあげてたんだよ。大した意味はない」
「・・・そうですか」
「私も少しやりすぎました。ついカッとなって追いかけたり短剣を投げつけたりしてしまいましたが、やりすぎたと思って反省しているのです。ごめんなさい」
「う、うん。シオンは悪くないよ。私が悪かったんだしさ。私がデリカシーの無いこと言ったのが悪いんだよ。シオンが謝る必要はないんだ。悪いのは私だよ。本当にごめん」
素直に頭を下げられた瞬間、モヤモヤしていた自分の気持ちは吹っ飛んでいた。それよりはいつも優しく接してくれていたシオンに頭を下げさせているということに罪悪感が湧いた。元々自分が余計なことを言わなければシオンが怒ることもなかったのだ。悪いのは私だ。
「・・・仲直りしましょうか」
「・・・うん」
私は仲直り出来ることが嬉しくていつものようにシオンに甘えて抱きつこうとした。
サッ
私の抱擁は避けられた。
「・・・う、うん?まだ怒ってる?」
「いえ、特に怒ってはいません」
「やだなあ、冗談はやめてよ。もう」
私は再度シオンに抱きつこうとした。
サッ
明らかに避けられていた。
「・・・う、うん?やっぱり怒ってる?」
半泣きになりながら私は聞いていた。
「いえ、そういうわけではないです。もう大人になったようですしあんまり直接的な接触は良くないかと思いまして。今夜は別々に寝ましょうか。そうしましょう」
「・・・・・・」
明らかに避けられていた。私はその夜どれだけ頼み込んでも一緒に寝てくれないシオンのことを想いながら一人部屋で泣いた。ガン泣きした。
出来心でフラフラと淫者とお試しした結果、私はシオンに性的な意味の危機感を持たれたようだ。
違うんだ。私も好きなのは男の筈だ。未経験だがその筈なんだ。私は泣きながら布団の中で言い訳を繰り返していた。




