勇者編⑤初めての喪女義姉妹喧嘩
「そういえばシオンって今までに彼氏っていたことあるの?」
私は気になってそんなことを聞いていた。
「・・・一人いました」
「あ、ちなみに・・・夢の話は抜きにしてね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
私とシオンの間には微妙に気まずい空気が流れていた。気づけば会話が止まっていた。ひょっとして地雷を踏んでしまったのだろうか・・・
「シオン、モテるし・・・いた・・・よね・・・?いなかった・・・かな・・・うん」
「・・・・・・」
駄目だ。四年間一緒にいた私にはわかる。これは都合の悪いことがあって答えれないときの顔だ。微妙に目が泳いでいた。
どうしよう・・・あれだけモテてるのにまさか恋愛経験ゼロだとは思わなかった。私と同レベルの恋愛クソ雑魚ナメクジだったのか。
あるいは現実を見ずに夢の男に夢中なことを考えると私以下かもしれない。
冷静に考えると不味い・・・これは、私が何かテコ入れをしてシオンの意識を変えないと一生独り身なんじゃないか。なんせ4年間浮いた話が一切なかったんだ。私というお荷物がいたにしても一切そんな話や素振りがないのは流石に不味い。
嫌な予感がする。
私が死んだ後のことだ。今よりも年を取ったシオンがいつもよりも暗い顔をして一人ぼっちで過ごす姿が頭に浮かんだ。ご飯を食べるのも一人、誰か友達と楽しく会話をすることもなく、寂しく城で仕事だけをして生活をしてそのまま年を取り老女になり一人で寂しく死ぬのだ。
考えるだけで悲しい。ちょっと涙が出た。
シオンには幸せになって欲しいんだ。私が最期まで一緒にいてあげれたら良いのだが、多分それは無理だ。おそらく私は戦いで死ぬ。自殺するまでもなく戦いで死ぬ。少なくともシオンよりは先に死ぬ。そう決めている。その時にシオンが一人になってしまうのは不味い。
誰かシオンの側にいてくれる人が必要だ。一人はだめだ。一人で死ぬのはいくらなんでも寂しすぎる。
最期まで側にいてくれる相手が苦楽を共にした伴侶ならきっと最高だろう。あるいは少なくとも友達が必要だ。私は知っている。シオンが仕事人間なことを。ろくに友達と呼べるような相手がいないことを。恋人どころか家族も友達もいないということを・・・冷静に考えたら切ない。涙が出る。
なんでこんなに性格が良くて世話焼きで美人で優しくて綺麗なシオンに友達も彼氏もいないのだろうか、本人が消極的とはいえ酷すぎる。
死ねない。少なくともシオンを大切にしてくれる人が出来ないと私は死ねない。こんな恥知らずのゴミみたいな自分のことは大嫌いだし今すぐにでも死んでしまいたいが死ねない。一人には出来ない。
あ・・・ひょっとして、原因私・・・か?ゴミみたいな頭のおかしいやつが常に側にいるから誰も寄ってこないのか?ああ・・・多分原因私だわ。
シオンに欠点がないとは言わないが良いところの方が多い。原因は私だった。
不味い・・・早急になんとかしないと。気づけば私は焦りのままに言葉を発していた。
「シオン・・・私でさえ彼氏いたことあるのにさ。私より年上のシオンが今までに一人も彼氏が出来たことがないってちょっと切ないよ。年齢=彼氏いない歴とか喪女だしさ。その・・・夢の相手はほら、しょせん夢なんだしさ。シオンもいい加減いい歳なんだし、彼氏作ろうよ彼氏。夢と現実の区別がつかない夢女は痛いしさ。きっと現実の彼氏が出来たら出来たで楽しいことも多いと思うんだよ。ほら、シオンいっつも暗い顔してるけど、たまには笑顔みたいしさ。美人なんだし、中身がちょっとだいぶポンコツで夢見がちな現実を見ていない女でも見た目いいから見た目に騙されるやつもいるって!ほら、結構兵士たちには人気あるしさ!この前も一瞬でパンツ売れたし、頑張ろうシオン!なんとかなるって!いい加減二次元の夢の話は忘れて現実見ようよ!現実!」
私は気づけばシオンに熱く語り続けていた。というか煽っていた。後から考えればひどい内容だった。怒られても仕方ないだろう。
なお、当然だが過去の私に彼氏がいた事実など一切ない。架空の彼氏が過去にいたことにしてシオンを焦らせようとしたのだ。
最近、似たようなことを魔王軍の軍団長に向けてアヘ顔ダブルピース付きで言いまくっていたせいで、気づけば私の口は注意をしないと過剰に煽るようになっていた。
大切なシオンの暗い未来予想図に焦っていたのもあったのだろう。私はシオンの境遇を心配していた。その結果発してしまったのが上記のろくでもない煽り発言だった。私は失敗した。
途中から「やべっ・・・」と思いつつも私の口は止まらなかった。
そんな時だ。ふと、シオンの気配が変わった。嫌な気配を感じた。目の前のシオンの表情こそ変わらないものの、嫌な気配がした。
「はっ・・・あなたに彼氏?笑えない嘘ですね。ここ数年言動が痛々しいと思ってはいましたが、まさか虚言癖まで・・・はあ、人前で堂々と糞便を漏らす女に彼氏なんて出来るわけないでしょう。それだけならまだしも、オークやゴブリンの肉を食べる。兵士にも無理やり食わせる。オーガの生首でキャッチボールをする。よっぽど・・・特殊性癖の彼氏さんだったんですね。寝言は寝て言いなさい」
「・・・・・・」
「・・・そうですねえ。あなたに本当に彼氏なんてものがいたのなら連れてきてみなさい。本当に存在したのならば私も一考しましょう。私には必要がありませんが、あなたに本当にいたのならば考えてみましょう。ま、いないでしょうけどね。見た目だけで女らしさなんて欠片もない貴女に・・・いたらこの世の終わりですかね。いつまで経っても何回言っても女らしさどころか人としての品性さえも投げ捨てている貴女にいたらちゃんと考えますとも・・・ええ、いたらね」
「・・・・・・いたもん」
「あなたの脳内にですか?」
私はシオンからお返しとばかりに容赦なく煽られつつ軽めの殺気を飛ばされていた。武器こそ向けられていないものの、殺気を向けられながら言葉の刃で容赦なく精神を削られていた。
既に私は半泣きだった。痛い。心が痛い。なけなしの女のプライドや見栄をことごとく否定されていた。あれだけ優しかったシオンに言葉で責め立てられるのは初めてだった。思っていたよりも遥かに堪えた。
き・・・きつい。思っていたよりきついぞこれ。言葉で責められるだけでこれだ・・・あ、駄目だわ。嫌われるような言動を敢えてしてはいたが、ガチで嫌われてしまったらショックで死にそうだ。
無理。これ無理だわ。謝ろう。失言を詫びて謝るんだ。勝ち目はない。
素直に謝ろう。私はそう思っていた。
だが、傷ついた女のプライドが余計な仕事をした。口から発した言葉は最悪だった。
「そうだね、ごめんごめん。最近、小じわ増えたしイライラしてるんだよね。まだ若くて肌の心配とかいらないピチピチのお肌の私にはわからない悩みだったよ、ごめんねシオン」
言い終わった瞬間、顔面に短剣が二本飛んできた。当たれば即死コースだった。死ぬかと思った。




