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勇者編④何気ない時間


 私はシオンの酷く昏い目をそれ以上見ていられなくなり、その日はもうそれ以上話さずに無言で自室に帰った。



 前世の記憶。それを忘れずに持ち越すことはシオンの言うように罰なのだろうか?それとも特典なのだろうか?


 私はその夜、いつものようにシオンと一緒のベッドで眠りながらそのことを考え続けていた。



 シオンは眠りながら涙を流していた。そして誰かに謝り続けていた。


 私と一緒でシオンもわりとよく夢を見る性質なのだろう。何か良い夢を見てとても幸せそうな顔で寝ている時もあれば、何か悪い夢を見て酷く辛そうに涙を流しながら寝ている時もあった。


 そして、幸せそうな顔で寝ている回数よりも、涙を流しながら寝ている回数の方が圧倒的に多かったのだ。


 私はシオンが涙を流している時は、少しでも悪い夢を見ないように、何の役にも立たないと知りながら、シオンを抱きしめるかのようにくっついて寝ていた。


 今よりもまだ私が幼い頃、シオンがしてくれた時のように、シオンの頭を胸に優しく抱きしめながら眠りについていた。少しでも優しい良い夢を見てほしい。そんなことを願いながら眠るのが大抵の私の眠る前の日課だった。




・・・・・・・・・・




 「おはようございます」


 「・・・おはよう」



 朝目覚めるのは大抵シオンの方が早かった。まあ、寝るのがシオンの方が早いのだ。無理もない。後、長年の習慣もあるのだろう。


 私が起きる頃にはシオンが作ってくれた朝ご飯の準備が出来ている。そして一緒にご飯を食べてから身支度をする。それがここ数年ほどの朝の流れだった。


 私はボーッとろくにまだ働かない頭でシオンと朝の会話をしながら過ごすこの時間が好きだった。


 シオンの作るご飯は美味しかったし、甘えるとたまに食べさせてくれたりもしたのだ。まあ、最近は甘えても自分で食べなさいと言われることの方が多かったのだが。それでも駄々をこねていると食べさせてくれることもあった。


 私はこういう何か特別なことをするわけではないが、一緒に過ごすこの普通の時間が好きだった。



 元いたあの世界では決して得られることのない時間だったのだ。




・・・・・・・・・・




 私は幾分スッキリとした頭で食後の紅茶を飲みながらシオンに話しかけていた。昨日聞こうか悩んだものの、聞けなかったことを聞くことにしたのだ。



 「ねえ、シオン。答えれなかったら答えなくていいんだけどさ。昨日の口振りだとひょっとして前世の記憶があったりするの?」


 私は直球でそう聞いていた。



 「・・・わかりません」


 「・・・そうなの?」



 「・・・はい、よく似たような夢を見るのです。何度も何度も似たような夢を。ただ、それが自分の前世に関係する夢か?と聞かれたらわからないのです。夢を見ているときはまるで自分が夢の登場人物になったような感覚で夢を見ていますが、いったん醒めてしまえばあっという間にそういった感覚は薄れてしまいますから」


 「そっか」



 「はい」


 「聞いていい?どんな夢を見るの?話すのが辛かったら言わなくていい。良い夢限定で話せたら教えて」



 「・・・好きな人の夢を見ます」


 「・・・うん?」



 「大好きだった人の夢を見ます。そこで私は幸せに暮らしているのですが、邪魔者がいて私はその邪魔者を排除するために色々と作戦を立てたり、邪魔者の目の前でわざと好きな人とくっついて胸を押し付けたり膝の上に座ったり色々としているのです。邪魔者はこちらを見て悔しそうにしています。夢とは言えその時は胸がスーッとします。邪魔者は二人いるのですがどちらも胸が小さくて貧乳・・・いえ、貧しい胸をしています。こちらの胸を何か意味ありげに恨めしそうに見ているのですが夢の中の私はその視線の意味に気づいていません。夢の中の私は特段胸に価値を置いていないので特に気にしていないのです」


 「ですが夢の中で好きな人はわりとおっぱい好きです。ですので、私は段々とどうおっぱいを押し付ければ、どう見せつければ好きな人の気を惹けるか学習していくのです。硬い下着をつけるよりは柔らかな下着、あるいは下着をつけないほうが反応が良い。私はそんなことを試しながら好きな人の気を惹けるかどうか試します。幸いおっぱい好きのため気を惹くことには成功するのですが完全な幸せにはまだ遠い。邪魔者たちに見せつけることで胸がすく想いは味わえますがそれではまだ勝利とは言えません。私は確実な勝利のためにどうすればよいか悩みつつも、大好きな人と過ごす日々を楽しんでいるのです。そんな夢ですね」



 「・・・う、うん。そ、そのへんでもういいかな」


 「やはり肉体関係です。肉体関係を持った上で子供を作ってしまうのが一番確実です。幸いなことに大好きな人は責任感のある人なので、肉体関係を持って子供を作ってしまえば勝ち確です。夢の中の私は明晰な頭脳で合理的なプランを練りました。危険日に思う存分やってしまうプランです。夢の中の私は誘惑するために・・・」



 「そ、そのへんで・・・」


 「・・・失礼、興が乗ってついつい話し過ぎてしまいました。まあ、楽しい夢だとそんな感じの夢を見ていますね」



 私は夢の話を楽しそうにするシオンを見てドン引きしていた。異世界に来てからこの四年間ほぼほぼ毎日一緒にいて男の影が一切ないから疑問に思っていたのだ。


 なんで美人で男から人気があれだけあるのに男の影がないのだろうか?って。ひょっとして恋愛対象が実は女だとか、性的な意味では女しか愛せないとか、何か特殊な性癖でも持っているんじゃないか?とか疑いを持ったことも実はあったのだ。



 どうやらシオンの恋愛対象の性別は男だったようだ。私は少しホッとしていた。この四年間の間に色々とあったのだ。


 そう、朝目を覚ますと隣で寝ているシオンの息が荒くて何故かモゾモゾと不自然な動きをしていることとか何度かあったのだ。


 当時まだ純粋だった私は朝からベッドの中で自慰に耽っているシオンに普通に聞いていた。



 「おはよ、シオン。ゴソゴソして何してるの?」


 その時のシオンの不自然な返答を覚えている。ビクッ!!!と明らかに不自然に動きが固まりぎこちない表情と声でしばらく経った後にこう返事が返ってきたんだよ。



 「朝の運動をしていました。おはようございます」


 「そうなんだ?僕もしようかな?やり方教えて」



 当時の私は残酷だった。オナバレした直後の相手にやり方を教えろと聞き返したのだ。しかも悪気は一切ない。100%純粋な気持ちで聞いていた。聞かれたシオンからしたらまるで悪魔の質問のように感じたことだろう。


 思えば悪いことをしたなと思う。しばらく経った後で何をしていたか知ったときは少しだけ動揺した。オカズは何なのだろうか?ひょっとして私がオカズだったのだろうか?と疑心暗鬼になった時期もあったくらいだ。


 良かった。数年越しにようやく疑問が解消されたよ。オカズは夢で見る好きな相手だったんだな。私がオカズじゃなくて本当に良かった。シオンのことは大好きだがそういう好きじゃないんだ。あくまで家族としての好きなんだよ。口には絶対出さないけどお姉ちゃんだと思ってるしさ。



 しかしなんだ、夢で見る大好きな相手のことをずっと大切に想ってオカズにしてるって・・・どう思えばいいのか判断に悩むな。



 良く言えば前世から続く純愛。


 悪く言えば・・・夢の中の実在すらしない相手に二十歳を越えて何年も経つのに本気で懸想する痛い女。



 ひょっとしてシオンは・・・いわゆる喪女というやつなのだろうか?その時の私はそんな疑問を感じたよ。



 そしてその時の私は迂闊な発言をしてしまった。あのときのシオンは怖かったな。いや、殺されるかと思ったよ。



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