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勇者編③墓参り


 私は馬鹿そうな見た目をしていた貴族の墓参りに来ていた。



 シオンから亡くなったことを聞いた後、墓参りをしたい旨伝えたら案内してくれたのだ。貴族の墓はそれとはわからない場所に隠されていた。


 正確には墓とも呼べないだろう。隠された遺体安置所と言った方が正確かもしれない。貴族の遺体は石造りの箱の中に納められ、城の高層階の目立たないとある部屋にそっと隠されていた。



 「シオン・・・これがお墓なの?」


 「ええ、そうです」



 墓には何もなかった。お供え物は無かったし故人を偲ぶような花など一輪も飾られていなかった。供養を願うような意味合いを持つ飾りは何もなかった。


 あるのは何も処理をされていない少し腐りかけている遺体と、それを納める石の箱と箱の中に敷き詰められた臭い消しの効果のある薬草だけだった。そしてその石の箱自体も周囲から見えないように隠されていた。上に大きな汚れた布を何枚も重ねられて隠されていた。


 私にはそれが故人を偲んで埋葬されたようにはとても思えなかった。何かまるで酷い罰を死んだ後も受けている。そんな風に感じた。



 「これ・・・他のお墓と違うと思うんだけど、貴族はこういう風に埋葬されるのが普通なの?」


 「・・・これは特別なのです」



 「・・・特別?」


 「はい」



 「この貴族は・・・何か悪いことをしたのかい?これでは供養も何もされていないように見えるんだ。野晒しとまでは言わないけど・・・もっと他に何かないのかなって・・・思うんだけどさ」


 「・・・特に何か悪いことをしたという訳ではありません」



 「そうなの?」


 「はい、これは・・・自ら命を絶った者に対する供養の仕方なのです。全員に出来る訳ではありませんが・・・この貴族は慕われていましたし幸い余裕もありました。だからこの方法になったのです」



 「その言い方だとこれが通常より良い埋葬方法だという風に聞こえるんだけど・・・?」


 「その通りです」



 理由がわからない。そりゃあそこらへんに適当に捨てられるよりはマシではあるだろうが・・・城の高層階の目立たない部屋に隠されていたら場所を知らない人はお墓参りも出来ない。なんでかな。


 まあ、異世界の風習にケチをつけても仕方ない。せめて花くらい供えて帰るか。一度少し会話をしただけでそこまで仲良かった訳でもないしな。この世界に来てすぐの頃ならもうちょっと感傷的になったかもしれないが、誰かが死ぬのにはもう慣れている。最低限のことをしてやったら帰るか。この美少女勇者に花を供えて貰えるんだ。きっとあの世で喜ぶことだろう。



 「シオン、お花をお供えしていいかい?意味は無いけど気分的にそれくらいしてやりたいんだ」


 「ダメです。それは許されていません。故人を偲ぶのなら祈りだけを。花はダメです」



 やっぱり実は罰なんじゃないか?この埋葬方法。疑問に思いながらも私は少しの時間祈りを捧げて墓を後にした。




・・・・・・・・・・




 何となく感傷的な気分になっていた私はシオンとあれこれ話をしていた。



 「あのお墓ってさ・・・隠してるの?」


 「はい、隠してます」



 「誰から?魔王軍?」


 「・・・わかりません。昔からの風習なのです」



 「昔から?」


 「はい、私が生まれた時には既にありました。一説には何でも自殺を選ぶほど追い詰められた者がもう二度と苦しむことのないように・・・永遠の眠りにつけるように遺体を隠すのだと言われています」



 「なるほど、そういえばこの世界って生まれ変わりとかそういう考えはあるんだっけ?」


 「・・・生まれ変わりですか」



 「うん、死んでもまた全く別の人間として生まれ変わって新しい人生を生きるってこと。あと、なんだろ・・・これは余談だけどさ。夢でみた話では前世の記憶を持ちこしてその記憶を元に新しい人生で活躍するみたいな話が流行ってたんだよ。そして生まれ変わりの際に記憶とは別に神様に特別な力を与えて貰うんだよ。なんかさ・・・想像すると夢があると思わない?そういう特別な能力や前世の記憶を持ち越すってさ。そういうのをさ、神様が生前に善行を積んで亡くなった人に特別に与えてくれた転生特典って言うんだったかな」


 「転生特典・・・死んでも前世のことを覚えているのですか?」



 「うん、夢で見たあくまで作り話だけどね。たまに思うよ、そういう転生特典があればこの酷い状況を少しはマシに出来るのかなってさ」


 「無理です」



 「え?」


 「能力はともかく。仮に前世の記憶を覚えていても・・・マシになることなんて何一つありません」



 「・・・う、うん」


 「それは特典なんかではありません。むしろ逆です。罰です。罰なのです。仮に前世の記憶を覚えている存在がいたとしたらその存在は善行を積んだのではありません。きっとその存在は赦されない罪を犯したのでしょう。一度死んだくらいでは決して赦して貰えない罪を犯したのです。だから罰を与えられたのです。きっとそうです」



 そう語るシオンの表情はいつもよりも酷く暗かった。まるで何かに追い詰められたような昏い目をしていた。見ているだけで悲しくなるような悲痛な目をしていた。


 シオンの口調は淡々としていたが厳しかった。冗談でも反論することを許さないくらいの断定口調だった。


 それはまるで・・・シオン自身の実体験から得た感想を語っているようだった。



 記憶を持ち越すのは特典などではなくて罰なのだと。シオンは語っていた。




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