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勇者編②罪を抱える者たち


 思考を続けながらも凱旋は続いていた。



 帰ってきた兵士たちを迎える街の人たちの顔は悲喜こもごもだった。


 最初は皆が皆悲痛な顔をして何かを堪えるような顔をしているのだ。


 その後、大切な人が生きていることがわかれば喜びに変わる。そして大切な人が死んでしまったことがわかると悲しみの顔に変わる。


 そんな光景が毎週毎週繰り返されていた。



 そして、今日は戦争に出なかった王様が私と兵士を出迎えてくれていた。



 「うむ、よく戻った」


 「ああ、ただいま、王様。今日も無事になんとか生き残れたよ。忙しい中出迎えてくれてありがとう」



 こういうときはさすがに私も真面目に答えていた。と言っても敬語は使わなかったが。使っていた時期もあったのだが不要と言われたのだ。似合わないし異世界の者に必要以上の遜った態度は求めないと言われたのだ。以来、最低限の敬意は示しつつ気楽に会話している。


 私は私なりに王様のことを尊敬していた。プライベートでの付き合いの時は容赦なく辛辣に当たっていたがあれは私なりの甘えだった。王様は私と一線を引いた付き合いはしているものの基本的には優しかったし、甘やかしてくれていた。


 私はこれでも王様のことが好きだったのだ。あくまでシオンがダントツの一番ではあったが、二番目に王様が好きだった。


 ちなみにプライベートで辛辣に当たっていたのは甘えであると同時に考えもあったのだ。


 いつか私は戦いの中で死ぬだろう。かつて最強と謳われた勇者も軍団長と相打ちだった。今戦っている軍団長には勝てるとは思うが、隠した能力がある可能性もあるし油断はできない。それに仮に倒せたとしても他にも軍団長はいるのだ。何人いるかは知らないがいるのだ。


 それにおそらくまだ魔王も生きている。死んでいると嬉しいがあくまでそれは希望的観測だった。魔王を倒したものはいないのだ。死んだという話もないのだ。


 私が魔王を倒せるとしたら自爆覚悟の相打ち狙いでものすごく運が良ければ・・・だろう。その時生きていられるとは思わない。そんなにこの世界は甘くできていない。


 それに、仮に何かの奇跡で生きていたとしても魔王軍を殺す役割さえ果たせば死ぬつもりだった。私は自分のことが大嫌いだった。役割さえなければ、シオンや王様を傷つけなければいつ死んでも良かったのだ。


 頭のおかしいフリをしてオーガの生首でお手玉をしたり、王様の盆栽を全滅させたりしたのは言うならば自分が死ぬ準備の一つだった。


 いいやつが死ぬと悲しい。辛い。思い出すと泣きたくなるだろう。


 だがそれが厄介で嫌なやつなら?厄介で嫌なやつが死んだら嬉しいだろう。厄介で嫌なやつが死んだことを思いだすと嬉しいだろう。だからだ。私は積極的に他人に嫌われるようなことをしていた。私が死んだことを悲しむやつなんて居ない方が良かったんだ。


 シオンと王様には私がそんな考えでいることは完全にバレているような気がしていたが、それでも私はやめる気はなかった。幸い街の住人からは既に嫌われていた。


 凱旋の中、私と目を合わせる街の住人はいない。皆が皆、私を触れてはいけない相手のように視線を逸していた。狙い通りだ。私のようなクズへの対応はそれでいい。死んで喜ばれる位で丁度いい。丁度いいんだ。一抹の寂しさが無いとは言わないがそれで良かったんだ。



 私はそんなことを考えながら城に戻っていた。




・・・・・・・・・・




 城に戻ると侍女や近衛兵や貴族などがいるが、不思議と城の住人は誰も私を嫌わなかった。私が無礼な振る舞いをしても常識外れの振る舞いをしてもワガママを言っても・・・嫌われなかったのだ。


 ただ、何かをやらかすたびに悲しそうな目をしてこちらを見ていた。



 一人くらいは典型的な馬鹿な貴族もいるんじゃないか?そんなことを思っていた時期もあったんだ。だから私はわざと貴族に喧嘩をふっかけたりもしてみた。


 だが、誰も挑発に乗らなかったし、皆が皆酷く冷静だった。そしてある日のことだ。面と向かってこう言われた。



 「勇者殿、どうしてそのような振る舞いをされるのかなんとなくはわかる。だが、城内ではその必要は無い。街でするのは止めないが、城内でそのようなことをする必要は無い。おそらく・・・城の中の者は皆勇者殿の内心を推察している。やる意味がない。それに・・・仮に推察通りの考えが無いにしても我々には勇者殿に怒るような資格などない。我らは最低の罪人だ。どうしようもない罪人の集まりだ。自分たちだけで何とかしなければいけないのに救いを求めて勇者殿をこのどうしようもない絶望に満ちた世界に連れてきてしまった罪人だ。勇者殿が何をしても勇者殿を嫌う資格など我々には無いのだよ。民に対して有害ならば何をしてでも勇者殿を取り除くが、勇者殿は有益だ。やる必要のない務めを自ら果たしている。これでも我らは勇者殿のことを尊敬しているのだ。そしてそれ以上に罪悪感を持っている。故にもうやめなさい。それは意味がない。わざわざ嫌われるようなことをする必要は少なくとも城内では無い・・・身体と心を厭いなさい、勇者殿」



 私が喧嘩を吹っかけた馬鹿そうな見た目の貴族はこちらを冷静に見据えて淡々とそう語ったのだ。



 悔しいことにぐうの音が出ないほど図星を突かれていた。その時の私はわざと不機嫌そうなふりをしてその場を立ち去った。そのうちまた会うことがあれば話をするのも良いかもしれないな。


 ひょっとしたら私が死ぬまでの短い期間だが友達になれるかもしれない。そんなことを思ったりもした。






 馬鹿そうな見た目の貴族は数ヶ月後自殺した。


 理由はわからない。ただ、ふとした時にシオンに聞いたらそう言われた。


 ああ、もう本当にどうしようもないな。そんなことを思ったよ。


 

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