勇者編①殺意
毎週一回の戦争は続いていた。毎回死者は出ていたが、毎回撃退に成功していた。
そして私は魔王軍を殺せば殺すほど少しずつだが強くなっていった。経験値を獲得しているのだろう。殺せば殺すほど強くなった。
私のヒャッハー真拳とメスガキムーブの切れの良さは徐々に上がっていた。今では全力のアヘ顔を見せつけながらオークを素手で縊り殺すのも余裕だった。
槍ももちろん使ってはいたが、なんかこう素手だとブチ殺して蹂躙している感があって好きだった。テンション上がるんだよ。まあ、あくまで雑魚相手だけどね。
さて、メスガキムーブの切れの良さが上がった代償を私は払っていた。
端的に言うと・・・軍団長が私のアへ顔を見かけると攻撃を仕掛けてくるようになったのだ。それもほぼ毎回。
たまにお休みもあったが、割と毎回毎回殺し合うようになっていた。それならアへ顔しなきゃいいじゃんって?馬鹿だなあ・・・戦争なんて正気じゃやってられないんだよ。アヘ顔して脳内麻薬ガン決まりにしてテンション上げないと戦争なんてやってられんのだよ。あるいはヒャッハーしないとやってられんのだよ。
軍団長は再生能力持ちだった。ひょっとして吸血鬼なのだろうか?槍で身体を傷つけてもほぼ一瞬で傷が回復していた。
まあ、まともに与えれた攻撃はろくになくかすり傷程度なのだが。それでも普通の人間なら治るのにそれなりに時間はかかる。だが、軍団長はほぼ一瞬で傷が回復していた。
見た目は人間なのに回復能力持ちか・・・吸血鬼かあるいは何か特殊な能力を持っているのだろうか?
見た目は単なる綺麗な女性に見えるんだよな。30代後半くらいの綺麗な女性だ。化け物みたいな気配を放ってはいるものの見た目だけは普通の人間に見えた。
ちなみに軍団長はフード付きのコートのようなものを羽織っていた。殺し合いが激化するとコートの前を全開にして戦っていた。
前言撤回だ。単なる綺麗な女性じゃなかったわ。見た目だけ綺麗な変態だったわ。
軍団長はコートの下にピッチリ密着したラメ入りのレオタードのようなものを着用していた。ボン・キュッ・ボンでスタイルが良くて見た目はそそるのだが、なんというか前世でこんな人を街中で見かけたら私は回れ右をしたことだろう。ちなみに脚は完全に生脚を丸出しでハイヒールを履いていた。股間のあたりは容赦なくエグい角度のハイレグになっていた。激しく動くと中身の具が見えそうだったよ。
なんだろう・・・エロゲーかな?そんな感想を抱いたよ。
まごうことなき変態の着用する衣装を軍団長は着ていた。全裸にコートよりはマシだったが、ラメ入りのハイレグレオタードにコートも中々の変態具合だった。
顔は綺麗だ。スタイルもいい。胸は大きかった。腰も細かった。ただ服装は変態だった。
髪は肩まで伸ばした総白髪だった。
なんだろう・・・苦労してるのだろうか?少しだけ青みがかっている気がしないでも無いが総白髪だな。
吸血鬼はこういう髪の色が普通なのだろうか?まあ、苦労したから白髪が増えるなんていうのは人間基準の話だな。特に気にしなくて良いだろう。
私は軍団長と殺し合いながらそんなことを冷静に考えていた。
それにしても・・・強いことは強いのだが。あまり戦力の拮抗した相手と戦い慣れてないような印象を受ける。肉体のスペックは私と互角かそれ以上に高いのだが、完全に能力を使いこなせているような印象を受けない。あまり戦闘経験はないのかもしれないな。何回も殺し合いをしているうちにそんな印象を抱いていた。
身体も細い。見た目だけならあんまり戦いを生業にするような見た目じゃない。まあそれは私も同じなんだけどな。なんせ美少女だしさ。どこに出しても恥ずかしくない自慢の美少女だしさ。なんで私は男にモテないんだろうか?不思議でならない。
さてさて、本日の殺し合いも決着は着かなかったが・・・順当に行けばそのうち殺せるな。私の力は殺すことで経験値を得て徐々に増している。そして少しずつ軍団長の戦い方にも慣れてきていた。片手には刀。もう片手は暗器だったり、飛び道具だったりまるで忍者みたいな戦い方を軍団長はしていた。
こいつは簡単には殺さずに情報を抜き出そう。なんせ軍団長だ。色々と知っていることも多いだろう。魔王を殺すためには情報がいる。なんせ魔王は強いらしいからな。弱点だ。弱みだ。不意をつく方法だ。なんでもいい。なんでもやる。魔王を殺すためなら何でもしてやる。
全身嬲って拷問にかけて苦しめて苦しめて苦しめて命乞いをさせて命乞いをさせて命乞いをさせて、絶望の底に突き落とした上で嬲り殺しにしてやる。
ああ・・・なんせこいつはおそらくシオンの妹を攫って殺した相手なんだ。その上こんなゴミみたいな私に、とっとと死んだほうがいい私に、親切に優しくしてくれた兵士たちを殺し続けた魔王軍を指揮していたやつなんだ。この国の人間を、王様を苦しめ続けている相手なんだ。
ただでは殺さない。決して楽には殺さない。寸刻みにしてやる。全身穴だらけにしてやる。泣き叫んでも命乞いをしても何をしても許さない。大切なものを全て奪ってやる。奪い尽くしてやる。
絶望の底に突き落としてやる。殺してやる。必ず殺してやる。楽しみだ。楽しみだ。どんな顔をして泣き叫ぶのか楽しみだ。必ず殺してやる。
同格との戦闘経験が少ないのならうまくすればやれるだろう。ああ、楽しみだ。こちとら、ゴブリン以下の雑魚みたいな存在の時から格上相手に何回も何回も死にかけながら殺し合いを続けて来たんだ。
格上殺しは慣れている。戦う相手はいつも私より格上だった。戦力差があろうと死ななければ諦めなければいつかは殺せる。私はそれを信じているし知っている。必ず殺してやる。恨みだ。恨みがある。受けた恨みは必ず返してやる。魔王軍は皆殺しにしてやる。
肉体のスペック頼りのやつなんかに負ける気はしない。具体的な算段はまだないが・・・じっくりだ。じっくりと準備をして強くなって殺してやる。前例はあるんだ。勇者が軍団長を殺した前例はあるんだ。
魔王を殺した前例は無いが軍団長はある。なら殺せる。殺せるさ。
ああ、まずは一人目だ。あるいは一匹目だ。そうすればまたわかることもあるだろう。ああ、楽しみだ。どんな悲鳴をあげてくれるか実に楽しみだ。せいぜい豚みたいな悲鳴をあげて私を愉しませてくれると嬉しい。
なんせ相手は残虐非道の血も涙もない魔王軍だ。何をしても私の心は痛まない。何をしてもな。
・・・・・・・・・・
私は兵士たちと街へ凱旋していた。
と言っても大したことではない。いつもの戦場と街の距離は近い。戦いが終わり死んだものの処理をしたら帰る。それだけの話だ。
だが、街の人間は毎週毎週行われることだというのに、飽きもせずに帰ってくる者たちを待っていた。
自分の大切な人が生きて帰ってくることを悲痛な顔で祈りながら待っていた。
この世界は常に死が側にある世界だった。昨日仲良く会話をした人間が次の日にも生きていてまた話を出来る保障なんて存在しない世界だった。
人はいつ死んでも不思議ではなかったのだ。
例えばだ。食料事情は厳しかった。毎年毎年、餓死する者が一定数はいた。
王様も努力はしているのだろう。だが、必ず毎年餓死者は出た。私も努力をして農業チート出来ないか試してみたりもしたが、付け焼き刃の知識ではほぼ何の役にも立たなかった。
少しだけ貢献できたこともあるのだ。二毛作を提案してほんの少しだけ食料事情はマシになったのだ。だが、餓死者の数は何故か減らなかった。
食料の奪い合いでの殺し合いこそ起こらなかったものの、毎年餓死者は出ていた。そして、誰が餓死するかを最終的に選ぶのは王様の役割だった。家族で誰が死ぬかを決めきれなければ王様が指名して死ぬ相手を決めていた。そんなことを王様はずっとずっと続けていた。
それを知ったときは思ったよ。
ああ、最悪の役割だなって。




