20話 循環
城の屋上の地面に転がっていた騎士達の死体がまるで地面に溶けるかのように消えてなくなった。
そして、そのことに目を取られた一瞬の間にだ。目の前には新たな騎士達が地面からゆっくりと湧き出していた。新しく湧き出していたんだ。
「おい・・・まさか・・・」
俺は確認するかのように近くにいる黄色の弱い騎士をなりふり構わず無理やりぶち殺した。死んだ騎士の死体は地面に転がり溶けていった。
そして、予想通り目の前には新しく湧き出している黄色の騎士の姿があった。
「・・・無限湧きかよ」
最悪だった。持久戦は不利。勝ち目はゼロだ。騎士をいくら殺してもおそらくは無限に湧くだけだ。意味がない。
かといって・・・眼の前に数百人いる一人でも雑魚ではない騎士達のいるエリアを乗り越えてドライのいる場所までたどり着くのは用意ではない。
その上、ドライ自体が間違いなくこの場で一番強い。たどり着いても容易に倒せるような相手ではなかった。むしろ返り討ちに合うだけだろう。
だが、だがだ、勝ち目が薄いからどうした。急所さえ穿けば殺せる。殺す。勝ち目が薄いから諦めるような段階はもうとっくの昔に過ぎている。何が何でも殺す。そして死ぬまでにドライから情報を引き摺り出す。あわよくばあの糞女と共倒れしてくれたら最高だが・・・あくまでも第一目標はドライだ。
俺は木と化したドライの隙を伺いつつ騎士と戦い続けていた。何体も屠ったが、屠った端から新しく騎士は生み出された。まるでこの城の中で生と死の循環システムが完成しているようだった。駄目だ。騎士を殺し続けてもやはり意味がない。
騎士から血も吸っているから俺の強さは増している。だが、全てを飲み干すほどの余裕はない。そんなことをしていたらあっという間に袋叩きにされて終わりだ。首筋に噛み付いて一口飲む程度。その程度で奪える力は微々たるものだった。
決め手がない。ドライを殺す決め手がない。このままでは擦り減った魔軍が全滅したら俺たちは終わりだ。気づけばだいぶ数は減っている。残りは5000程度だろう。さて、全員死ぬまでに勝てるだろうか。
目の前では木と変化したドライが木の枝をまるで触手のように振るっていた。木の枝は数百本近くあるだろうか。それらが全て不規則に振るわれていた。
そしてそのたびに容赦なく魔軍が蹴散らされていた。ゴブリンは一撃だ。オークも数発で沈んでいた。オーガはなんとか耐えていたな。
ふう、やばいな。こちらに隠し玉は何かあるのだろうか。カーネルは未だにあの女の前で沈黙を守っている。表情に焦りは見えない。何かあるのだろうか?
・・・・・・・・・・
「ヤハリ テゴワイ」
カーネルが淡々とそう言っていた。視線はドライと騎士たちの軍勢を見つめていた。そしてチラリと女の方を見た。あの女は静かに頷いていた。
目を疑った。あの女は右手に持った炎の短剣で自らの左手を手首から切り落としていた。そして、その手首を掴むと・・・ドライの方に向かって放り投げた。
爆発した。正確には膨大な炎が吹き出していた。手首がまるで爆弾だったかのように激しく炎と化していた。そして、カーネルがあの女の治療をしてすでに失われた左手は再生していた。
そして、女はまた自らの左手を切り落としていた。再び放った。また爆発した。再生する。切り落とす。投げる。爆発する。再生する。切り落とす。投げる。爆発する・・・酷いな。すごい威力だが酷い。
やっぱりあの女は狂ってるな。頭がまともなら取れるような作戦ではない。再生した端から自分で自分の手首を切り落として放り投げている。表情に変化はない。狂ってるな。やはりあれはもうだめだ。
確信したよ。初めてあの女にあったときに四肢を切り落とされていた上に全身大火傷を負っていたが、あれはドライの攻撃で受けた傷ではない。あの女がドライを攻撃した際に自分で切り落として爆弾として使っただけだ。全身に負った火傷も同じだろう。
思えばドライの放つ攻撃に火傷を起こすような攻撃はなかった。全てあの女の自爆だ。
なるほど、ドライがおぞましい女と言う理由もよくわかるよ。最悪だ。触れることすらしたくないのもよくわかるよ。
カーネルは僅かだが痛ましそうな耐えるような表情をしていた。別の作戦が取れるなら取りたかったのだろう。誰かが傷つくことを前提に作戦を立てることを喜ぶような男ではない。不本意なのだろう。
だが、これで戦いは再び互角に近くなっていた。先程までは明らかに押されていたが、無限に再生する手首の爆弾で騎士たちは容赦なく散っていた。そしてドライ本体にもダメージを与えていた。
致命傷ではない。だが、本来なら木は火に弱い。効かないはずが無いのだ。再生はしているもののダメージ自体は与えていた。チャンスを待とう。観察しつつチャンスを待とう。人間のときは心臓が弱点だったが、木の急所はどこだ?それを探さないといけない。




