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18話 取引


 「ワタシ サキニ イク」


 カーネルは先に城に行っていると言いあの化け物糞女の後を追った。



 そして、俺の目の前には空虚な表情をしているヨナと意識を失っているアリシアと憎悪の目で燃える街を見ているテッドがいた。




・・・・・・・・・・




 「ヨナ、取引をしよう」


 俺は虚ろな目をしているヨナに話しかけていた。反応はなかった。



 「ヨナ、取引だ。取引をしないのならアリシアもテッドも死ぬぞ?」



 ヨナの肩がびくりと震えた。相変わらず家族を責められることには弱いらしい。



 「ヨナ、家族を殺したいのならそのままでいろ。まあ、お前が話を聞かないのならテッドに話をするよ。今のお前よりはよっぽどマシな目をしているからな」



 テッドは俺を睨みつけていた。四肢の腱を切断されながらも愛する姉に酷いことを言う俺を睨みつけていた。憎悪と殺意を感じた。悪くない。


 全てを諦めて伏せて死んでしまうよりは憎悪の方がまだマシだ。死ねば何もないが生きてさえいれば過ちを犯してもやり直せる可能性はある。


 死にたくなるような後悔もある。だが、やり直せる可能性はある。どれだけ低い可能性でもゼロではないのだ。死ねばゼロだ。何もない。何もないんだ。



 「選択肢をやるよ。選べ。時間はない。とっとと選べ」



 「一つ、この街から俺とお前ら3人で脱出をする。地図はこのあたりのものしかない。次の街がどこにあるのかはわからない。たどり着けるかは運次第だ。そして、水と食料は一切ない。全て燃えてしまったからな。水も食料もない。まあ、3日で死ぬだろう。街と街の間には化け物もいるみたいだしな。だが、最善は尽くそう。おそらくは俺も含めて全員死ぬがな」



 「二つ、俺たちの所属する組織に入れ。言っておくがこれは最悪の選択肢だ。おそらくはろくな目に合わないだろう。俺も入会するときに言われたよ。ろくな目に合わずに死ねることを祈れとな。今なら理解できるよ。確かにろくな目に合わなかったな。いいこともあったさ。だが、この街に来て確信したよ。あの女の言葉は正しかったとな。言われたときは何言ってるんだこの頭おかしい女?くらいに思っていたが納得したよ。組織に入るとおそらくはお前たちは酷い目に合うだろう。だが、この場は生き残れる。最悪の選択肢だが生き残れる。おすすめはしない。おそらくはこれは最悪の選択肢だ。おすすめはしない。だが、入会するならできる限りの面倒は見てやるよ。おすすめはしないがな」



 「三つ、俺がこの場でお前ら3人を殺してやる。安心しろ。これでも何かを殺すのには慣れてきた。痛みも恐怖も感じないうちに即死させてやる。あるいはお前らの血を一滴も残さず吸ってやる。お前らに思い残すことがあるのならば俺はその意志を引き継いでやる。約束する。血を吸うことは魂を受け継ぐことだ。約束する。魂の約束だ。嘘はつかない。ちなみにこれが一番オススメの選択肢だ。おそらく一番苦しまなくて済むだろう」



 気づけば俺はあの狂った女と同じようなことを言っていた。嫌な目にあいたくなければとっとと死ねか。言われたときは訳がわからなかったが、あの女はこんな気持ちだったのか。



 なるほど、何もかも嫌になるわけだ。自分で言ってて最悪の気分だな。ああ、最悪だ。救えるなら救ってやりたい。別にこいつらに不幸になって欲しいわけじゃない。四肢を切り落とされたことの恨みはない。もうその件は和解した。逆に借りがあるくらいだ。出来ればこいつらには幸せになって欲しい。



 だが、選択肢がない。幸せになれる選択肢が用意されていない。あるのは死か、死よりもおぞましい生だけだ。


 呪いの武器という不幸を自分にも周囲にも撒き散らすものを受け入れて、苦しみながら生きるという糞みたいな選択肢しか俺にもこいつらにも残されていなかった。



 ああ、あの化け物糞女は大嫌いだがこれだけは共感できるよ。世界は絶望に満ちているな。本当にろくなことがない。あの糞女はいつか必ず殺してやる。チャンスがあれば殺してやる。いくらなんでも許せない。



 吸血鬼も糞だ。人の命や尊厳をもてあそぶ糞だ。だが、あの聖女を名乗る化け物糞女はそれ以下の糞だ。殺す。必ず殺す。カーネルは説得しよう。あるいはいないときに殺そう。カーネルは優しい。仲間としてあの女に優しくできるならばそうしてやりたい。



 だが、あの女はもうとっくの昔に人としての一線を踏み越えていた。もうあれは人ではない。触手が生えているからというわけではない。心だ。心がもう人間じゃない。あれは化け物だ。



 おそらくは何か不幸な出来事があったのだろう。人としての倫理感や心がズタズタになるような出来事があったのだろう。カーネルは言っていたな。昔は本当に聖女に相応しい素晴らしい人物だったと。何かがあったのだ。あんな化け物になってしまう何かがあったのだ。



 あの女は2つの武器を見せていた。一つは触手。もう一つは炎だ。



 呪われた武器が2つか。1つでも厄介な呪われた武器を2つか。ああ、だから狂ってしまったのかもな。1つでもろくでもない結果を齎す武器が2つだ。さぞ、酷い目にあったんだろうさ。無理もない。ある意味、同情するよ。だが殺す。同情はするが殺してやる。



 色々と考えていたら、ヨナの目に力が戻っていた。そろそろ返答を貰えそうだな。



 俺はヨナが返答するのを静かに待っていた。




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