12話 敗戦
結論から言うと俺たちは負けた。
俺は吸血鬼に女と思われたまま血を吸われた。抵抗して銀の串でアイツの身体を刺そうとしたが無駄だった。
浩平は死んだ。
必死に銀の串をアイツの身体に刺そうとし続ける俺の無駄な抵抗を嗤いながら・・・俺の方に向かってゆっくりと手を伸ばすアイツの背中に・・・浩平は杭を持って突っ込んで体当たりをした。
背中から胸元に杭が突き抜けた。殺ったと思った。
胸に穴が開いている状態でもアイツの表情や口調は変わらなかった。
平然とした顔でこういった。
「無駄な抵抗をするものだ。だが、エモノが抵抗するのは悪くない。実に良い。大抵のエモノはすぐに諦めて動かなくなるからな・・・他にはどんな方法でワシを愉しませてくれるんだ?ホッホッホ・・・もっと色々と試すといい」
俺たちの必死の抵抗はアイツにとっては単なる娯楽だった。
気づけば俺は壊れたように叫びながら串を刺し続けていた。
もう頭の中に作戦も何もなかったと思う。
ただただ目を瞑りながら叫び声をあげながら腕を振り続けていた。
「つまらんな」
ブンッという音の後にドサリという音がした。音のした方を見るとそこには不思議なものがあった。本来はそこにあるはずのないものだった。
人間の脚のようなものが2本落ちていた。
そして人間の腰の部分のようなものも1つ落ちていた。
ヒューッヒューッという苦しそうな吐息が聞こえた。
吐息のする方を見回すとそこには浩平がいた・・・上半身しかなかった。
切断面からは内臓が溢れ落ちていた。
多分、大腸とか小腸のあたりの部分だろう・・・素人目にも、もう何か処置をしてどうにかできるような状態ではなく・・・浩平の身体は取り返しのつかない状態になってしまったことだけはわかった。
・・・わかってしまったんだ。
「・・・逃げろ」
残り少ない生命を振り絞るような声だった。
あんな状態、俺ならもう声を出せる自信はない。即死してもおかしくない状態だった。
俺の方を見つめた浩平はなんとも言えない表情をしていた。何かを諦めたような・・・あるいはずっと抱えていた苦悩からようやく解放されて救われたような表情だった。
「・・・逃げろ」
浩平の二度目のその言葉でスイッチの入った俺は、まだぎりぎり生きている浩平の最期を見届けることすらできず・・・ただ一人の親友を置き去りにして逃げ出した。
弱い自分が心底情けなかった。
泣いていた。気づけば俺は泣き叫んでいた。涙はポロポロと流れ落ち止まらなかった。
「・・・あとは頼んだ」
自分の情けなさに泣き叫びながら必死に逃げ出す俺の背中越しに、浩平のそんな声が聞こえたような気がした・・・。




