11話 説教
「やあ、お帰り」
「ドミさん、どうしてここに?」
何故かドミさんがいた。テーブルの上にはグラスがいくつか置いてあった。果実水を飲みながらイスに座り待っていたのだろう。非常にリラックスして一人で寛いでいるように見えた。
「依頼の完了を確認したから来たんだよ」
「依頼の完了?」
「そうだとも。聖女の救出お疲れ様だったね。本当に良くやったよ。皆無事で良かった。ホッとしたよ」
「・・・ありがとうございます」
出発のときもそうだったが気にしてくれていたらしい。まさかわざわざ見に来てくれるとは思わなかったが。基本は傍観者とか言ってた割にフットワーク軽いな。
「本当に無事で良かったよ。安心した。報酬は既に振り込んで置いたからね。後で確認して・・・そうだな、たまには気分転換でもして楽しむんだよ。仕事ばかりは良くない。休むのも遊ぶのも大事だよ」
「はあ」
相変わらず心配性だな。まあ、心配してくれるのはありがたい話だ。そういえば・・・
「ドミさん、ちょっと相談があるんですが」
「うんうん、なんだい?」
「地図は持ってませんか?出来ればこの街から元いた所へいたるまでの地図が欲しいんです」
「あるよ?欲しいのかい?」
「あるんですか!はい、頂けたら助かります」
「これだね」
ドミさんは世界地図のようなものを俺に見せてくれた。そしてとある場所を2点順番に指で指した。
「今はここだね。そして元の場所はここだ」
「・・・遠いですね」
地図を見たが5000キロ以上は離れていそうだ。これ、一週間やそこらで移動できる距離じゃないな。何日かかるんだ?そもそも迷ったらどうしようもない。水や食料が尽きたらおしまいだ。
「実は・・・この街で助けたい人が三人いるんです。俺の元いた所に連れて行って保護してあげたいんです」
「ふむふむ、だが移動は無理だよ。危険地帯もゴロゴロある。君はともかく・・・ただの人間には厳しすぎる」
「そうですか・・・ちなみに危険地帯って?」
「ここと同じように吸血鬼がまずいるね。次に化け物。なんだろな・・・深海の生き物みたいな不定形の気持ち悪い触手のいっぱい生えた存在に遭遇することがあるんだよ。そいつらは極めて危険だ。そこらへんの吸血鬼より危険だよ。なんせ何でもかんでも食べてしまうからね。吸血鬼も例外ではない。全て食べてしまう」
「そんなに強いんですか?」
「強い。詩音ですら戦いを避けて逃げるレベルだ。つまり・・・そこらへんの吸血鬼よりは間違いなく化け物だよ。遭遇した時点で運がなければ終わりだ。少なくとも戦って勝てるようなもんじゃない」
「絶対に遭遇したくないですね」
「うん、仮に遭遇したら全力で逃げなさい。じゃないと食べられてしまうからね」
「ちなみにドミさんなら?」
「私はそもそも足で出歩かないからね。腕輪の移動機能で移動するからそもそも遭遇しない」
「なるほど」
ロマと同じく基本的には引きこもりなのか。まあ、わりと遭遇率は高い気がするが、あれかな。興味のあることだけ急に積極的になるタイプの人なのかな。
「なのでね、地図はあげるけど。徒歩で移動するのはやめなさい。とても危険だからね。少なくとも私は勧めないよ。いいかい?忠告したからね。私は勧めないからね」
まあ、こんな話を聞いたら徒歩の移動をしようとは思わないな。試したらおそらく保護したい三人は食われておしまいだ。
「この腕輪は余ってませんか?3個ほどあると助かるのですが・・・」
「ああ、あれならいくらでもあるよ。欲しいのかい?」
「はい、3個ほど頂けたら助かります」
「でも、どうするんだい?前あげたの壊れたの?」
「いえ、そうじゃないんです。先ほど伝えた通りこの街から助け出したい人が三人いるんですよ」
「なるほど、でもそれはおすすめできないね。腕輪を使えるのは組織の人間だけだ。だからあげても意味はないね」
ダメ元で聞いてみたがやはりそうなのか。それならば。
「そうなんですね。組織に入る条件は・・・」
「呪いの武器を受け取ることだね。だからおすすめはしない・・・理由はわかるだろ?」
ドミさんの目は真剣だった。
「その・・・呪いの武器を手放す方法はないですよね?」
「無い。死ねば呪いの武器からは解放される。それは君の本意ではないだろう?いいかい、死んじゃ駄目だ。色々とやりたいこともあるだろうけどね、まずは安全を優先しないとだめだよ。まずは自分の安全の確保。他人を気にするのはそれからの話だよ?そもそも君はね、難度1の依頼の次にいきなり8って何を考えてるんだい?私はね、見たときビックリしたよ。自殺したいのかな?って思ったよ。だから慌ててあの時確かめに会いに行ったんだ。魔法少女を助けたかったのはわかる。わかるがね・・・いいかい?死んだら意味ないんだよ?まずは自分の生命があって友情だとか家族だとかがあるんだ、いいかい?聞いているのかい?」
長い。ただひたすら長い。こちらを心配してくれているのはわかるが長い。なんだろう・・・見た目は白スーツのパーティに出るような格好なのにこういうときは真面目だ。まともなことを言っている。初対面の印象はこっちを実験動物を見るような目で見ていたから、片目にモノクルつけてるしマッドな狂った科学者か何かだとこっそり思ってたんだが全然違う。
めっちゃ世話焼きだこの人。詩音の言ってた通りだな。ありがたいがそろそろ解放してほしい。言ってることはわかってるから解放してほしい。ああ・・・まだ続くのか。
「いいかい?人はね。幸せになるために生きてるんだよ?そのために必要なことはね、まずは死んだらだめだよ。次に健康、次に家族、次にお金や仕事、次に友人、どれもね。疎かにしては駄目だ。バランスが大事なんだよ?わかるかね?いいかい?どれか一つに力を傾け過ぎてはね、後でしっぺ返しが来てしまう。だからうまいことね、バランスを見てなんとかやっていくんだ。だからなんというかね、君の今回の件は吾輩としては納得いかんのだよ。あのときは無事を祈って送り出したが後でやっぱり心配になって腹がたった。わかるね?吾輩は怒ってるんだよ。だから今この話をしている。わかるね?死んだら何にもならないんだからね。今度からはちゃんと自分の地力にあった依頼を受けるんだよ?いいかい、死んじゃだめだ。生きて幸せにならないといけないんだよ?」
「・・・・・・はい」
マシンガンのように同じ話を何回も話された。疲れた。長い。そして言っていることがもっともなので反論もできない。そもそも反論したらさらに話が長くなりそうで怖い。なんだろこの人?着てる服以外はわりとまともなのになんでこの色物揃いの組織にいるんだろ?不思議だ。あの女がものすごくやる気なかったから仕方無しに組織の運営をやってるうちにこうなったんだろうか?長い付き合いだって言ってたもんな。上がいい加減だと下がしっかりするって言うやつなのだろうか。とりあえずようやく話が終わりそうだ。
「まあ、反省しているならいいよ。これだけ説教すれば吾輩も少しだけ怒りが収まったし。ただし・・・次やったら・・・わかるね?」
「・・・はい」
目が怖い。片目のモノクルがギラッと光った気がした。明らかに目が脅しをかけにきている。怖い。かなり怖い。
詩音が一撃で吸血鬼を殺した姿を見たとか言ってたしな。多分、恐ろしく強いんだろう。ドライを見た今となっては実感できる。あれと似たような存在を一撃で殺すって化け物だわ。
あの女と古い知り合いだって言ってたし長生きしてる分強いんだろうな。とりあえず敵に回したらダメな人だわ。そもそもこっちを心配してくれるいい人だから敵にする理由もないんだけどさ。
「ソレクライ シテ ドミ」
「魔法少女じゃないか。君も無事で何よりだよ。いいかい?君には妻子がいるんだよ。今は少しだけ関係がうまく行ってないかもしれないけどね。でも、いつかまたうまくいく日が来るんだ。だからね、あんまり危険な依頼は受けないようにしないと駄目だよ。君が仲間を大切にしているのはわかる。わかっているがね、だからといって君が危険を犯すのは吾輩としては納得がいかないね、いいかい?聞いてるのかい?君とも古い付き合いだがね、吾輩としては君にも幸せになって欲しいと思っているのになんで単身で危険な依頼を受けるんだい?君は回復役がどちらかというとメインなんだからもっと後衛でどっしり構えておくべきだよ?君に治療されて感謝している者も多いんだ?いいかい?君が死んだらね、悲しむ人がそれなりに大勢いるんだよ?わかっているのかい?他人のことを助けることばかりに夢中にならずに君も幸せにならないとだめなんだよ?」
あ、これだめだわ。カーネルにも説教が始まった。ガチ説教だわこれ。そして奥さんとお子さんの事はカーネルにとってある意味禁句だった。
うわあ・・・カーネルが肩を落として凹んでいる。この姿・・・留置所で一緒にいたときによく見たやつだわ。どうしようこの説教まだ続くんだろうか。とりあえずカーネルは反論する気はないらしい。話を聞いているが・・・辛そうだ。やはり説教されるのは嫌らしい。後、ピンポイントで心を抉られているのだろう・・・カーネルの目がいつもの力強い笑顔じゃなくて死んだ目になっている。留置所で一緒にいたときによく見た目だった。
この目をした後、マジカルステッキで首を吊ったんだよな・・・忘れよう。あの光景はショックだった。あまり詳細に思い出したくはない。
カーネル・・・ドミさんには頭上がらないんだな。
「それくらいにしておいて下さいな。ドミ様。カーネル様は命をかけて助けに来て下さったのです。怒るならば不覚にも捕まってしまった未熟な我が身を叱って下さらないと。そちらの素敵な方もそれは同様です。全てわたくしが悪いのですよ」
気づけば階段から綺麗な金髪の大人の女性が優雅にゆっくりと下りて来ていた。肩のあたりからは天使のような大きな翼が少しだけ開いた状態で2枚生えていた。身体のスタイルは別の翼を閉ざし服のように身体を覆っていてほぼ何も見えなかった。
美人だな。素直にそう思った。長く伸ばした髪はお尻のあたりまで伸びていた。綺麗なストレートの髪質だった。時折髪が美しく光っていたように見えた。
あと、どことなく詩音に似ている気がする。あと10年くらいして詩音が大人の女性になったらこんな感じになるのかもしれない。
「助けて下さってありがとうございます。宜しければ自己紹介させて下さいませんか?命を助けてくださった素敵な方と・・・縁を結びたいのです」
翼に隠れて身体のスタイルはわからない。だが、歩く際にちらりとたまに見える脚は艶めかしく肉感的で端的にエロかった。みんな大好き網タイツにハイヒールのセットだった。
聖女なのに網タイツにハイヒールだった。
なんだろう・・・顔は清楚な美人なのに雰囲気と脚がエロいなこの人。そんなことを思いながら見つめていた。少しだけ股間の富士山が反応しようとしていた。




