9話 中身
さて、その後は既に語った通りだがその前にこんな一幕があった。
一人で眠っていたテッドが目を覚まして泣いた。そしてヨナがテッドを部屋から抱き上げて連れてきた。
初めてまともに見るテッドは・・・こちらを睨むようにガン見していたな。あと、カーネルを見て怯えていた。ひたすらカーネルと目を合わせないようにヨナの胸に顔を隠して震えていた。無理もない。俺はすっかり慣れきってしまったが、カーネルの見た目は色々とアレだった。どこからどう見ても迫力満点の変態だった。多分そういうのが好きな子供にはすっごい好かれるだろうが一般受けはしないだろう。
しかし、テッドはまだ小学生になるかならないかくらいの年齢だろうか・・・むごいな。こんな子にあんなことを街の住人はしたのか。
牢屋であった時も思ったが、まだ本当に子供だ。はあ、こんなところには置いておけないな。俺は善人じゃない。義理がないなら見捨てたよ。だがもう、簡単に見てみないふりをして見捨てるにはもう関わり過ぎた。
見捨てて逃げるにはもうとっくの昔に手遅れだったよ。
・・・・・・・・・・
「大丈夫か?」
目の前でアリシアがベッドに苦しそうに横たわっていた。隣にはテッドを抱いたヨナもいる。心配そうにアリシアの様子を見つめていた。
ちなみに、ゲロの処理はカーネルがしていた。ここは任せろ。そんな仕草で俺を送り出してくれたよ。
相変わらずカーネルはいいやつだった。
「す、すいません。何だか気持ち悪くて」
「そ、そうか・・・」
ああ、責任か。まさかこういう種類の責任を取ることになるとは思わなかった。はあ、気が重い。しかし今一番気が重いのはアリシアとヨナだろう。ここは安心するような台詞を言わないと・・・。
「そ、その・・・なんだ。ちゃんと安全な場所には連れて行く。少しスピードは落ちるかもしれんが・・・その、お腹の件もあるしな」
「す、すいません」
「ああ、心配するな。とりあえず俺は城の吸血鬼を殺す予定だが、先にまず三人の移動について方法を考えるよ。その、参考にだが・・・お腹の調子はどうだ?」
「・・・三日目です」
うん?なんだろう。
「三日というと?」
「そ、その・・・三日何も出てません」
そういえば一週間ほぼ飲まず食わずでやりまくってたな。合間に交代で最低限は休憩や食事してたけど。ほぼ寝ずにやってたから・・・ああ、睡眠不足だと胃はムカムカするな。胃がムカムカしてるときに酸味の強いものを食べたら吐いてもおかしくないな・・・なんだ勘違いか。
「そ、そうか」
「はい、なんとかその・・・ お腹をマッサージしてるのですが・・・まだ」
うん、中にいるのは普通にウンコだったわ。流石に一週間で出来るはずなかったな。なんだろう。冷静に考えたらわかることだったが、なんだろな。
まあ、一週間で出来るはずがないというだけで出来ていない保証は全く無いんだけどな。とりあえずいったん保留にしてやるべきことをやりに行くか。
・・・・・・・・・・
俺は再びあの城に来ていた。目的は二つだ。情報収集とレベルアップ。最終決戦で勝てば俺の知りたいことはわかるが、明らかに今の俺は力不足だった。レベルアップは必須だったんだよ。
城の領域に入ると相変わらず夜だった。そして空には吸血鬼を祝福するかのように美しいが怪しい月が輝いていた。そして・・・城は・・・夥しいほどの赤黒い色をした植物のツタで覆われていた。前回はこんなものなかったんだがな。
俺は歩いていた。目的地は前回あの騎士を倒した墳墓だ。ああ・・・やっぱりな。
墳墓の中心部にある円形の広場には前回俺が死に物狂いで何とか倒したはずの騎士が何事もなかったかのように立っていた。
・・・・・・・・・・
それだけではない。それだけではなかった。
墳墓の墓は荒らされたようになっていた。そして墳墓には無数の騎士がいた。見た目は俺が倒した騎士と全く同じだ。ただ持っている武器が違う。
弓を持っている騎士がいた。槍を持っている騎士がいた。大きなハンマーのようなものを持っている騎士がいた。そう・・・円形の広場に落ちていた多種多様な武器を手に持った騎士が無数にいた。
ああ・・・全身全霊で心を折ると言っていたな。なるほどなるほど。まあ・・・仕方ない。一匹ずつ狩るとしよう。なあに・・・もう乗り越えた道だ。敵が複数になっただけだ。コツさえ掴めばなんとかなるだろうさ。さてさて・・・じゃあ狂うか。なんせ・・・何回死ぬかわからないんだからな。元気よく行くとしよう。
「やあ・・・来たのかい?」
「ああ・・・ちょっとレベルアップに来たんだよ」
「そうかい?」
「ああ・・・だからちょっと殺し合いに付き合ってくれよ。本番前の練習だ」
「・・・わかった」
「じゃあ、行くぞ」
俺は無数にいる騎士の群れに無謀にも無策で単騎で突っ込んだ。俺の持つ能力にはそれが一番相性のいい戦術だったんだよ。




