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6話 責任


 俺とカーネルは聖女を連れていったん街に帰還していた。準備を万全にしてから決闘に望む。ドライとの話はそうしてまとまった。


 「いつまででもここで待っている。勝てると思ったら攻めてくるといい。だが、出来れば・・・いや、もう言うまい。負けたらちゃんと諦めて帰り給えよ」


 本来なら敵対している相手だった。ドライは俺たちを攻撃する素振りすら見せずに静かに俺たちを見送った。出来ればもう来るな・・・そう言いたげだった。




 ギーっと言う音を立てながら宿屋の扉を開けた。



 「お帰り」



 ヨナがいた。いつもの服装と雰囲気で声をかけてきた。少しだけ嬉しそうに見えなくもなかったが・・・よくわからんな。


 足音が聞こえた。ドタバタと走る足音だ。


 アリシアがドタバタと階段を駆け下りてきた。



 「・・・お、お帰りなさい」



 何だろな・・・あれだけ酷いことをしたんだがな。



 「ああ・・・ただいま」



 不思議と癒やされた。誰か帰りを待ってくれる人がいるというのは、帰りを喜んでくれる人がいるというのは・・・いいものだった。


 たとえそれが打算で結ばれた関係でも悪いものではなかった。




・・・・・・・・・・




 「カーネル、治せそうか?」


 「ダイジョウブ」


 宿屋の個室に俺たちは聖女を寝かせていた。アリシアは聖女を見たとき一瞬だけ「ヒッ」と悲鳴を上げた。無理もない。少しマシになったとはいえ、酷い状態だ。


 あのヨナですら眉をひそめていた。悲鳴こそあげなかったがな。


 「シバラク カカル」


 「わかった。俺はそうだな・・・やることが色々とある。しばらくは別行動しよう」



 「ウン」


 「じゃあまた。準備ができたら・・・また会おう」


 やることが色々とあった。考えることが色々とあった。さあ、どうしたもんかな。どれも大切なことだ。必要なことだ。さて・・・とりあえず別の部屋で一人で考えるとしよう。待てよ。



 「カーネル」


 「ナニ?」



 「テッドを治療してくれないか?」


 「ムリ」






 「・・・なぜだ?聖女の後でいい」


 「ムリ」



 「聖女の治療が終わって休憩してからでいいんだ。頼むよ」


 「デキナイ ムリ」





 「そう・・・なのか?」


 「ウン」


 ああ、あいつらの大切な弟のテッドは治らないのか・・・もうろくに動けないままなのか・・・



 「・・・そうか、また来るよ」


 「ウン」


 

 俺は一人個室で考えることにした。




・・・・・・・・・・




 カーネルは理由もなしに治療を断る男ではない。優しい男だ。誇り高い男だ。俺はそれを知っている。理由もなしに断る男ではない。何か必然的な理由があるはずだ。


 俺が知っている中でカーネルが治療した相手は・・・4人だ。


 俺、浩平、カーネル本人、そして聖女。


 断った相手はテッド一人だ。違いは何だ?テッドを癒せない理由はなんだ?多分これはカーネルの能力の秘密や呪いに関わる問題だろう。話せる内容ならばカーネルは話してくれたはずだ。その程度の信頼関係はあると信じている。



 呪いの武器の有無?いや、浩平は呪いの武器の所有者ではない。少なくともそんなもの持っているのは見たことがない。



 人数制限か?あるいは・・・その両方か?



 子供は治せない・・・という可能性もあるな。大人限定で治療可能な能力。可能性としてなくはない。



 呪いは窮めて底意地が悪い。どんな縛りがあってもおかしくはない。俺の槍にも呪いはある。最初は気づかなかったが、この槍を宿してから俺の感情の振れ幅が大きくなっている気がする。


 かっとしやすくなったというのだろうか。気づけば激情に支配されて行動していることがある。戦闘で役立つこともあるが、正直微妙だ。冷静な判断力を失ってはいつかは足を掬われて負けるだろう。


 まあ、負けても死に戻るだけだから実質デメリットはないのか。だが、あまりいい傾向ではないな。



 話が逸れた。今はカーネルの件だ。


 いずれにしても何か理由はあるのだろう。理由を完全に絞ることは出来ないがそこまで外れてはいないだろう。カーネルは理由もなしに子供を見捨てたりはしない。少なくとも俺はそう信じている。



 しかし参ったな・・・俺は既にあいつらに感情移入してしまっている。冷たい対応はもう出来そうにない。どうにかしてテッドの身体は治してやりたい。誰か治せるやつがいるといいのだが。誰かに相談でもするか。ひとまずはそれでいいだろう。



 ハア・・・問題は山積みだな。



 俺は少なくともあいつらから受けた借りをちゃんと返すまでは誠心誠意対応するつもりだ。既に代金は受け取っていたしな・・・あれだけのことをしてもらったし・・・してしまった。正直やりすぎたくらいだ。



 子供・・・出来てないよね?出来てたらどうしようかな・・・異世界姉妹同時妊ませか・・・腹をくくるか。やっちまったことだ。うん、結果を待とう。



 何だろな、ある意味男の夢を達成したんだが・・・考えてたら嫌な汗かいてきたわ。



 ・・・不義理はできん。それをすれば俺はドライの台詞を真似るわけではないが獣以下の存在になるだろう。あいつらとの約束は守る。問題は守り方だ。



 とりあえずあいつらを全員この街から離れて安全な場所に移動させてやる必要があるな。もうこの街は駄目だろう。あのときのドライの攻撃でもうボロボロだ。まともな場所の方が少ない。いずれは治安も悪くなるだろう。本来なら暴動が起きても何もおかしくはない。ドライという化け物吸血鬼がいるから皆目をつけられないように大人しくしているだけだ。



 俺はドライを殺す予定だが、ドライがいなくなればこの街ではおそらく暴動や略奪が起きるだろう。街の人間の精神状態はまともじゃない。何事もなく無事に終わるとは到底思えなかった。



 さて、この場所はどこだ?俺のいた国からはどの程度離れている?地図はあるのか?地図があるとして旅をしてたどりつけるのか?幸い俺の運動能力は飛躍的に高まっている。子供一人と女性二人を担いで運ぶことも可能だろう。


 あるいはリヤカーみたいなものを簡易に作ってもいい。とりあえず腕力は問題ない。かつてはもやしっ子並の体力しかなかった俺だが今の俺は体力おばけだ。


 夜ならばだがな。


 まあ、情報収集からだな。ヨナに聞くか。あいつは賢いし計算高い。よし、少し休んだらヨナに相談しよう。


 

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