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3話 赤雷


 死んだ・・・死んだ・・・死んだ死んだ死んだ。


 あれから騎士と戦い続け十回くらい死んだだろうか・・・俺はようやく騎士とまともにやり合えるようになっていた。死ぬたびに少しずつ騎士との力の差は縮まり続け、ようやくまともに戦えるレベルまで差は縮まっていた。



 キンッキンッキンッキンッ・・・キンッ


 俺の槍と騎士の振るう両手剣のぶつかり合う音が響いていた。


 強い・・・単純な身体能力だけではない。技術だ。武器を振るう技術の差を明確に感じていた。


 俺は死に続ける中、騎士の振るう剣の動き、身体の動かし方、呼吸の仕方、フェイントの掛け方、間合いのとり方・・・戦いに必要な要素は色々あるがその全てを騎士から俺は少しずつ吸収していた。


 死に続けることで吸収し続けていた。



 そうしてだ。ようやく、ようやく俺は騎士の振るう両手剣を槍で遠くに弾き飛ばし・・・騎士の体勢を崩すことに成功した。



 長かった。致命的な隙だった。騎士は体勢を崩し隙だらけだった。手には何も武器を持っていなかった。


 最初はあっさりと騎士の剣で受け止められていた俺の槍だが、槍の威力は格段に上がっていた。


 今ならば鎧ごとあっさりと貫けるだろう。


 俺にはその確信があった。そうして俺は騎士の心臓に向けて槍を振るった。



 「・・・じゃあな」



 槍が騎士の心臓を貫いたと思った瞬間、騎士の身体がぶれた。姿が消えた。どこに行ったかと俺は慌てて騎士の姿を探した。後ろにいた。



 全身から赤い雷を纏いながら佇んでいる騎士がそこに立っていた。片手には刀を持っていた。



 そして・・・赤い雷が爆発するかのように放電した瞬間。俺はまた死んでいた。


 赤い雷を纏い・・・爆発するかのように高速で移動する騎士の振るう刀に俺は首を斬り落とされていた。



 はあ、まだ上があるのかよ・・・辛えなあ。



 ああ、またやり直しだな。今度はあの赤雷の動きの研究からだ。俺はそのまま意識を失った。




・・・・・・・・・・




 それから百回程は死んだだろうか。俺は赤雷を纏った騎士の目にも留まらぬ速さの動きに対応していた。


 音だ。音と気配だ。目では間に合わない。なんとなく、なんとなくだが・・・次に来る攻撃の方向がわかった。俺はそれに合わせて槍を振るい戦い続けた。


 強い。強い。拮抗した戦いは続いた。一時間ほども戦い続けただろうか?急に騎士の動きが止まった。


 まるで電池が切れたかのように・・・騎士の動きは止まり。そしてあっさりと倒れ臥した。


 そして・・・騎士はもう二度と動くことはなかった。




・・・・・・・・・・




 「見事だ」


 呆然としていた。倒れ伏す騎士を見ていたらそんな声をかけられた。あの化け物吸血鬼の声だった。



 「よく来たね。嬉しいよ。そしてよく戦ったね。見ていたよ、ずっと見ていた。怯える君が・・・勇気を振り絞り私の待ち構える城にやってきて、そいつと戦い倒す姿を見ていたよ。素晴らしかった。実に素晴らしかった。君も素晴らしい。カーネルも素晴らしいが君も素晴らしいよ」



 部下を殺されたというのに吸血鬼はただひたすら称賛していた。ズレている。俺たち人間との致命的なズレを感じた。




 ああ、そういえば俺はもう吸血鬼・・・だったな。



 「何か褒美を取らせよう。そいつを倒した褒美だよ。何か欲しいものはあるかい?」


 話を聞いて俺は一つ気になることがあった。そいつ?少なくとも大切な部下を指すような呼称ではない。違和感を感じた。



 「その騎士は・・・なんなんだ?」



 「気になるのかい?そいつはね、イカヅチシリーズという名の呪われた鎧を着た・・・ただの人間だよ。君たちの持つ一品物の呪いの武器とは違って言わば汎用品だな。汎用品とはいえ馬鹿にできない。性能は高い。単なる人間に鎧を着せるだけでご覧の通り自由自在に武器を振るう騎士の完成だ。ああ、もちろん鎧を着る人間の能力により戦闘力は多少変わる。だが、大した違いではないさ。それなりに強くなれる。そんな鎧だよ」


 俺が百回以上死んでようやくどうにかしたこれが汎用品か・・・気が遠くなりそうだな。ハハッ、ちょっともううんざりだな。滅入る。



 「汎用品って言うことは他にもあるのか?」


 「当然だ。雷シリーズのうちこれは赤雷と呼ばれるものだが、似たようなものは世界のあちこちにあるよ。そして誰かが着ればご覧のようになる。後はそうだな・・・これよりも遥かに強い黒雷シリーズなんてのもある。まあ、私でも敵対したらまともに戦うのは馬鹿らしいからとっとと逃げるね。そんな代物だ」



 この化け物吸血鬼が逃げるような呪われた鎧か。絶対に敵対したくないな。さて、もう身体は疲れ切っている。吸血鬼はすぐに襲いかかる気はないようだがどうしたものか。


 そういえば・・・褒美をくれるとか言っていたな。



 「なあ、あんた。ご褒美は何をくれるつもりなんだ?」



 「ふむ、そうだね。逆に聞こう。何がほしい?私は感動したよ。私が君にあげられるものならばできる限り意向に沿うとしよう」



 随分と気前がいい。ダメ元だ。言うだけ言ってみるか。



 「じゃあさ、あんたが捕らえている聖女をくれないか?今一番ほしいのはそれなんだ。それが無理ならあんたの命がほしい」



 「なるほど、命はあげれないね。私にはまだやることがある。だが、あの女ならあげよう。私も処分に困っていた。人質にはしたものの・・・気持ち悪くてね。あんなおぞましい女を手元においているのは正直もう懲り懲りだったんだよ。少し待ってなさい」



 ・・・え?くれるの?



 「待たせたね」


 一瞬だけ姿を消した吸血鬼が再び現れた。


 吸血鬼から少し離れた位置には宙に浮かぶズタボロになった何かがいた。


 よく見るとそれは人の形をしていた。全身に大火傷を負い、まともな皮膚はどこにもなかった。両手と両足は切り落とされていて、傷口は焼け爛れていた。おそらく鈍い不揃いの刃で斬り落とされたのだろう、傷口はズタズタだった。あるいは引き千切られたような切り口だった。


 その後に火で焼いたのだろう。そんな状態だった。


 かろうじて女であることはわかった。ボロボロにはなっているが胸は膨らんでいた。胸も容赦なく火で焼かれていた。


 四肢を斬り落とされた上に火炙りになった聖女。そんな存在がそこにいた。


 聖女の肩からは焼け爛れた天使の羽のようなものが生えていた。肩の部分はまるで瘤のように大きく膨らんでいた。



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