表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/159

2話 墓守


 俺とカーネルは足を進めていた。



 城門を潜り足を進めたその先にあったのは・・・墳墓だった。この世界には本来ない筈の墓が目の前にはびっしりと存在していた。墓は俺がゾンビ退治をしていたときに見たものと同じ形をしていた。



 ああ、吸血鬼が墓を作っていたのか。


 

 あるのは墓だけではない。墳墓の中心部には円形の広場があった。広場の地面には槍、剣、斧、刀、弓、戦斧など多種多様な武器が広場の地面に刺さっていた。


 そして、広場の中心部には・・・あのとき俺の右腕を斬り落とした騎士が佇んでいた。


 大きな両手剣を地面に突き刺し、その上に両手を置き、待ち構えるかのように立っていた。




・・・・・・・・・・




 「遅かったな」


 意外にも騎士の方から話しかけてきた。声はくぐもっていてよくわからない。男か女かもわからない。ただ、言葉自体はよく聞こえた。


 「すまない。恐ろしくてな。ずっと震えていたよ。この一週間ずっと怯えていた」


 俺はこの一週間怯え続けていた。あの吸血鬼の言葉にどうしようもない絶望の予感を感じてしまい怯え続けていた。


 混乱し気持ちの乱れきった俺は最低だった。俺は自分の心の絶望をアリシアとヨナにぶつけた。


 そこには優しさなんて欠片もなかった。ただ単に不安を少しでも紛らわすかのように二人を抱いた。色んなことをした。自分の欲望や絶望を二人にぶつけ続けた。何度も何度も体液を注ぎ続けた。二人とも子供が出来ていても何もおかしくはなかった。



 二人は何をしても拒まなかった。こちらの歪んだ要求を素直に聞いて受け入れた。たとえ何をさせても全て受け入れて素直に従い続けた。



 一週間、散々当たり散らし少しだけ正気を取り戻した俺は思った。


 ・・・最低だな俺。




 「・・・何かしてほしいことはあるか?」



 「テッドを頼むよ・・・ああ、私たち二人も」


 二人に借りができた。どうしょうもなく借りが出来てしまった。俺は少なくともこの二人とテッドの安全の確保と、生活が成り立つまでは面倒を見る義理が出来てしまった。


 神聖な魂の約束とまでは言わないが・・・重い約束だった。息も絶え絶えな状態のヨナとの約束だった。


 ヨナの隣には全身に汗をかき、体液を撒き散らしビショ濡れになったベッドの上で力尽きたかのように眠るアリシアがいた。


 アリシアの秘所からは白濁した体液が溢れていた。


 寝顔は不安に包まれていた。小さく子供のように丸まっていた。こんな顔を見てしまっては約束を裏切れなかった。また、あの吸血鬼を殺す理由が増えた。



 「俺も・・・妹がいるんだ」



 「・・・そうなのかい?」




 「ああ、だから・・・約束は必ず守るよ」



 「そっか、少しだけ安心したよ」


 ヨナはそう言い・・・少しだけ微笑んでいた。初めて見たヨナの笑顔だった。綺麗だなと素直に思ったよ。




・・・・・・・・・・




 「始めるか」



 「待ちかねたぞ」


 少し離れた場所にはカーネルが我関せずと両腕を組んで立っていた。


 騎士との一対一の戦いは始まった。




 俺は槍を持ち正面から騎士に槍を突き刺そうとした。まずは敵の防御力を確かめたかったのだ。


 騎士は両手で剣を構え、俺の槍をあっさりと受け止めていた。キンッという金属同士のぶつかる音がした。


 「軽いな」


 騎士は剣を独特の動きでずらして槍を横に流した。そして、俺に向かい横薙ぎに剣を振るった。


 俺は後ろに下がり回避した・・・筈だった。



 俺の腹は深く横一文字に刻まれていて、腹からは内臓が溢れていた。気付けば口からも血が溢れていた。



 まだだ、人なら死んでいたが今の俺はもう人じゃない。吸血鬼だ。俺は腹を抑えつつ騎士の様子を見続けていた。


 騎士は重傷を負い隙だらけの俺に近づくことはせず、距離を保ったまま佇んでこちらを見ていた。


 そして・・・剣を大上段に構え、まるで力を貯めるかのようにギリギリと全身に力を込めていた。


 あの距離から何をする気だ?そんなことを考えながら俺は回復を待っていた。



 騎士が剣を振るった。



 ゴウッという剣を振るったとは思えないような激しい音がした。その瞬間、俺の身体は縦に真っ二つに割かれていた。


 斬撃だった。騎士は俺を飛ぶ斬撃で攻撃していた。



 心臓も2つに斬られたのだろう。俺の意識は徐々に薄れつつあった。


 致命傷・・・だな。そんなことをぼんやりと考えながら倒れ伏した俺は考えていた。



 よし、あいつの技を2つ理解した。次はもっとうまくやる。



 そうして俺は死んだ。死ぬのは久々だった。死ぬたびに俺は何かを失っていた。


 だが、あの化け物吸血鬼やこの騎士を相手に・・・少しでも勝算があるとしたらこれしかなかったのだ。


 弱い俺には・・・この方法しかなかったのだ。



 俺は死というある意味究極の絶望を感じながらあることを感じていた。



 槍が・・・俺の右手に宿った槍が・・・嬉しそうに・・・とても嬉しそうに蠢いていた。


 人の負の感情を食い力を増す槍は俺の絶望を美味しそうに食いながら力を増し続けていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ