1話 結界
早朝、朝日が照りつける中、俺とカーネルは吸血鬼の待ち構える城の前に立っていた。近くで見る城は遠くから見たときと同じくぼやけて見えた。
「イコウ」
「・・・ああ」
俺とカーネルは城へと足を一歩進めた。
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空には綺麗な月が上っていた。
吸血鬼の俺にとっては心地の良い夜だ。ああ、実に気分がいい。力が湧く。そんなことを考えていた。
カーネルの言ったとおりだな。
城の敷地の中に足を踏み入れた俺が見たものは一種の異界だった。
つい先程まで朝日が照っていたのだ。ところが、城の敷地に足を踏み入れた途端、空は暗くなった。夜だ。月があった。美しく光る満月があった。話を聞いていなければ混乱して右往左往していただろう。
だが、話を聞いていても・・・怖気が走った。恐ろしい。なんだこれは?どうやればこんなことが出来る?化け物だ。本物の化け物だ。どうやれば倒せる?どうやれば倒せるんだ?無理だ。無理じゃないのか?
俺は半ば戦意を喪失しかけていた。
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「ケッカイ シロ」
カーネルは端的にそう言っていた。俺は詳しく説明を求めた。
「キュウケツキ ツヨクナル ケッカイ ツカエル」
結界か、まあありがちな能力だろう。だが具体的にどんなものなのだろう?戦闘にどんな影響があるのだろう?
「アノ キュウケツキ ケッカイ ヨル ツクル」
夜を作る?どういうことだ?
「ソト ヒルデモ ナカ ズット ヨル」
どういうことだ?昼と夜を操作できるのか?城の中限定とはいえそんなことが出来るのか?昼と夜を操作するということはつまり・・・太陽を操作するようなもんじゃないのか?
できるか?そんなこと。
仮にそんなことが出来るとしたらだ。それはもう単なる化け物じゃなくて・・・神とかそういう類の存在じゃないのか?
俺が思っている結界は敵の攻撃を防御するとか、熱や冷気を防ぐとかそういうものだった。
待て、あの城はいつ見ても常にボヤケていた。こちらのいる場所とあの城のある場所を隔てるかのようにボヤケて切り離されていた。あのボヤけは常に存在していた。
つまり、つまりだ。
あの吸血鬼は一部ではあるが、世界から一部のエリアを切り離して吸血鬼にとって都合の良い夜という空間を作っている。そしてそれをずっと維持し続けている。
それは言わば城という閉ざされた小さな世界限定ではあるが、あの吸血鬼は言わばその閉ざされた小さな世界の支配者だ。あるいは造物主だ。
規模は小さい。だが、やっていることはとんでもない。
勝てないだろ。こんな存在。夜は俺にとっても都合が良いが・・・殺せるのか?俺にあの化け物が殺せるのか?
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迷いはあった。俺一人なら引き返していただろう。だが隣にいるカーネルの表情は不動だった。
普段通り。さあ行こう。そんな顔をしていた。
俺とカーネルは城の敷地にまた一歩足を進めた。そして城門を潜った。あの島でも感じたことだが城門がまるで地獄の門のように感じた。
今度も生きて帰れるといいな・・・そう思いながら俺は足を進めた。




