勇者編⑦勇者の覚醒〜救いの勇者の伝説の始まり〜
あれから一睡も出来なかった。
あれから私は部屋に戻って上着を脱いでベッドに戻った。しばらく経つとシオンが戻ってきて、同じベッドに入りいつものとおり僕を抱きしめて寝ころんだ。時折、私の背中や頭を撫でる手はいつものとおり優しかった。まるで・・・お母さんのようだった。
僕はその心地よさに身を任せながら、先程の件について考え続けていた。
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朝になった。私は王様に相談することにした。
私は王様に頼み込んで、いつもの謁見の間で王様に二人で話をしたいと伝えた。王様はいつものように快く話を聞こうと言ってくれた。
「人払いをお願いします」
私は硬い口調で王様に頼んだ。
無礼者!近衛にそう言われるかもしれないと思った。
でも、誰も何も言わず・・・王様は静かに頷くと人払いをしてくれた。王様と私は謁見の間で二人きりになった。
「王様。おそらく・・・シオンは人質か何か大切なものを取られています。そして魔王軍の軍団長に脅迫されています」
「ふむ?」
話がわからない。どういうことだ?王様はそんな顔をした。
僕は深夜に目撃したことを1から順番に説明した。
王様は終始こう言っていた。
「夢でも見たのではないか?シオンが裏切るとは思えない。」
少しだけ鼻が高かった。僕のお姉ちゃんは王様に信頼されていた。
「夢じゃないです!間違いなく見ました!シオンを助けてください!お願いします!」
王様は困っていたように見えた。普段は岩の様に表情が動かないのに、珍しく少しだけ表情が動いた気がした。
「わかった、だが・・・事が事だ。いきなりシオンの扱いを変えるわけにはいかない。急に変えれば何かを気取られる可能性が高くなる。はっきり言うぞ。もし仮に魔王軍に人質を取られているのならば人質の救出は・・・おそらく困難だ。はっきり言おう、不可能に近い。勿論手は尽くす、だが・・・確約はできない」
王様は厳しい目でそういった。嘘を言わない誠意を感じた。
「この件にはもう関わるな。シオンが脅されているとしたら、精神的に不安定な筈だ。シオンは勇者殿のことを嫌っていない。口には出していないが・・・むしろ好ましく思っているはずだ。調査は進める。もちろん進めるが勇者殿に出来る一番のことはシオンの側にいつも通りいてやることだけだ。少しだけいつもより気を遣ってやっても・・・いいかも知れんな」
王様はそう言った。いつものごとく岩のようだが優しさを感じる口調だった。
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僕はしばらく・・・まともに眠れなかった。
寝ている間にシオンがいなくなってしまうかもしれない。魔王軍に痛めつけられてるかもしれない。そんなことを考えると眠れなかったのだ。
いつもより僕は強くシオンの身体に抱きついて眠るようになった。その後、シオンが夜に出かけることは二度となかった。
それからしばらくして王様が私を呼んだ。
「頼まれていたあの件については・・・終わった」
そう一言だけ私に伝えた。終わったという言葉に不吉なものを感じた私は怖くて詳細を聞けなかった。ただ一つだけ・・・どうしても聞いておきたいことがあった。
「王様・・・シオンにいた家族は弟ですか・・・それとも・・・妹ですか?」
「・・・・・・妹だ」
殺意が沸いた。抑えられない殺意が沸いた。自分自身への殺意だ。殺したい。殺したい。今すぐ自分を殺したい。この恥知らずの糞ゴミを苦しめて殺してやりたい。今すぐ殺したい。
ああ最悪だ僕は・・・死ぬべきだった。こんな世界に来ずにトラックに轢かれて死ねばよかった。死ねば良かったんだ。
あのとき拒否せずに性処理の便器にでもなってれば良かったんだ・・・・死ねば良かった。
僕は・・・魔王軍に妹を人質に取られて憔悴したシオンにお姉ちゃんなどと言っていた。無邪気に・・・能天気に・・・同じ性別の私が・・・糞が!糞が!殺す殺す・・・絶対殺す。魔王軍を皆殺しにしたら必ず殺してやる!殺意が止まらなかった。
私はシオンの妹に会ったことがない。これだけべったりと一緒にもう1年もいるのに会ったことが無い。
つまり召喚された時にはシオンの妹は魔王軍に人質に取られてしまった後だった。常に暗い表情をしていたのは・・・そういうことだったのだ。
一緒に寝ているときに「あなたを守れなくて・・・ごめんなさい」と眠りながら泣いていたのはそういうことだったのだ。
妹を人質に取られていたシオンは・・・妹と同じ性別の私にお姉ちゃんなどと言われたシオンはどんな気持ちだったろう。おぞましい。自分自身のおぞましさに気が狂いそうだ。
ああ・・・・・・手遅れだ。もう何をしても・・・手遅れだ。
私は最悪だ。最悪のゴミだ。とっくの昔に終わったゴミだ。おぞましい。私は自分自身がおぞましい。早くゴミ箱の中に入ってしまいたい。
ああ、なんだこの最悪な恥知らずなゴミ。生きてる価値などないだろう。ああ、本当に最悪だ。
「ああ・・・絶対に殺そう。何をしても殺そう。殺しつくそう・・・皆殺しだ。皆殺しだ。皆殺しだ」
私は狂ったように嗤っていた。嗤い続けた。
その件以来、私は以前よりシオンの側にいることが増えた。シオンが自殺しないか心配だったのだ。シオンは相変わらずいつものように辛そうな苦しそうな表情をしていた。見ていて切なくなるような表情をしていた・・・何もできなかった。
私はシオンに笑ってほしかった。僕の方を向いて優しく微笑んで欲しかった。それが・・・僕のささやかな夢だった。
もう・・・とっくの昔に手遅れの夢だった。
お母さんのように・・・お姉ちゃんのように大切な人を笑わせてあげられない僕は相変わらずどうしようもないゴミ以下の存在だった。
家族が欲しかった。僕のせいで母親を殺してしまい・・・父親に捨てられた私は一人ぼっちだった。家族が欲しかったんだ。
私はそれから・・・もう二度とシオンのことをお姉ちゃんなどと呼ぶことは無かった。私にそんな資格はなかった。そんな資格は・・・最初からどこにもなかったんだ。
僕は夢を諦めた。夢は決して叶わないから・・・夢なんだ。
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あれから3年が経っていた。私はいつものように戦場に出ていた。目の前には魔王軍がいる。人類の敵だ。おそるべき敵だ。魔王軍と戦うのは勇者の務めだ。私の大切な仕事だ。
私の背後には大勢の兵士たちがいた。
兵士たちの表情は硬い。戦意は高いが戦場が恐ろしいのだろう。無理もない。魔王軍は恐ろしい敵だ。毎回死者は必ず出た。友を喪うのは辛いだろう。家族を喪うのは辛いだろう・・・無理もない。
さて、私は勇者だ。勇者としてやるべきことをやるとしよう。
勇者とは勇気を持つ者。
常に最前線に立ち、背中に続く者達に勇気を見せ続けるから・・・勇者と呼ぶのだから。
「ヒャッハーーーーー!!!!!wwwwwww皆殺しだぜ!!!!!wwwwwwwwゴブリンどもは皆殺し!!wwwwwwwヒャッハーーーーーーーー!!!!!wwwwwww 汚物はwwwwww消毒だぜ!!!!wwwwww」
いつものごとく槍を握りしめ、私は魔王軍に単騎で突っ込んでいた。表情はいつものごとくガン決まりだ。うん、いい表情をしている。素敵な笑顔だ。
ヒャッハー道は奥が深い。初心者には中々使いこなすことは難しい。ポイントは一つだ。
プライドを捨てろ。女としてのプライドじゃない。人としての尊厳を全て捨て去れ。それが最低限の条件だ。
私はぶち殺したゴブリンを食べれるかどうか試して戦場で盛大にウンコを漏らした。気づけば滝のようにウンコ流れてたんだよ。しかも真っ赤。もう血の池地獄。生理かと思ったよ。
周囲には兵士が大勢いた。目撃者は多数だ。まあ今となっては大したことではない。ウンコは皆する。出して当然だ。今ならば何の恥じらいもなく私はウンコしながら戦える。実際にやったし。
ヒャッハー道は奥が深い。ヒャッハー真拳と言ってもいいかもしれない。
多分脳内麻薬とかドバドバ出ている。潜在能力が引き出される感じだな。多分そうだ。きっとそうだ。まあ楽しいから効果なくてもいいんじゃない?ほぼ趣味だしさ。戦場で大切なのは相手よりもテンションをあげることだ。理性はいらない。もっと魂のままに叫べ。自分がまるでデスメタルバンドをやっている宇宙の帝王三世さんになったかのような気分で叫べ。あれは実にいい。最高だ。
つまりいかに相手よりも狂うかがポイントだよ。人間性などいらん。邪魔邪魔。とりあえず脳内麻薬だけでガン決まりの表情くらいはいつでも出来るようになれ。
髪型を今度モヒカンにしてみよう。ヒャッハー道には一番合う髪型だ。モヒカン部分以外は全部きれいに剃るか。できればそうだな、モヒカンに半月型をした隠し武器のブーメランを隠せるくらいには立派なモヒカンを作りたい。もっとなんだか先駆けたい。そんな気分だ。
夢の中で再放送しないかな?あのアニメ。好きなんだよあれ。
きれいに背中の中央部分まで伸びた白髪を靡かせながらそんなことを思っていた。うん、今日のゴブリン畑も豊作だな。いい具合に生首が取れる。豊作だわ。最高。経験値もっと頂戴。
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私はドッジボールにも嵌まっていた。最近好きなんだよ、ドッジボール。
よし、この素手でもぎ取ったゴブリンの生首を・・・
「おーい!!!!ドッジボールしようぜ!!!!」
魔王軍に向かい全力でぶん投げた。お、いい感じ。よっしゃ!!!!!!トロール撃破wwwwwww
いやあ、当初は苦労したトロールがゴミのようだよ。もはや単なる豚だな。あいつ食うと旨いんだよwwwwwwこの前兵士にも食わせてやった。我ながらいいことをした。
この世界の食料事情は厳しい。毎年餓死者は出ている。食糧事情の改善に私は貢献した。内政チートだよ内政チート。
まあ、なぜかトロール食うの私だけなんだよね。なんでか兵士はゲロ吐いてたし。こっちをドン引きした目で見ていた。気合が足りんな。狂気が足りんよ・・・もっとガン決まれこの軟弱者が!!!さて次は・・・
「雑魚!・・・雑魚!」
私はメスガキムーブにも嵌まっていた。魔王軍を煽るのはなんだかすっごい楽しいのだ。
メスガキムーブをする度に溜まったストレスが尻から勢いよく流れでるかのように私は癒されていた。あいつらには散々恨みがあった。あいつらになら何をしても心は一切痛まないしむしろ最高の気分だった。私が強くなってから魔王軍は最高のサンドバッグだよ。
3年の間に色々と成長した私はいわゆるロリ巨乳になっていた。身長はあんまり伸びなかったんだよ。150センチくらいだ。はあ、もうモデル体型の美人になるのは諦めた方が良さそうだ。
身長の代わりにおっぱいが育っていた。多分Gくらいだ。我ながらいいおっぱいだ。もはやおっぱおと言っていいだろう。夢の中のあのお兄さんはそう言っていた。
あのお兄さん、3Pして童貞を捧げた相手に斧で四肢を斬り落とされたり、妹に虫けらを見るような目で見られていたり、変態爺とパパ活?とかいうものをして実家から追い出されたり、シオンに似た女にストーキングされてたけど元気にしているのだろうか?あれは多分地雷じゃないかな?手を出したら逃げられない地雷だよきっと。
割と好きなんだよね。あのダメ人間。あんまり酷い目にあってないといいのだが・・・。
たまによっぽど精神的に追い詰められているのか気が狂ったように自分で自分の心臓を嗤いながら槍で突き刺している姿も見たしね。
まあ、何回やっても死ねなかったんだけど。なんだろな、何があったんだろ。
何だかあの多分今も酷い目にあってるだろうお兄さんには共感が持てたんだよ。私もいつかはあのお兄さんみたいに自らの槍で心臓を突き刺して華々しく死にたいものだ。
まあ、あのお兄さんはあくまで夢の中の映画の登場人物なんだけどね。じゃないと何回も死ねないし。なんで死んだ後にまた普通に生きてるのかわかんないしさ。
ま、私もお兄さんみたいに心臓を貫いて引きちぎってさ、三国志の夏候惇みたいに自らの心臓を食いながら叫びたい。かっこいいよね夏候惇。あれは目だったけど、似たようなもんだ。
思考が逸れた。
私はメスガキムーブを使いこなす最適の人材だった。なんなら伸びた髪をそのためだけに白髪のツインテールにでもするか。メスガキムーブも奥は深い。何事も形から入ることは大事だよ。基本はとても大切だ。
相変わらず私は良く夢を見た。気づくのに遅れたがこれは私の勇者として目覚めた能力だった。
私は夢で見たあらゆることを戦いに活かすことにした。その結果が今の成長した私だ。ふふ・・・実に使える能力だぜ。
私は魔王軍の軍団長に視線を向け、全力のアへ顔ダブルピースを繰り出しながら煽り続けていた。もちろんポーズはM字開脚だ。ああ・・・私の美脚は素晴らしいな。多分、向こうからはパンツも見えているだろう。さあ、もっと見なさい。遠慮はいらない。
「雑魚!!雑魚!!・・・年増!!年増!!前よりしわ増えたよ!!しわ増えてるよ!!もういい年齢?・・・何歳なの?ちゃんとお風呂入ったあとにケアしてる??ねえ、おばさん!!何歳なの!!そろそろ化粧品変えた方がいいよ!!若いピッチピチのモテモテの私と違って肌年齢考えなよ!!」
ちなみにこんなこと言ってるが男には一切モテなかった。見た目はとてもいいんだがな・・・不思議だよ。この世界にいっぱいある不思議の一つだったよ。こんな白髪の神秘的な美少女を見たら付き合いたくなるだろう・・・なんかおかしくないか?なんで私を見ると目を逸らすんだろうな。世界には不思議が満ち溢れているな。
お、気のせいか・・・軍団長の顔の額に青筋が出来た気がする。どうやら煽った効果があったようだ。攻撃されたら不味いが・・・ま、あいつどんだけ煽りまくっても攻撃してこないしセフセーフ。セフレじゃないよ!
辛い経験も多かったが、この絶望に満ちた世界に見事に順応しきった私がここにいた。
どこにでも出せる自慢の勇者の出来上がりだった。(自薦)
NORMAL END




