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勇者編⑤絆

 

 何かを殺すということは罪深いことだ。元の世界にいた頃は何かを殺したことなんてなかった。虫くらいは殺したことはあったが、少なくとも哺乳類に該当するような大きな生き物は殺したことなどなかった。



 ゴブリンは仮に地球にいるなら、何類になるのだろう?そんな疑問がわく程度には戦闘にもなれた。


 仮に哺乳類だとしたら罪深いことを僕はしてるのかもしれない。


 でも仕方ない。相手が攻めてくるのだ。



 僕は今日も戦争で活躍した。この国の基準では毎週ある小競り合いになるのだけど、戦いにもだいぶ慣れた。


 ゴブリンは一人で百匹以上斬った。トロールも初めて一人で倒すことに成功した。



 僕は強くなった。成長した。魔王軍は変わらず健在のままだが、以前よりは少しだけマシになっているかもしれない。



 この世界は絶望に満ちている。



 現実の戦争を知った僕にはよくわかる。辛いことは多かった。今日話をして仲良く笑ったりした相手が明日にはいなくなっていた。そんなことはよくあることだった。



 この世界はそういう世界だ。辛くないと言えば嘘になる。だけど少しずつ僕はこの世界に順応していった。



 シオンが初めて泣く姿を見てから半年が経っていた。




 シオンはいつも優しかった。暗い表情をしている、いつみても暗い表情をしている。辛そうにしている、いつ見ても辛そうにしている。


 そんな余裕のないシオンだが、僕には優しかった。



 元の世界では僕には誰もいなかった。まるでシオンがお母さんみたいに思えていた。

 

 年齢を考えたら・・・お姉さんなんだけどね。今度お姉ちゃんと呼んでみよう。そんなことを思っていた。




・・・・・・・・・・




 「仕事ですから」

 それがシオンの口癖だった。何故かあまり僕に自分の名前を言われるのが好きではないようだった。



 僕のことを際限なく甘やかすくせに、シオンは自分のことは大切にしていなかった。まるでいつ死んでもいいように誰かと深い絆を結ぶのを最後の所で拒んでいるように見えた。


 シオンは優しい人だから、自分が死んだ後のことを考えているのかもしれない。死なせたくないな。



 いつか笑顔が見たい。



 そう思って、最近はちょっとイタズラをしたりしていた。いきなり抱きついたり、手に握った虫をいきなり目の前に差し出したり、思いつくようなイタズラはやってみた・・・スカートめくりとかも。



 でも、いつも困った顔をして怒らなかった。



 「私はあなたをこの絶望に満ちた世界に連れてきてしまった・・・罪人なのです」



 あのときは深く考えていなかったが、シオンは僕専属の世話係兼護衛になる。そう告げたあとに僕にそう言った。



 私にはなんの資格もない・・・そう言いたげだった。



 戦争はいつも辛かった。でもシオンと一緒にいる時間はとても好きだった。




 母を殺して父に捨てられた「私」だけどその時だけは自分が生きてても良いと自信を持って思えたんだ。



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