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1話 探検


 「ああ、それにしても童貞を捨てたい」


 


 俺は友人の悩みの相談に乗りながらそんなことを考えていた。


 


 


 


 


 


 俺には大学で出来た仲の良い友人がいる。名前は浩平。少しだけ馬鹿な所もあるが芯の強い良いやつだ。出会って半年だが不思議と馬が合った。


 


 


 そんな彼が二週間ほど塞ぎこんでいる。理由は聞いて判明した。


 


 「・・・妹としばらく会えなくなったんだ」


 


 そう・・・ポツリと俺に言った。


 


 


 俺にも妹はいる。兄としてのひいき目も入っているだろうが、かなり可愛い。間違いなく可愛い。昔はよく俺にも懐いていて一緒の布団で寝ていた。抱き枕代わりにされていたのだ。


 


 


 「こわいユメみるからいっしょにねよ・・・おにいちゃん」


 


 そんな可愛いことを言いながら夜になると部屋に来ていたんだ。


 


 


 なお、手にはパンツをなぜか持っていた。手渡されたパンツはまるで美容院でシャンプーの後に渡されるホットタオルのようにホカホカしていた。ホッカホカだったよ。あるいは兄妹愛のぬくもりがなせるものなのかもしれないな。


 


 まあ、明らかに熱すぎたから別の理由だろう。脱ぎたてパンツだとしてもいくらなんでも熱すぎた。受け取った瞬間火傷するかと思ったよ。


 


 パンツを電子レンジで温めたのだろうか?そしてなぜ俺にパンツを手渡したのだろうか?抱き枕の料金だろうか?理由は今でも不明だ。後、パンツを電子レンジで温めようとするその発想が怖い。


 


 まあ、料金を払おうとしたのならばだ。仮にそうだとしたらまだ子供なのに経済がわかっている頭のいい子なのだろう。だが、出来たらパンツを何かのサービスの代価として利用するのはやめて欲しい。そういうのは多分違法だからやっちゃだめだと思うんだ。パンツは好きだけど。大好きだけど。


 


 


 俺という抱き枕がチップを支払うに値する素晴らしいサービスなのはわかるが・・・妹のパンツをチップ代わりに貰っても俺は嬉しくない。まあ、妹の写真付きでネットオークションに出せば売って現金化することは出来るかもしれないがな。よし、機会があれば試してみるのもいいかもしれないな。


 


 ちなみに妹と一緒に寝ると不思議と安眠していい夢を見た。毎回必ず安眠出来たんだよ。子供の心地よい柔らかさと体温は偉大だな。決して性的な意味ではないぞ。妹に手を出していいのは二次元だけだ。


 


 


 少し話が逸れた。まあ俺と妹は昔はそんな関係だったよ。最近は思春期がきたせいか理不尽にも冷たい対応をされている・・・もっと兄になつけ妹よ。飴ちゃんやるぞ。


 


 


 ちなみに、浩平の妹はすごくいい子だそうだ。反抗期もなかったのだろうか、思春期になった今もすごく懐いてくれるらしい。


 


 たまに一緒の布団の中で抱きしめながら寝るとか言っていたが・・・そろそろ色々と不味いのではないだろうか。おっぱいも大きいらしいし。まあ、あいつはシスコンなんだろう。所詮は他人の家庭の事情だし肉体関係にさえならなければいいだろうさ。あいつはなんだかんだ一線はちゃんと引く男だと俺は信じている。なんだかんだいいやつだしな、馬鹿だけど。ちなみに空手をやっているせいか浩平の肉体はムッキムキだ。細くて中性的な容姿の俺と肉体を交換して欲しい。


 


 追記すると俺の妹の胸は小さい。ある意味嘆きの壁だ。今度の誕生日には豊胸マシーンをプレゼントしてやるとしよう。兄は優しいのだ。


 


 


 まあ、そんなこんなで最初は気楽に考えてたんだよ。でも二週間も塞ぎこむのは長い。浩平が今抱えている問題はひょっとするとわりと深刻な問題なのかもしれない。


 


 


 


 ひょっとしたら妹さん、具合が悪くて入院かなにかでもしているのかもな・・・そんな心配を表には出さずにこっそりとしていた。


 


 


 他人の家庭の事情に口を出すものではない。俺ができるのはいつも通り馬鹿な話でもするか、あるいは気分転換の切っ掛けでも提供してやることくらいだろう。


 


 そんな風に思っていたんだよ。だから俺はこんな話を浩平に振ってみることにした。


 


 


 「なあ、浩平。クラスで噂になっていたんだがさ。隣町の廃業したホテルで謎の人影のようなものを見た人がいるらしい。化け物が出たとか変なことを言ってる人もいるんだって。話の種に一度探検しに行かないか?まあ、友達の友達から聞いたような当てにならない噂なんだけど。この前の完全に空ぶった謎の首なしライダー事件よりはきっとましだろ」


 


 俺もそうだが浩平もこういった変わった話が好きだ。腕っぷしの強い浩平は廃墟にたむろする変な奴に遭遇してもそこらへんのチンピラ5人くらい相手なら余裕で蹴散らしてくれそうな雰囲気を持っていた。なので、こいつと一緒なら気楽にどこにでも行きやすかったのだ。ちなみに俺は腕力に自信はなかった。


 


 


 さて、普段ならこういう話には乗り気な反応が二つ返事で返ってくる。でも、今は落ち込んでいるからどうだろう?普段どおり話に乗って来てくれると嬉しいのだが。


 


 


 「・・・面白そうだな」


 


 相変わらず付き合いがいい。元気はないがやはりこういった話には興味もあるようだ。よし、期待しておけよ。お兄さん楽しませちゃうぞ。まあこいつも兄なんだが。


 


 


 「お、乗り気だな。場所は近い。早速今晩はどうだ?」


 


 鉄は早いうちに打てという。早くこいつをホテルに連れ込むとしよう。いや、この言い方は誤解を生むな。危険だ。俺は男に興味は無い。


 


 


 なんだかんだいつものごとくろくでもない話を駄弁ってたらこうなった。


 


 準備して駅前に20時ごろに集合で・・・浩平との話はそうまとまった。


 


 


 


・・・・・・・・・・


 


 


 


 準備をして駅前で浩平と合流した。


 


 


 廃業したホテルは駅から北、湖のある方面にある。途中にある林の中を歩いて30分程度、雑談でもしながら移動していたらすぐだ。幸い気温はまだ暖かかったから楽だった。わりと不便な場所に建てたせいか、噂ではあんまり人気が出なかったようだ。先見の明が無いな。


 


 


 俺たちは気心の知れた男二人だし人目も全くない。移動しながら廃棄物以下の下品な本性を剝き出しにしていた。クラスのあの女の子が可愛い、コンパしたい、彼女欲しいとか、男の下半身に直結したゲスい話をしていた。


 


 


 


 ああ、それにしても童貞を捨てたい。


 


 できれば最初は俺のことを好きで好きでたまらない美人姫騎士か魔法少女がいい。あるいはくっころも捨てがたい。嫌がる顔をした姫騎士で童貞を卒業したい。ピチピチの全身タイツを着用した謎の感度数千倍の女忍者も悪くないが童貞にはちょっとハードルが高すぎやしないか?快楽堕ちしてしまうから不味いんじゃないだろうか?童貞には無理、もう二度と戻れない夜になりそう。やはりそうなると純真な聖女がいい。性女も捨て難いがそこは議論の余地がある。


 


 


 そんな糞みたいな話をしていたんだよ。俺は油断しきっていた。


 


 


 俺から見て左にある林の中だ、少し先の薄暗がりの中に人影のようなものが見えた。


 


 ギクリとした。


 


 近づいて見るとそれは黒い服を着た女だった。なぜか少しおぞましい雰囲気を持っていたが見た目は美しかった。綺麗な黒髪が腰あたりまで伸びていた。大学構内で見かけたなら喜んだかもしれない。ただ、出会った場所が不吉過ぎた。


 


 


 女はこちらに興味無さそうに、どこか違う場所を見るような目でポツリとこう言った。


 


 


 


 「この先には行かないほうがいいですよ」


 


 


 


 淡々とした静かな小さな声だった。


 


 


 別にこの忠告を聞く必要はない、どう判断するかは好きにしろ・・・一応言っただけだ。言葉にこもる雰囲気や女の態度からはそんな印象を受けた。


 


 言われた瞬間嫌な予感がした。ただ、せっかく楽しみに準備をしてここまで来たんだ。それに浩平に気分転換させてやりたかった。


 


 廃ビルなんて探検しても正直ろくなものはないし、あるとしたら勝手に住み着いているおっさんや、落書き、割れた窓ガラスに空き缶やゴミくらいだろう。何も身になることなどないことはわかってはいる。


 


 


 ただ、今の浩平には少しくらい気分転換に馬鹿なことが必要だと思った。まあ、わりと普段から頭のネジ外れ気味ではあるのだが・・・考えたら普段からろくなことしてない気がする。


 


 見知らぬ謎の女のやる気のなさげな忠告をそれほど真剣に受け止める気にもならなかった俺はそのまま目的地に予定通り移動することにした。


 


 幸い浩平は俺との会話に気を取られていて静かに立って静かに囁いただけの女の存在に気付いてもいなかったしな。


 


 


 実は幽霊じゃ・・・ないよな? 


 


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