真っ赤な雪だるま
「ぞーなむやーかーこそ…ぞーなむやーかーこそ…古典めんどくさい…」
雪降る中で若者が手にした本を見て歩いていた。
いつもいつも、毎年冬に誰かが自分を雪だるまにしてくれて、この場所から世界を見ると、黒い服を着た若者がいっつも何か本を見ながら難しい顔をしている。
毎年毎年、同じ若者だった事は無かったが、難しい顔をして、辛そうな顔をして、楽しくなさそうな顔をしていた。
「なんでXYZなんてモノをやるんだよ……使い道何処だ⁉」
まただ。今度は怒ったような顔をしていた。
「whoとかwhichってなんだっけ……何とか詞…関係詞…だっけ?わかんないよ。whomとかwhatとかも出て来るし、これ無くても会話出来るじゃん……なんでやるの?楽しくないし、これ無くても会話出来てたし!もうやだよ」
本を見ながら泣いている若者もいた。
ここに来るといっつもそうだ。
何度も何度も見ている内にあれが『受験勉強』だって事は知った。
決まった内容を覚えて、それをどれくらい覚えているかで優劣をつけるというモノだ。
面白く無さそうだ。
自分を作ってくれた小さい子は楽しそうに自分を作っていた。
手を真っ赤にして、笑いながら、うまくいかない事を楽しんで自分を作った。
「ったく、数年経って最早他人事だけど……複雑だなー、受験生を目にすると。」
自分の前でぼやく若者がいた。その顔は楽しそうであり、苦々し気で、懐かしいものを見ている様で、自分でもどんな顔をしていいか解っていない様に見えた。
黒い服を着ていない、黒い服の若者より少し若くない気がする若者。
何回か前の雪だるまだった時に見た若者にそっくりだった。
「おぉ、今年もケイタはここに作ったのか。
毎年毎年、受験生のお見送り、ご苦労さん。お前のお陰で俺は先に進めたよ。
受験は苦しかったが、自分の好きなものを好きなだけ追いかけられる今の場所に行けた。有り難うな。」
単なるものの頭を撫でて空を見た。
「七転び八起き。頑張れないとか周りに比べて出来ないとか言いながらも何だかんだ足掻く受験生の健闘に敬礼だ………お前も応援して……達磨と雪だるまは違うか……色が。」
達磨は知っていた。赤色の自分で、願いを叶える奴だ。
久々にあった元黒服の若者の表情が何とも言えなかった。
また見たいと思った。
その為に、動く。
その日、雪の体が動いた。
「ねぇねぇ聞いた?最近この辺に受験生を襲う血塗れの雪だるまが出るんだって…」
「え……怖っ」