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店主と保安官

「うさぎはどこへ行った?」

「そんなものはいませんよ」

「何だと? うさぎはいる、なぜわからない?」

「随分昔にいなくなったでしょう、あんなもの。月にしかいませんよ」

「その月からやってきたというんだ。手配書もある」

「手配書ォ?」

 若い店主は馬鹿にしたように笑う。

「旧時代の遺物みたいな書類持ち出して何言ってるんです? うさぎなんていませんよ。あなたこそなぜわからないのですか?」

「旧時代の遺物はお前の方だろう。月からうさぎがやってきてこの星で餅つきをしようとしているのだ。そんなことになったらどうなる、大変なことになるぞ。お前は餅つきを知らんから能天気でいられるのだ」

「あなたこそ餅つきを知ってるんですか、保安官さん」

「……」

「どうして知ってるんですか?」

「機密事項だ。それには答えられんな」

「保安官さん、あなたこそうさぎなんじゃないですか?」

「何を馬鹿な」

「あなたがうさぎで、手配書のそれもうさぎだっていうなら私はあなたにあなたのことを突き出さなければいけません」

「何を言っている?」

「意識こそが変容するこの惑星で、常に自分自身を疑うことは必要です。まやかしに食べられてしまったのはあなたの方ではないですか? 保安官さん、あなたはご自分の身体を泉に映して見てみた方が良い」

「な、何を、馬鹿な、」

「ご自分がうさぎではないという確信が持てたらまた来てくださいよ。その頃には何か情報も提供できるかもしれませんし」

「詭弁だ」

「詭弁じゃありません。真実です」

「まやかしに囚われているのはお前の方だ店主、うさぎだ、うさぎに化かされて」

「うさぎは人を化かしたりしませんよ。化かすのはたぬきかきつねでしょう。そんなことすらわからなくなってしまったならなおさら泉に行かねばなりません」

 店主はぽん、と手を叩く。

「君、保安官さんを泉に連れて行ってあげてください」

 呼ばれて売り子がふらりと現れる。

「じゃあ行きましょうか」

「どういう、ことだ……俺は……」

 ぶつぶつと呟く保安官の手を引いて、売り子は店を出て行った。



 泉を経由し保安官を詰所まで送り届けた売り子はカウンターに肘をつき、掌だけひらりと店主に向ける。

「あそこまでしなくてもよかったんじゃないですか?」

「何をおっしゃる売り子くん」

「自己認識を不定にしちゃうなんて保安官さんがかわいそうですよ」

「この時代にうさぎだなんて寝ぼけたことを言い出す方がおかしいんですよ」

「はあ。まあ……いいですけどね」

 ため息をつきながら帽子を脱いだ売り子の頭には長い耳が生えていた。

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