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「……お兄ちゃん?」
妹が卓子の上に覆いかぶさるようにして、俺の顔を覗き込んでいる。……近くで見ると、その整った顔立ちが全然俺とは似ていない。父親似の筋の通った高い鼻、母親似のパッチリ二重。まさに両親のいいとこ取りのハイブリッド美少女だ。……この子は本当に俺の妹なのだろうか? DNA鑑定いっとく? ……なんてな。
「……む〜、お兄ちゃん!!」
「おっと、すまんな。……それで何だっけ?」
「もぉ〜ちゃんと聞いてよ〜! だから! お兄ちゃんを調べたいって言ったの!」
「……ごめん、お兄ちゃん、どうやら耳がおかしいようだ。ゆうひが「お兄ちゃんを調べたい」って言っているような幻聴が聞こえてくるんだ」
「──それであってるよ! 大正解!!」
「……大正解しちゃったか〜」
どうやら幻聴ではなく、俺の耳は正常に働きゆうひの話をしっかりと傾聴していたらしかった。なかなか優秀な耳である。いつもありがとうな。……自分の耳に感謝をする俺、マジ思いやりに溢れている人間。
「それでね、お兄ちゃん! 私、お兄ちゃんの駄菓子屋での一日を取材して、それを自由研究として発表したいんだ!!」
「……俺の一日をねぇ〜、何でまたそんな突拍子もないことを思いついたんだ?」
俺がそう問いかけると、ゆうひは少し頬を赤らめると、胸の前で指をいじりながら、恥ずかしそうにこう言った。
「……だって……お兄ちゃんと一緒に過ごせる理由が欲しかったんだもん……」
「……………………」
……俺の妹はこんなにも可愛い。
そういうライトノベルのタイトルになりそうなシチュエーションだった。いやマジで本当に。想像してみて欲しい、今目の前にセーラー服を着た黒髪で長髪の清楚で可愛い美少女が自分の目の前で「一緒にいたい……」と言われている状況を!! これは大ヒット間違いなしの名作ラノベとなるだろう。……誰か書いてくれないだろうか? 他力本願ここに極まれり。
しかし、妹の頼みは兄には断ってはならないという世界の不変のルールというものが存在する。なので俺は潔く妹の頼みを聞く事にする。
「……わかったよ、好きにしろ」
「──わぁ!! ありがとう!! お兄ちゃん!! 大好き!!!」
「──おわっ!」
わざわざ俺の方まで来て、抱きつく妹、ゆうひ。中学二年生。思春期真っ只中だというのに全然反抗期がくる気配がない。……まぁ俺も両親に反抗した記憶はないが……。というかあの両親やこの妹には感謝しかない。
──何てったって、俺をあの地獄から救ってくれたのだから。