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「三好さん、佳代子のお葬式には行きましたか」
「え……はい」
やっぱり。そこだけが、違う。わたしたちとは完全に違うところだ。歪みながらも唇が弓を描くのは悔しさを堪えるためだろうか、強がりからだろうか。自分でも解らない。
「私は、行ってないんです。行けなかったんです」
「え……なんで……」
顔を上げた三好さんの瞳は「どうして」と訴えかけてくる。事の残酷さに青ざめている。瞳は矢継ぎ早に、「信じられない」と訴えかけてくる。
「そもそも、佳代子が亡くなったなんて知らなかったんです。事故があったのは八月が終わる前で。九月入ってしばらくして、それで二学期が始まるわけじゃないですか。で、始業式の前になって、知ったんです。ホームルームで」
「連絡、とかは……」
「珍しがられるかもしれないんですけど、わたしたち、連絡不精の集まりで。普段からメールをしないのは当たり前だったんです。遊びの約束や集合場所決めに使うくらいで。当時はスマホも普及されていなくて、佳代子以外はガラケーだったし、LINEもしてなかったんです。だから、長い間連絡しないなんてことはザラで。佳代子のお父さんやお母さんとも面識はあったんですけど、連絡先までは知らなかっただろうし……」
「そうだったんだ……」
それ以外の言葉が見つからない、といったふうに机の縁を見つめだんまりされてしまうと、少し被害者ぶってしまったかな、と今更ながら申し訳なくなる。それでも、溢れ出てきてしまった感情は止まらず、言葉はまとまらないまま掠れた声で紡ぎ続ける。
「佳代子がこの世から居なくなった後も、わたしたちは呑気に毎日を過ごしていたんですよ。だから、お葬式でさよならを言うことも、泣くこともできなかった」
そして思い出す。あの、低いテーブルの上に置かれたお骨の右、揺れる線香の煙越しに見えた額縁の中を。
「始業式が終わった後、わたしたち、行ったんです。佳代子の家に。そのとき見た遺影は見たことのある学生証の顔写真で、あの子、元々そんな顔だったからだと思うんだけど、笑って見えたんですよ。額縁の中で。微笑んでたんですよ。……『最後に見た笑顔』って、それくらいしか思い出せないんですよ」
こうして思い出してしまうと、今にも泣いてしまいそうだ。全身で堪えようとしているのか、身体が震える。いや、身体が震えるのは涙を堪えているからじゃない。わたしたちから佳代子を奪われた事実への怒りのせいだ。
気がつくと、目の前にある三好さんのアイスが可哀想に溶けかかっている。ハッと目が覚める。
「ごめんなさい。だからって何って話ですよね。食べましょう」
そう言ってナイフとフォークを手に取るも、上手く笑えていない私の顔が、三好さんの目に映っているのがわかる。それでも、三好さんは気を遣ってくれたのか、「そうだね」と眉尻を下げて小さく笑いスプーンを手に取る。
「最後に見れたのが、誰のものでもない、佳代子ちゃん自身のものでもない笑顔だったのが、悔しいんだね」
そうだ。佳代子じゃない佳代子を見たのが最後だったのが、生きてきて一番の後悔だ。また、三好さんの言葉に気持ちの整理をされてしまった。




