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「再会する前もさ、思い出すは思い出してたけど」
さっきは掠れていた喉に、次は痰が絡んでいる。潤すためにライムを搾ってからビールを煽る。
「こんなに毎日だったっけな」
「せめて命日近づいてから、その後何日かまでだったよな」
「うん」
そういえば、と思い出して両肘をちゃぶ台に突いて腕を組む。
「でもさ、授業の間の休み時間、二年のときはなかなか三人で会わなかったよね」
「そうだったっけ。お前とは違うクラスだったけど渡り廊下で集まってただろ」
「でも。そっちから来てくれるの週二とかじゃなかった。あとは私がふたりのクラスに行ってたじゃん」
「何、嫉妬」
テレビに向かって肘を突いたまま、鼻で笑ってから一瞥してくる。
「まだお前、俺のこと好きなの」
「よく言うよ」
「だよな」
ムッとする私の顔を見て揶揄うように笑みを広げてからビールを口にし、また視線はテレビに向かう。
「そりゃ、嫉妬してたよ。佳代子がずるくて。……好きだったし。でも、今はわかんないな。そっちが佳代子と楽しそうに話しててさ。取られたような気分だった」
「そうなのか、そんなつもりなかったけどな」
「それは私とあんたの価値観と立場の違いなの」
「確かに」
はあ、と私は溜め息をついて、再び片肘を突いてテレビを眺める。物騒な内容から一変、お決まりのように相撲やらゴルフやらの出来事を、キャスターはいきいきと話している。元プロ野球選手なのに、よく他の競技にまで明るいもんだ。勉強熱心なのだろうか。
「……あの時は、俺も、確かに好きだったよ。お前のこと」
今言われても、と顔を見ずに鼻で笑ってしまう。あの頃はなかなか言ってくれなかったし、訳の解らない振り方をしてくれたくせに。
「でも、佳代子が居なくなってから、分からなくなっちまった」
ほら、解らない。どうして私と比較対象みたいに言うんだろうか。そうじゃないのは解ってるけど。でも、取り乱すのはわかる。
「うん……。色々、この先とか、考えらんなくなっちゃったよね」
「うん。『おれたち』の中に、佳代子が居ないって、想像できなかった。デートはふたりきりだったのにな」
歯を見せて可笑しそうに、しかし寂しそうに眉尻を下げて笑いかけてくるとテーブルに両手を突いて、よいしょっと、とひと声出して立ち上がる。ライムを皮ごと口に放り込むと、私が持ってきたビニール袋に瓶を入れる。
「持ち帰ってくんね。捨てんの面倒臭い」
「うん」
報道番組のエンディングを眺めていると、クイーンの曲を鼻歌でうたいながらグラスふたつを右手に、ジャッキーカルパスの袋とバドワイザーの缶一本を左手に持ってくる。再びテーブルの向かい側に座ると、彼が口を開く。
「そういえば、昨日上司がさ――」