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漂流できない  作者: まがり 小夜
16/22

9 - 2

「再会する前もさ、思い出すは思い出してたけど」

 さっきは掠れていた喉に、次は痰が絡んでいる。潤すためにライムを搾ってからビールを煽る。

「こんなに毎日だったっけな」

「せめて命日近づいてから、その後何日かまでだったよな」

「うん」

 そういえば、と思い出して両肘をちゃぶ台に突いて腕を組む。

「でもさ、授業の間の休み時間、二年のときはなかなか三人で会わなかったよね」

「そうだったっけ。お前とは違うクラスだったけど渡り廊下で集まってただろ」

「でも。そっちから来てくれるの週二とかじゃなかった。あとは私がふたりのクラスに行ってたじゃん」

「何、嫉妬」

 テレビに向かって肘を突いたまま、鼻で笑ってから一瞥してくる。

「まだお前、俺のこと好きなの」

「よく言うよ」

「だよな」

 ムッとする私の顔を見て揶揄うように笑みを広げてからビールを口にし、また視線はテレビに向かう。

「そりゃ、嫉妬してたよ。佳代子がずるくて。……好きだったし。でも、今はわかんないな。そっちが佳代子と楽しそうに話しててさ。取られたような気分だった」

「そうなのか、そんなつもりなかったけどな」

「それは私とあんたの価値観と立場の違いなの」

「確かに」

 はあ、と私は溜め息をついて、再び片肘を突いてテレビを眺める。物騒な内容から一変、お決まりのように相撲やらゴルフやらの出来事を、キャスターはいきいきと話している。元プロ野球選手なのに、よく他の競技にまで明るいもんだ。勉強熱心なのだろうか。

「……あの時は、俺も、確かに好きだったよ。お前のこと」

 今言われても、と顔を見ずに鼻で笑ってしまう。あの頃はなかなか言ってくれなかったし、訳の解らない振り方をしてくれたくせに。

「でも、佳代子が居なくなってから、分からなくなっちまった」

 ほら、解らない。どうして私と比較対象みたいに言うんだろうか。そうじゃないのは解ってるけど。でも、取り乱すのはわかる。

「うん……。色々、この先とか、考えらんなくなっちゃったよね」

「うん。『おれたち』の中に、佳代子が居ないって、想像できなかった。デートはふたりきりだったのにな」

 歯を見せて可笑しそうに、しかし寂しそうに眉尻を下げて笑いかけてくるとテーブルに両手を突いて、よいしょっと、とひと声出して立ち上がる。ライムを皮ごと口に放り込むと、私が持ってきたビニール袋に瓶を入れる。

「持ち帰ってくんね。捨てんの面倒臭い」

「うん」

 報道番組のエンディングを眺めていると、クイーンの曲を鼻歌でうたいながらグラスふたつを右手に、ジャッキーカルパスの袋とバドワイザーの缶一本を左手に持ってくる。再びテーブルの向かい側に座ると、彼が口を開く。

「そういえば、昨日上司がさ――」

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