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漂流できない  作者: まがり 小夜
13/22

8 - 1

 今日も藤川さんからハッカ飴を貰って頭を働かせている。今日はそこまで眠い、というわけではないのだけど、少し疲れているような気がしてしゃんとしたいので、甘えさせてもらったのだ。爽やかさと甘さがちょうどよく、良い具合に頭を刺激してくれる。首を左右に折ると、パキ、パキ、と聴こえる。特に肩が凝るようなことはしていない筈なのだが。パソコンに向かっていると、藤川さんが申し訳なさそうに顔を覗き込んでくる。

「ねえ、これ、どう思う。『こ』か『と』かわからないんだけど……」

 顧客先から受信したメールに添付されたPDFの内容を特定のフォームに入力してデータをまとめるのだが、少し崩された字で書かれたものが届くとものすごく困る。これを元に書類や商品を発送するのだから、間違えると不適合が出てしまう。

「私が電話で問い合わせて訊いてみますよ。しかし、ややこしい名前ですね。どっちでも名前っぽいですもんね」

「ほんとに。ありがとうね」

 言って、早速、社内メールで添付して私のアドレスに届けてくれる。本当に藤川さんは仕事が早いし要領が良い。

「メールありがとうございます」

 隣にいるのでわざわざメールでお礼を返すこともなく、直接告げるとこちらも早速メールを開いてPDFを確認する。右手にある受話器を手に取る。

 あれから藤川さんは、まだ若干寂しそうではあるけどほとんど吹っ切れているようで、毎日いつものように仕事に力を入れているように見えて安心する。大切に思っている人が毎日を充実させているということは、幸せなことだ。


 今佳代子が生きていたら、どんな仕事をしているだろうか。悩みなく、頑張れているだろうか。毎日を、充実……――。


〈あのー、もしもし。もしもし〉

 電話口の声に意識を起こされる。慌てて会話を繋ぐ。何をやっているんだ。たった数分で済むやり取りの間でボーッとするだなんて。

 最近だめだ。佳代子について考えてしまうことが多い。あいつに再会して、思い出すことが多くなったからだろうか。いや、思い出すことなんてよくあった。でも、こんなに身近なところで佳代子の存在を探しているようなことがあっただろうか。わからない。前までは、あいつと再会する前までは、生きていた頃の佳代子を想うだけだった。でも、最近は違う。近くまで、求めている。今、ここに居ることを求めている。「あの頃」じゃなくて、「今」の佳代子を。

 見てみたかった。佳代子が、今も、幸せで生きてくれているのを。

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