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漂流できない  作者: まがり 小夜
11/22

7 - 2

 上京して私と同じく三年も経つらしいのに、未だに「東口」と伝えてもわからないらしく、「交番」と言えば伝わる。それがなんとも可笑しく、いつの間にか「何駅の」を言わずとも「交番」だけでそこ集合だとわかってしまうようになった。

「よお」

「よ」

 片手を挙げてやって来るのでこちらも手を挙げて返す。

「久しぶりにLINE入れてきたと思ったら何だよ、三好さんって」

「うん、何か話があるみたいで」

「話」

 大きく細長いケヤキを囲んで誰かと待ち合せている人々の間に割り込んで、わたしたちも三好さんを待つことにする。運が悪いな、この時間にこの位置は微妙に陽が当たって暑いし眩しい。丁度ビルに見え隠れするので目がチカチカする。眉間に皺を寄せて不思議そうな顔をされるので、腕を組んで状況を説明する。

「こないだ……火曜、火曜日、ツタヤでまた会ってね」

「拾ったのか、あの山」

「そうなの。で、そのとき話しかけられたの」

「どうして。何かしたのか」

「ううん。まさか。あの日私、会社に百均で買った備品と、参考資料になりそうなものとかを持っていったの」

「うん」

「それを、ほら、高校のときに使ってたスクバ、あれに入れて持って行ったのよ」

「ほう、じゃ、帰りにツタヤに寄ったんだ」

「そう。で、ね」

「……じゃあ、あの人も甲府生まれってこと」

 私が言い切る前に結論に至ったようで、なら、話が早そうだ。……その「話」が何なのかは、今のところは分からないけど。

「バッグ見て気付かれたんだな、二高だって。あの人、二高の先輩なの」

「違うみたい。一高だって」

「へえ……。頭良いんだな。店長だしな」

「え、知ってたの」

「おう、……名札に書いてなかったか」

 そんなことも気付かなかったのかこいつ、と言いたげに腕を組んで私の顔を覗き込んでくる。馬鹿にされているようで、ムッ、と眉間に皺を寄せて唇を結ぶ。

「見てなかったんだな。オケ、オケ、わかった。……しっかし、意外といるもんだなー、近くに。しかもツタヤの店長て。俺とお前が会ったのもツタヤじゃん」

「ね、びっくりだよね」

「ってことは……やっぱり、佳代子のことか」

「……そうじゃないかな。なんか、『君が高校生のときに友達だった子も、よかったら呼んでほしいな』って。時間があったら、って話だったけど」

「それで俺か。俺が今日フリーでよかったな、お前みたいに友達いないわけじゃないんだぞ」

「どういうことよ」

「高校のときの友達って、俺以外にいないのかよ」

「……いないよ、今連絡着く人は。いいでしょ、別に」

「そんな言い方あるか。……まあ、いいか」

 しまった、よくよく考えてみれば他意はなかったのだろうがまるで煽るように訊かれた気がして変に拗ねてしまった。表情を確かめると、視線を逸らしモゴモゴと唇を動かしてから空を仰いでいる。額に左手で日傘を作り、あちーな、と呟く。

「暑いね」

「てか何時集合よ。三好さん遅くね」

「ああ、うん、ヨドバシで買い物してから駅のロッカーに預けてこっち来るって言ってたから、大体十三時前後だってさ」

「なんだよー、それ早く言えよ。聞いてたらもう少しギリギリに来たのにさ」

「でも、あんたん家からだと適当なタイミングでしょ」

「そういう話じゃねーよ、どっかで涼んでから来れるのに、もう四十五分じゃねえか。今からコンビニかどっかで涼もうにも微妙だしよ」

 翳していた左手は身体の前に来て、視点が下りる。私もそちらを覗き込むと、アボカドの皮っぽい革のベルトで固定された時計の針は言われた通り、一の近くと九を指している。

「というかさ、火曜に約束したんならその日に連絡してくれてもよくね」

「それがさ、火曜はちょっと立ち話しただけなの。で、今日、美容室で会って。時間ないかって」

「なんだそれ。まるでナンパみたいじゃね」

「あはは、そばにいた美容師さんもそう言ってた」

 そう言って私はトートバッグからハンカチを取り出す。あまりにも暑くて首筋に汗が滲む。何か自販機で適当なものでも買っておけばよかったか。それでも今からどこか喫茶店へ入るのだろうから、トイレの加減を見て飲まない方が賢いか。まだ我慢できるし。あーあ、メイク直ししないとな。

 その後、なんたらかんたらと最近見たテレビ番組の話や会社での出来事を話していると、改札口から三好さんが現れた。三好さんがわたしたちを見つけたようで、小さく頭を下げると向こうも同じように頭を下げ、申し訳なさそうに右手を挙げる。

「そういやさ、お前の同僚の……」

「三好さん」

「どうも、お待たせしましたか」

「いえ。ん、何」

「いや、なんでもない」

 何か言いかけたようだが、どうでもいいことのようで首を横に振る。

「あ、君だったのか。どうりで、何か、どこかで見たことがあるような気がしてたんですよ」

「俺っすか、ツタヤ以外でですか」

「うん」

 三好さんは頷くと、「近くのスタバで何か飲もうか」とそちらへ爪先を向けた。

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