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6:夜間飛行と羊雲

羊雲が加速する回です。

 この付近の星団では緩やかな連邦制度をとっており連邦法の名のもとにAIが様々な問題や事件を裁いていた。ただしAIにも限界がある。連邦法はあくまで大きな枠組みしか決まっておらず、実際は過去の事例を参考にしていた。曖昧な定義で判決を行うことは後に禍根を残すこと、新たに生まれた技術や変化しやすい支配圏に連邦法の適応が困難なこともあり、現地の現状に合わせた司法が必要不可欠であった。

 こうして大昔のフィルム映画ででてきたようないわゆる保安官より少し権限の多い限定裁判員制度が生まれたのであった。

 

惑星タウ9の地表の国際空港の係留スペースで、限定裁判官助手のステライトは羊を探していた。

もうちょっと正しく言えば、羊にそっくりな宇宙トラックを探していた。宇宙文化保存委員会本部の惑星で持ち出し不可能な資料を閲覧する予定を立てたが、移動手段が見つからなかったのだ。宇宙文化保存委員会本部の惑星は主にデータセンターと一時保管庫があるだけなので他にめぼしいものもない。観光便どころか定期便も出ていなかった。ちなみにステライトとそのコンビの官僚は都市型倫理事件担当で宇宙船免許は持っていなかった。最終的にステライトが権限を利用して涙目で関係各所に協力要請を行ったところ、補給中の宇宙トラックを紹介されるのであった。

 

 端末用のドローンを接続した自走式台車を走らせて羊号のAIモノリスは補給物資を引き取った。羊号に帰ろうと歩行路を移動していると、カラフルな布の塊がうろうろと彷徨っていた。

 安全のために台車を止めるが布の塊は動きは止まらない。進路予測も確定不能。

 モノリスは安全を確保するため布の塊を止めようと声をかけた。

「何かお困りのようですが、いかがなされたのですか?」

 回答は

「羊がみつからないのです」

 というものであった。布の中にはどうも人型の生物がいたようだ。


 山は宇宙船の前にいた。今回の乗客を待つためだ。

補給物資を取りに行ったモノリスから連絡が入り本日の乗客のうち片方とランデブーしたと連絡あった。ついでに荷物版をして入りもう一方の乗客を、待合室で回収してくるそうだ。

最近では化繊ファイバーの対デブリ外装が普及していた。クレーン部分が首に見えるアルパカや、大型開閉ハッチがついたヤギ、背の高いタイプのカシミアなどに囲まれて、羊号は埋没していたのである。

大気圏内輸送艦は空気抵抗を減らすため流線型の平面タイプの外装を持ちことが多く、地球文明圏に近い価値観を持つ男児にはこちらのほうが人気があった。

添乗員の資格も持つ山は、モコモコの草原の中で発信前のブリーフィング手順を確認し、ため息をつくのであった。


「小型輸送船で星間旅行をするための事前説明を始めます。これは運送者が旅行者に必ず行わないといけないのでつまらなくても聞いてください。まずこのあたりの星域はデブリが多いので船外へ脱出する場合は必ずこの救命ボールを膨らませて中に入ってください。赤いボタンを押せば勝手に膨らみ生命維持装置と救命ビーコンが作動します。AI付きの推進装置もありますので移動の際はナビに従って移動してください。本艦はこのあと夕方ごろに大型空中船で空気の薄い超高空を飛行する発射場に運ばれたのちに、夜中当たりにマスドライバーで重力圏を離脱します。地上ジェット機が離陸する程度の加速がかかりますが、お客様の体や荷物はだいじょうぶですか」

 山はめんどくさそうに説明した。しかしこの説明をしておかないと危険なのだ。過去にもスライム形態の乗客が吹き飛んだり、精密すぎる結晶構造が吹き飛んだり、マスドライバーの次回のせいで鉄系金属のアンドロイドが船に張り付いてとれなくなる事件が発生している。

 乗客である限定裁判官と助手からは問題の声は上がらなかった。

「紹介されたときに確認は取っていると思いますが食事は標準的なものになります。宗教上で食べられない場合はこの後時間を取りますので別途空港で購入してください。本艦は客船は客船ではありませんので別途は貨物室に設置した簡易ベットになり、トイレとシャワーは性別にかかわらず共通となります。必ず鍵をかけるのを忘れないでください。大体以上です。なにか疑問はございますでしょうか」

 布の塊の助手が手を挙げた。

「軌道エレベーターじゃないのですか」

「それについては私が説明しましょう。この惑星タウ9はテラフォーミングの必要性が非常に低い環境であったため、天候に余計な影響が出ないようにする必要がありました。また仮にエレベーターを建設するとした場合の建設候補地付近には建設中の都市がありました。テロリストのターゲットなどにされエレベーターが倒壊した場合の被害予測が甚大だったため、建設計画は否決されました。これにより惑星各地の都市そばの上空を飛行する発射場、通称"夜鷹"を共同管理する案が可決されたのです。」

 ドローンの上からモノリスが説明した。

 銀縁眼鏡の限定裁判官も手を挙げた。

「何か打ち上げまでの注意点はあるかね」

「夕方から夜にかけて移動で揺れるので、今のうちに食事と昼寝をお勧めします」

と山は答えた。


 夜鷹は空に浮かぶ巨大な構造体だ。万が一の場合は空中で細かく分散するようにできている。そして日光を遮る面積も馬鹿にならないため、惑星タウ9の夜の部分を飛び続けることとなった。エネルギーは地上から供給されるマイクロ派を利用しているので燃料や大きなエネルギータンクも積んでおらず見かけによらず軽かった。

その背中の上のマスドライバーに向かって地上から輸送されたモコモコ達が一列に並んで順番待ちをしていた。

マスドライバー前の信号が青になるとモコモコが移動して、台の上に載せられる。共通規格のフックで固定された羊号は台ごとマスドライバーの上に載せられて、カウントダウンとともに次々へと宇宙へ放り出されていく。

 やがて衛星軌道上にのった羊号は、前方確認のため目に見える窓のシャッターを半開きにした。昼の部分が見えてくる。先に飛んで行った宇宙船が光に照らされて輝き始め、一列になって飛んでいるのがよく見える。モコモコの宇宙船達は惑星タウ9をぐるりと一周輪を描いてからそれぞれの場所に散って行くのであった。

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