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4:送る言葉と添えるもの

同族、異種族が食らい合う話です。一応ハッピーエンドですが苦手な方はスルーしてください。

 羊号はコンテナに乗せられた。今回の出番はほぼお終い。

荷物を届け先が地球型の移住可能な惑星の地上表面にあるのだが、羊号は単体で大気圏突入と再離脱はできないのだ。

搭載されているEM型推進器は三角コーンの底面を板でふさぎ底面の板に頂点から電磁波をあて、様々な複合要因で推進力を得る機関だ。ガスも出さず密閉されているので壊れにくくメンテも簡単。燃料を積まないので軽いのだが、大昔から使われているロケット推進器に比べると推力が弱いのである。もこもこした外装も大気を飛ぶのに邪魔だった。そこで離着陸能力を持つコンテナをチャーターしたのであった。

 円錐上のコンテナは大気の下へ炎を上げて落ちていった。


 地上で待っていたのは朝日とサイバネティックな女性だった。

「遅れると聞いていたけれど半日もずれなかったな。おかげで助かったよ。ところで仕事の追加は届いているかい?少しここに留まっていてほしい。離脱の際は荷物を積んでいってほしいんだ。余剰の積載重量を教えてくれないか?ここは検疫済みだからヘルメットは外していいぞ」

一方的にたたみかけられた。

 この業界仕事が途中で増えることはよくあることなので、本社への確認と大気圏外への計算をするようモノリスに伝えた。


 山がヘルメットを外すと、女性が荷物を組み立てていた。バックパックからチューブが伸び、先端にトリガーのついたノズルの後ろにつながれていた。

女性が背負って動作を確かめている。まるでスタジアムのビール販売員のようだった。

「ああこれかい?これは食料専用合成器さ」

 仕事を終えたモノリスも端末のドローンを飛ばしてやってきていた。

「まずは私の仕事をはなそうか。そのあと今後の予定ついて話し合おう。まずはあれを見てほしい」

 山とモノリスは女性の指さす方を見た。そこには長細い何かがいた。どう見ても長い尻尾のハルゲニアだった。


 ハルゲニア(仮)の大きさは大型犬ぐらいだった。色は白で、女性に話によるとこの星固有の知的生命体らしい。ほかにも亜種がいるらしいが一番温和な種族が彼ららしい。

 彼女の仕事は宇宙文化保存委員会で、後回しにされていた彼らの文化を調査することであった。

「彼らは存外賢いぞ。私を知的生命体と認めたらしいのだ。コミュニケーションを取ろうと接触してきたのは彼らだけだ。何度か調査したところ、彼らは独自のコミュニケーション方法で相手に意思を伝えていることが分かってきたのだ。あれを見たまえ」

 彼女は別の方向を指さした。

 そこには2匹、体液を散らしながらお互いの尻尾を食い合うハルゲニア(仮)が存在していた。

 端末ドローンに映るのモノリスは振り返るとこう述べた。

「これは、つまりどういうことなのでしょうか?」

 

 女性の語ることによると、彼らの尻尾はほとんど分泌物の塊でできているらしい。そして簡単に再生するらしいのだ。

 ハルゲニア(仮)は尻尾の味でコミュニケーションをとっているらしい。

「初めの接触の時の何度かは機械の腕をかじられて変な音を出されたもんだ」

 調査記録のために、ほとんど全身を機械化していたため、かじられた腕は交換するだけで済んだと女性は笑って話してくれた。

 ちなみに彼らの食べれるものは、こちらも普通に食べれるということだ。

「まあ危険なものを食べた時は人工胃袋ごと破棄すればいいしね。所で彼らと話すときは、感情や文化の数値化プログラムに私の味覚をリンクして言葉を分析させてもらっているんだが、解決したい問題があってね」

 それってつまり彼らの尻尾を食べていたのか?

「食器をこちらの口や尻尾と認識してもらったのは良いが、食べられる部分の用意が難しいんだよ」

 やはり食べているのではないか?件の食料合成器は尻尾を作るためのものだった。


 この後彼らと会話を繰り返し、言葉として合成した尻尾のサンプルを委員会に送るらしい。山達はしばらく彼女の仕事を見学することにした。

食料合成器とデータリンクした彼女は、皿の上に様々な味のクリームから氷までを盛りて付けハルゲニア(仮)にさしだした後、尻尾を少量もらいかじりついては頷いていた。

 どんな味がするかと聞くと、大豆やイモやシリアルに薄く味がついたようだと答えられた。基本的に人間が食べたときの顔と彼らの感情に相関があるらしく、変な顔になる味の時は、彼らも変な感情であるらしい。また尻尾は食べきれるだけの量を摂取するのがマナーらしく、食べたぶんを吐き出すことは嫌悪されることがあるらしいと教えてくれた。

「それでも白い彼らは意外と理知的でね、話合いで解決しようと尻尾を口に押し込んでくる程度だよ。亜種に少し粗野なのもいるがね。けれどそんな場合でも早まって攻撃はしないでほしいな。亜種も含め彼らとは、大抵のことが話し合いで解決できるからね」

そもそも文化保存が仕事だからと彼女は楽しそうに笑って言った。



 この星の太陽が空高く上ったころに、山は食事を取りに着陸したコンテナに向かった。そして女性のところに帰ってくるととんでもないことに巻きこまれた。

モノリスが警戒していたのにも関わらず、周りを黒い像並みの大型ハルゲニア(仮)に白いハルゲニア(仮)ごと囲まれたのである。

 音もなく現れた黒いハルゲニア(仮)はこちらが動くと明らかに回りこんで妨害してきた。女性が言うには一番力がある亜種らしい。

性格は一言でいうと偉ぶる侍のようなものだということだ。あまり刺激しないほうが良いだろう。

 武器は持ってきているが何分数が多すぎた。とっさに武器に手をかけてはいたが、攻撃のタイミングが難しい。にらみ合いが続く。

しばらくすると一際大きな体に個体が皿の上に尻尾を載せてきた。強烈な酢酸のにおいが立ち込めている。白いハルゲニア(仮)達はそこからゆっくり退いて行く。

 女性は皿の前に進むとふむとうなずきナイフで削って飲み込んだ。

「これは非常に酸っぱいな。こちらを警戒して牽制している味だ。辛味も含まれている。こちらを脅しに来ているぞ。だが食べられないほどではない。規則正しい調和もみられるこの味は・・・交渉の余地はある。だがベースのイモの味に対して何かが足りない、説明が足りないのか。つまり私たちが何であるかを証明しろということか」

 女性は冷静に分析した。

 

 難しい問題だ。こちらが何者か納得させられる味を出せと言ってきている。一体どうすればいいのだろうか。

 食料合成器と使い始めたばかりの味の言葉で、果たして大型ハルゲニア(仮)を説得することができるのだろうか。

 山の手にあるものは武器とコンテナから持ち出した食料だ。

 山は食料のパッケージを見ると女性に向かって声をかけた。

「一応こちらの食料は、でっかい奴らも食えるのか?」

「可能だぞ」

 彼女の答えを確かめて、懸けに出ることにした。

 

 山はパッケージから料理を選ぶと、皿に盛り付け差し出した。

 一番大型ハルゲニア(仮)の皿に置かれた対話のメニューはこうなった。

〈梅干しとおかかのおにぎり~沢庵をそえて〉


 大型のハルゲニア(仮)はおにぎりと沢庵を口に入れると時間をかけて咀嚼した。

 咀嚼して咀嚼して咀嚼した後に、ピクリとも動かなくなった。

 やがて日が暮れるころ、大型のハルゲニア(仮)は動き出した。

 皿とコップを山の前に置き、コップ一杯分の液体と一つまみの白い粉を盛りつけた。


「さっきのメニューを盛りつけた君に対する回答だ。それは君が食べまえ。死ぬことはないと保証するよ」


 山はため息をつくとコップと皿に手を付けた。

「一体どんな味でしょうか?」

 モノリスが質問する。

 まずは粉、天然のにがみと微かな甘みが感じられる。

 そして液体、鉱物の味のしないやわらかななにかが口の中に広がった。

「ただの水と食塩みたいだ」

 それを聞いて女性は言った。

「どうやら敬意を払ってもらえたらしいな」

 それなら何とかなりそうだと山は再度ため息をついた。


 その後、白いハルゲニア(仮)も加わって話し合いが行われた結果、無事に解放されるのであった。


 数日後、味のサンプルが出来上がり、山達は帰る事になった。

 別れの間際に女性は言った。

「今回はいろいろありがとう。次があったらまた頼む。そういえば私の名前を言っていなかったな。君の名前も教えてくれ」

 多分次はないだろうと山はこの星最後になるであろうため息をつくのであった。

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