チートモニター大募集!
ある日、特にやる気は無いものの、求人誌を眺めていた。
今のバイトに不満があるわけではない、けれど仕事前はなんとなく現実逃避したくなるのだ。
「チートモニター大募集! 初心者でも安心! お気軽にご応募ください!」
「時給2500円! 能力によって昇給の可能性アリ! 1日限りの超短期!」
ただそう書かれただけの枠を見かけた。
なんなんだ? 連絡先も、内容も無い。何かのイタズラだろうか?
この求人以上に、この求人誌を作った会社の方がヤバいのではないだろうか。
「んー、でも簡単な内容で時給2500円ならやってみたいなぁ」
そんな事をふと呟いてしまった瞬間、俺は白い空間へと飛ばされていた。
「よくぞチートモニターに応募してくれたのじゃ! 歓迎するぞ!」
そこには一人の……
「おっと、それ以上無駄口を叩くでない」
「無意味な情景や人物描写を挟まれるとコストがかかるのじゃ」
情景? 人物描写? コスト?? 何を言っているのだろう。
「今回は外注さんに無理言って用意してもらったのじゃ」
「3000文字制限は健在じゃし、さっさとモニターをはじめてもらうぞ」
えっ、いやいや何のモニターなんですか?
やってみたいとは言ったけど、内容もわからないんですが。
「求人誌に書いたとおりじゃ。チートの性能試験じゃ」
チート? 性能試験?
「おぬしにチートを付与し、その使用感を調査するわけじゃ。簡単じゃろう?」
「まぁよい、試しにやってみればわかるじゃろ」
そういうと、俺の足元に魔方陣があらわれ……
「じゃから余計な描写を挟むでない」
「さて、最初はお試しで”パンチ一発で相手を確実に殺す”スキルじゃ」
なんかそれどっかで見たことある気がするんですが。
「実験動物オーク君かもんじゃ!」
そう言うと出てきたのは……
「オークと言われて出てくるのはオークなんじゃから、そういうのはいいんじゃ」
あ、はい。それでどうすればいいんです?
「一発殴ってみるがよい」
はぁ……。ではとりあえず、せいっ!
……ってなんですか!? オークが木っ端微塵になったんですけど!?
「んー。ぐろてすくじゃな。これは外注さんが表現する時SAN値が下がりそうじゃ」
「もうちょっと絵的に表現がしやすい能力の方がよいかのぅ」
そうですね、俺もかなり気持ち悪いです。返り血まみれですし。
というか、あの人形が精巧に作られすぎてるせいじゃないですかね。
「……そうじゃな。人形じゃから気にするでないぞ」
「次は気分の上下で冷気と熱を手に纏う能力じゃ」
へぇ、それもどっかで聞いたことあるような。
あ、なんかすごく手先が冷えてきました。
「おぬしてんしょん低すぎんかのぅ?」
「もうちょっとやる気出さないと自身が凍り付いてしまうぞ?」
えっと、オーク君出す前に俺の腕がほぼ凍り付いてるんですが。
これはチートというか自爆系デバフじゃないですかね。
「確かにそうじゃの。これも却下じゃ」
「しかし、おぬしのやる気が低くて助かったの。逆なら今頃消し炭じゃろうからな」
しれっと怖い事言いますけど、それって労災降りますかね。
「大丈夫じゃ、ちゃんと蘇生くらいしてやるわい」
それ大丈夫じゃない気がする。
「次はどうするかのう。何か希望はあるかのぅ?」
え、急に無茶振りっすね。
じゃぁ、超高速移動ができる能力とか?
「やってみるかの。とりあえず反復横飛びをしてみるのじゃ」
うわー! すっごーい! 床が摩擦で燃えてる!!
って!? 服も摩擦熱で燃えてるんですけど!?
「これも駄目じゃの。全裸系主人公は色々とあうとじゃ」
ところで、何でこんな事してるか聞いていいですか?
「いやの、最近なろう小説を読んだのじゃ」
あぁ、はいはい。流行ってますもんね。
「そしたら神ってのはチートスキルを付与するもんだと気付いたんじゃよ!」
「ワシ、神なのにそんなの知らなかったんですけど!?」
へぇ、貴方神だったんですか。
「それでワシもやってみたくなったのじゃ。で、どうじゃった?」
うーん、センスなさそうですね。あきらめてください。
「ひどいっ!? ワシだってせっかくの神の能力を活かしたいのじゃ……」
あんまり物騒な能力与えない方がいいですよ?
だいたいのなろう系ってチートすぎて話が破綻してますし。
「じゃからワシは1つの能力に限定しようとしておったのじゃ」
あ、一応考えがあっての事だったんですね。
んー、でも3つしか試験してないとは言え、どれも使いこなせなさそうですよ。
もっと相手の性格とか適性を考えた方がいいんじゃないですかね?
「ふむ、言われればそうかもしれんの」
「前の外れ能力を引いた者も、適性があったのかうまくやっておったしのぅ」
って、モニターは俺が最初じゃなかったんですか……。
前の人がどうなってしまったか気になりますね。ロクな事になってなさそうですが。
「チート試験はおぬしが第一号じゃ。まぁよい。さて、実験の続きを……」
あの、ちょっと気になった事があるんですが、いいですかね?
「なんじゃ?」
後ろに居る方はどちらさまで?
「……後ろ?
ワシは、恐る恐る振り返る。するとそこには顔こそ笑顔だが、怒気を隠し切れていない……」
『ねぇねぇ? 描写はいらなかったんじゃないのかなー??』
『で?? なんで俺がここに居るか分かってるよねー??』
「すっ……すみませんでしたーーーーー!!」
ゴスッ! という音と共に地に伏せる自称神。
神殺しの少年は、俺に聞こえない声で地に伏せる神(仮)に何かを言い終えると
共に来ていた大柄な男の腕を取り、どこかへ消えてしまった。
って、神かもしれないそこの人、大丈夫ですか?
「ほぼ神じゃなくなってるではないか!?」
いや、今の様子みてたら神様っぽくないですし。
「うぅ……まぁそれも仕方ないのう」
「今回は叱られてしまったからの、あきらめるとしようかのぅ……」
今回はって次もやる気なんですか。
「当然じゃ!せっかくのこの能力、活かすべきなんじゃ!」
はぁ、がんばってください。俺はバイト代もらえればそれでいいので。
「あぁ、そうじゃったの。ほれこれがバイト代じゃ」
中身確認してもいいですか?
「もちろんじゃ」
……諭吉さんが10人!?
「時給2500円じゃからの」
えっ!? ちょっと待って、そんなに時間経ってた!?
「40時間じゃ」
あ……これはバイトサボった事になるのでは……。
「向こうでは今、捜索願が出された所じゃ」
あぁ……オワッタ……なんて言い訳しよう……。
はいはい神様! 時間操作能力をください!!
「チートモニターのバイトは終わっておる。残念じゃったな」
このクソ神がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
外注さんこと島一守ですっ!
今回は短編ですが3000文字以内の爆速超特急展開!
短編は1万文字超えが普通だったんですが、やればできるもんだね。
てことで神様は与えるチート能力を研究中らしいです。
その研究成果は、よい方向に使われる事があるのでしょうか。
連載中の「爆死まくら」もどうぞよろしくお願いしま~す!
→https://ncode.syosetu.com/n9392fa/