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とある転生担当の手記

作者: 積木夕景

 はいどうも、始めまして。今日から手記をつけてみることにしました。


 異世界転移と転生を担当する天使です。名前はそうですね、マルコとでもしておきましょうか。


 何でこの手記をつけ始めたのかといいますと、一応この転移と転生の担当、というのは我々天使の中でも人気の職業でして。普段どんなことをやってるのか知りたい! という人が多かったからなんです。


 この仕事場に配属されてからはかなり時間が経ちました。この部署の中でもかなりのベテランですからね。面白い話がたくさん出来ると思いますよ。








一日目


 今日から手記をつけていこうと思います。今日の業務は......と。ああ、第21668世界線のファンタジー世界からの勇者召喚の要請ですか。


 基本的にはその世界の神々から要請を出され、それを僕が受諾してから召喚、といった流れになります。今回の案件は......っと



『別の世界から邪神が紛れ込んだ。現地の冒険者がなんとか封印したが、あと十年と持ちそうに無い。邪神を倒せるチート持ちの転生者希望』



 なるほど。この要求なら通さざるを得ませんね。何せ他の世界からの攻撃ですから、此方の不手際でもあるわけです。


 おっと、相手が世界の神々なのに何で上から目線なのか気になりますよね。


 一応此方は全ての世界を管理する創造神様の眷属ですから、たかが一つの世界を管理する神々とは明確に立場が違うのです。


 分かりやすく言うならば、こちらは本社の管理職で、あちらは雇われ店長といった具合でしょうか。




 話が逸れましたね。邪神を倒せるチート持ち、ですか。えらくざっくりした要望ですね。


 何々、追伸がありますね。


『出来れば地球の日本人でお願いします』


 やはり人気ですね、日本人は。あそこの国には異世界転生や転移を題材とした本やアニメがゴロゴロ転がっていますから、理解が早くて助かりますからね。







 それでは早速召喚していくとしましょう。場所は日本。年齢は......まあ中高生辺りにしておきましょうか。おっと、端末を開いて始めて見た一人目が、今正に自殺しようとしているではありませんか。


 ふむ、彼には悪いですが好都合ですね。今回の召喚は彼にしましょうか。


 召喚の為に場を整えていきましょう。小説なんかでは割かしトントン拍子に物事が進むことが多いですが、現実はそうは行きません。


 召喚した人が転生や転移を選んでくれる確立は、良くて二十パーセントくらいではないでしょうか。


 その確立を上げるために、下準備は非常に重要です。


 まずは召喚する人間の趣味嗜好をしっかりと調査。まあ主に好きな女性のタイプとかですね。ほら、異世界へと案内する女神様がブサイクだったら誰も転生なんてしてくれないでしょう?


 まあごくまれに、お爺さんとかが案内したほうが好印象をもたれる場合もあるのですが。それは稀有な例ですね。


 今回召喚予定の彼、名を三神修也(みかみしゅうや)君は年上のお姉さんがタイプのようですね。初恋は近所の優しいお姉さんですか......まあその恋が実ることは無かったようですが。


 それでは今回は年上姉系女神でいきましょうか。まあとはいっても僕が姿を変えるだけなのですが。









 三神修也君はテンプレ通りいじめを苦にして自殺したようでした。次の世界ではチートを使って楽しく暮らせますよ、とささやきかけると二つ返事で異世界に行くと言ってくれましたね。仕事が楽で助かります。


 今回はチートを渡す際にゲーム画面で初期ステータスをポイントで割り振るような形にしてみました。ここらへんは僕の趣味ですね。


 ......というか最近の少年は必ず抜け道を探そうとしますよね。バグで最強チート物の読みすぎではないでしょうか? この僕が長い時間をかけて作ったこのシステムに、バグなどあるはずが無いというのに。


 三神君もその例に漏れず、必死に画面の端っこをつついたり、何やら試行錯誤していましたが、やがて諦めて普通にステータスを振っていました。


 普通に振ってもチートなんだからそこで満足してください。





 とまあここまでが彼、三神修也君が転生するまでの流れでした。まあ僕の仕事はここで終わりではなくて、彼が邪神を倒すまで一応見守らないといけないんですよね。






二日目


 今日は非常に目覚めの良い朝でした。昨日同僚から頂いたワインを軽く飲んでから寝たおかげでしょうか。非常によく眠れましたね。


 それで、三神君の様子は......っと。


 僕が寝ていた間にだいぶ時間が進んでいたようで、五歳の身体に転生した彼は早くも十歳になっていました。


 ちょっとログを読んでみましょうか。





五歳 


 オルテネス王国の子爵家であるレイディア家の三男、ヴァルト=レイディアとして転生。五歳を期に前世の記憶が戻る。


 この頃から魔法の才覚を表し、神童と呼ばれるように。


六歳


 お披露目のパーティーへ向かう途中偶然王女に出会う。またその際に盗賊の襲撃を受けるが、その魔法で撃退。王女の婚約者となる。


七歳


 日課の仮の際に、傷だらけで倒れている少女と遭遇。魔族ではあったがこれを助ける。少女は記憶喪失。


(追記:魔族の少女は魔王の娘であるリリコット=オーヴェルディア)


八歳


 魔王の娘を従者として、王国の中央学院に入学。その際、類なき才能に嫉妬から嫌がらせを受けるが、そのことごとくを撃退する。


 また、婚約者である王女も同級生として入学。八歳にして既にハーレムを形成し始めている。実に羨ましい。


九歳


 王国に突如として襲来したドラゴンを一蹴。ドラゴンスレイヤーとしてその地位を確立する。


 またこの頃から一学年下に入学してきたエルフの少女がハーレムメンバー入り。爆発しろ。





 抜粋するとこんな感じですか。


 ふむ、なかなか順調ですね。このレポートを作ってくれた調査担当の天使に後で感謝のメールを送っておきましょう。まあ主観が混じっているのはいただけないですが。まあ仕方が無いでしょう。


 ここまで順調であれば介入する必要は無いでしょう。今回は楽な業務になりそうですね。


 魔神の復活まであと五年ですか。ここからは少し此方の時の流れを遅くしておきましょう。何か起こった時に直ぐに介入できないと大変ですからね。


 一応調査担当からの連絡に直ぐ気がつけるように携帯のマナーモードは切っておきましょう。








四日目


 三日目は特に何か書くようなことも無かったので割愛させていただきました。


 端末を開いてみると、何やら通知がありますね。これは......ああ、だいぶ前に担当した世界からですね。


 そうやら世界を救った転生者が世界のバランスを崩しかけているようですね。だからあれほど『銃器を召喚する能力』を持った転生者の扱いには気をつけろと言ったのに。


 一応神罰担当にあの世界から銃器を無くして転生者の能力を剥奪するように要請しておきますか。





 おっと、三神君にも変化が起きたようですね。今度は端末でそちらの世界を覗き込んでみるとしましょう。


 



 現在彼は十三歳。ハーレムメンバーも五人に増えています。人生の絶頂といった感じでしょうか。


 学校を飛び級で卒業した彼らは、冒険者として身を立てているようですね。早くも最高ランクまで駆け上がっているようです。


 それにしてもいつも思うのですが、王女を冒険者として同行させるのはどうなんでしょうか。意外とあるケースなんですよね、これ。


 普通に考えれば危険極まりない冒険者として王女を活動させるなどあってはならないと思うのですが......まあ人の考えることは分かりませんね。





八日目


 大変な事が起きてしまいました。どうやら王女が死亡したようです。どうも魔神復活を目論む組織との戦闘中にやられてしまったようですね。


 これが心の強い転生者であれば復讐心やらなんやらでむしろやる気になるのですが、彼の場合はちょっと不味いかも知れませんね。


 ああ、案の定心が折れてしまっています。ハーレムメンバーの中にも彼を立ち直らせる事の出来る方はいないようです。

 

 魔王の娘さん、もっと頑張って下さい。ここで頑張ればアナタがメインヒロイン昇格ですよ。


 ......とまあ意地の悪い事を言うのはやめにしましょう。今回ばかりは私がいく必要がありそうです。


 この間使った女神の姿に変身し、彼らの元へと向かいます。ちょちょっと適当に話をして、王女を蘇生。今回限り、という警告をして戻ってきました。


 ふう、やはり世界を渡るのは疲れますね。できればあまりやりたくは無いですね。あまり介入しすぎると、あの世界が不安定になってしまうので注意しなくてはいけません。あと一回が限度でしょうか。






十日目





 僕のサポートの甲斐もあって、立ち直った三神君。今では立派な勇者として世界中から賞賛を集めています。


 さあ、魔神も復活し、ラストバトルの始まりですね。






 ......ちょっと不味いかも知れません。ほんの少しですが魔神の方が強いです。


 渡すチートが少なかったかも知れないですね。これは私の不手際です。


 とはいえ三神君一人であれば何とか倒せる位の力ではあるのですが、回りのハーレムメンバーが足を引っ張っていますね。


 ハーレムメンバーが全滅したりすれば三神君の勝利で幕を閉じると思うのですが......いや、逆に心が折れてしまうかも知れませんね。


 それではハーレムの女の子たちが存命な間に、介入するとしますか。




 なんやかんや言ってきましたが、物語はハッピーエンドが一番ですよね。









 僕が介入して、三神君に授けたパワーで、魔神はあっけなく消滅しました。まあ今回は彼の元に直接降り立ったわけではないので、彼自身は土壇場で覚醒したと思っているでしょうが。


 ハーレムメンバーと共に喜んでいる彼を見て、仕事が終わったことを実感します。




 とまあ転生担当の天使とは、日々こういった仕事をしている訳です。まあやりがいはありますし、楽しいと思わないことも無いですね。





 おっと、また通知が入りました。何々......?


『急募、俺の世界にクラス転移してきた奴らが全員チートすぎて世界のっとられそう』


 こりゃまた......僕が召喚を却下したのに無理やり召喚に及んだようですね。一応様子を見てきますか......

   

拙作「俺とエルフとスーパーカブ~原チャで行く異世界旅絵巻~」が連載中です。


よろしければそちらも見てくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] このような異世界転生、転移などの裏側を読むことができる作品、とても好きです。 楽しませてもらいました。 文章もテンポ良く、状況もわかりやすい表現で書いてくださり、読みやすかったです。
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