98:フルムス攻略作戦第一-3
「な、なんだ!?」
「地面が揺れ……」
「落ち着け、慌て……ギャアッ!?」
『スィルローゼ・プラト・クラフト・ソンタワ・アハト』。
これはスィルローゼ様の魔法の中でも、少々特殊な物だ。
まず、発動に当たっては、スィルローゼ様の茨を用いる領域魔法を別に発動しておく事と、発動点に発動者が所有していた履歴のある植物の種子を置いておく必要がある。
そして、植物の種子にも触れておく必要があるのだが……そちらは『スィルローゼ・サンダ・ソン・コントロ・フュンフ』で周囲の茨を私の体の一部としているから、問題は無い。
「アレは……」
「塔……領域強化の一種か!」
「なんて規模だ!?」
そうして魔法が発動すると、発動点には茨の塔が出現する。
『Full Faith ONLine』の頃は信仰値がカンストしていても建物の一階ぐらいの高さだったが……どうやら代行者である今の私が使うと、高さ10メートルは優に超えるようだし、地震のようなものも起きるらしい。
銀色覆面たちも私への殺意を表す以上に驚いている。
「領域解除を使え!」
「まとめて吹き飛ばしてしまえ!!」
「分かっている!!」
塔の数は事前にセットしておいた短剣の数と同じ10本。
場所は私が埋めた場所から生えているのが5本で、私が埋めた後に何者かが掘り出したのか、埋めたのと違う場所から5本の塔が生えている。
で、塔の1本は昨日の内にくすねていたのだろう、私に襲い掛かろうとしていた銀色覆面の懐から出現した。
これは都合がいい。
「「「『ヤルダバオト・ミアズマ・エリア・イロジョン=デストロ=ユズレスライズ=ディスペル・フュンフ』」」」
「さて……」
銀色覆面の何人かが領域解除魔法を発動する。
だが、茨の塔も領域も微動だにしない。
「なっ!?効かないだと!?」
「どうなっている!?」
「『スィルローゼ・プラト・エクイプ・ベノム=ソンウェプ・ノイン』」
当然だ。
これが『スィルローゼ・プラト・クラフト・ソンタワ・アハト』の効果の一つ。
『スィルローゼ・プラト・クラフト・ソンタワ・アハト』によって生じた茨の塔が存在している限り、茨の塔と繋がっている茨の領域が領域解除魔法によって解除されることは無い。
そして、茨の塔自体は領域魔法でないため、他の方法……物理的な手段で破壊しなければならないのである。
同時に……
「「「ギャアアアッ!?」」」
「落ち着け、回復魔法を……ごふっ!?」
「毒に封印!?どうなっている!?まだ茨には……ふがっ……」
茨の塔は繋がっている茨の領域の効果範囲を、塔の高さの倍の高さの空中にまで広げる。
つまり、おおよそだが地上から25メートル程までは私の茨の領域の効果範囲内と言う事になり、ただ居るだけで敵は毒と封印と継続ダメージを受けることになるわけである。
なお、領域魔法が味方を巻き込んでしまう問題への対応については……この状況で他人に対しての敵対行動を取っていなければ、味方と判断。
私の一部である事を利用して、味方には攻撃が及ばないように意識をする事で調整が出来ている。
これは完全に代行者としての権限だろう。
まあ、なんにせよだ。
「『サクルメンテ・ウォタ・サクル・エクステ・フュンフ』、『サクルメンテ・カオス・ミ=ゴギオ・エハンス・フュンフ』、『サクルメンテ・カオス・ミ=バフ・エクステ・フュンフ』」
「「「!?」」」
私は三つの魔法を発動。
『サクルメンテ・ウォタ・サクル・エクステ・フュンフ』で茨の領域の効果を強化。
茨の塔の位置を五行に即したものと認識すると共に『サクルメンテ・カオス・ミ=ゴギオ・エハンス・フュンフ』を発動することで、茨の領域をさらに強化。
そして『サクルメンテ・カオス・ミ=バフ・エクステ・フュンフ』によってそれら効果含めて、私にかかっているバフ全てを延長する。
これによって、私の今の状態としてはだ。
「敵としてくるなら容赦はしないわよ」
「「「……っ!?」」」
茨の馬に跨り、青く光り輝く茨の槍を手にしている。
代行者としての姿を露わにしている事で、薔薇の花弁が周囲に舞い散っている。
地面にはダメージと毒と封印、ついでに精神系状態異常回復を与える茨の領域が敷き詰められ、それを強化保護する10本の茨の塔がフルムスの各所でそびえ立っている。
そして、そんな相手が殺気を漲らせて、敵を睨みつけている。
うん、何処からどう見ても、これではレイドボスだろう。
一人でファシナティオたちを相手にするのなら、これくらいは必要なので仕方がないが。
「ま、まずは茨の塔を……お……れ?」
「「「っつ!?」」」
なお、塔の中には種子を入れていた短剣もある。
そして、先程の『スィルローゼ・プラト・エクイプ・ベノム=ソンウェプ・ノイン』によってそれらの短剣も刃を鞭に変えている。
なので、今、私の前で塔を折るように指示しようとした銀色覆面の胸を青い光が貫いて、ミナモツキの複製体である事を示すように、その全身を水に変えたが……単に塔の中の短剣を茨を操作することで操り、攻撃しただけである。
だが、それは銀色覆面たちには分からないだろう。
「う、うわあああぁぁぁ!?」
「っつ!?ふざけんな!?塔が攻撃まで……」
「このチ……ぎゃああっ!?」
「せいっ」
故に彼らは混乱し、私はその混乱を突くように、私自身からの攻撃と塔からの光線のような攻撃を繰り返して、銀色覆面たちを始末していく。
何十、何百と私の目の前だけでなく、フルムス各所にそびえ立つ茨の塔の周囲も含めて、塔の除去を狙ってくる者たちを消し飛ばしていく。
「さあて、これでまずは第一段階、と言うところかしらね」
これで戦線は一先ず固定された。
だが、長くは保たないし、保たせるべきではないだろう。
ファシナティオが何かを仕掛けてくるはずであるし、私もファシナティオが捕えている人々を助け出すと共に、その企みを阻止する必要があるのだから。




