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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
2章:フルムス

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88:フルムス探索-4

「……。本当にまるで分からない……」

「えーと、エオナさんってもしかしてこう言う迷路の類は……」

「大の苦手よ……」

 路地様の怒りによって生み出された迷宮は私の想像をはるかに超える複雑さだった。

 単純に道が複雑なだけではない。

 登り階段、下り階段が複数存在し、しかも一階や二階と言う明確な階層分けもされていないために、一階半、二階半とでも言うべき高さの場所が普通にある。

 そして恐らくだが、上下左右全ての方向がある程度進んだ時点でループするように空間が捻じれているし、私とシュピーには感知できないが重力方向が弄られている気配もありそうだった。

 はっきり言おう、もはや迷路ではなく迷宮、それも桁違いに高難易度のクリアさせる気が無いとしか思えない迷路に私たちは入り込んでしまっていた。


「高レベルのマップって迷路みたいになっているものがあるって聞きましたけど……」

「そう言うマップの時はだいたい同行者が居て、私はその人についていくだけだったのよねぇ……ソロで行くマップでそう言うのがあっても、迷わずに行ける範囲で記憶していって、少しずつ進むようにしていたし」

「なるほど」

 後はまあ、公式提供の外部掲示板に挙げられたマップを見ながらだとか、どうしてもと言う時には適当な紙に何とかメモをして攻略を進めていた。

 が、この迷宮にそれらは通じないだろう。

 謎解きのような仕掛けは無いが、あまりにも複雑怪奇すぎる。


「つまり、エオナさんにとってはこの迷宮は攻略不可能、と」

「一応、一つ手はないことは無いけど、路地様がそれを許してくれるとは思えないのよねぇ……」

 なお、路地様の怒りは現在も継続中。

 険の込められた視線は相変わらず私に突き刺さっている。

 何がそうだったのかは分からないが、どうやら私は本当に言ってはいけない言葉を言ってしまったらしい。

 と言うか、もしかしたらだが、さっきよりもちょっと敵意が増しているかもしれない。


「その路地様ですけど……ヤルダバオト信仰だけの人間には攻略不可能な迷宮でも出す。と、エオナさんが言ったのが気に障ったんじゃないですか?」

「……。そう思った理由は?」

「私が記憶しているミラビリス様の教えはそんなに多くないんですけど……絶対に攻略できない迷宮は迷宮ではなく、ただの理不尽の集合体でしかないとか、そんな感じの事が書いてあった気が……」

「……」

 路地様は鏡と迷宮の神ミラビリス様に仕えている存在、スィルローゼ様にとっての茨様と同様の存在と捉えていいだろう。

 となれば、ミラビリス様の教えには深く共感しているはずだし、よく知ってもいるはず。

 つまり、私の言葉がここまで路地様を怒らせた以上、そう言う根本部分に触れるところで怒らせてしまったと考えた方がいい。

 となると……ああうん、確かにやってしまったかもしれない。


「ミラビリス様は鏡と迷宮の神。転じてダンジョンの設計やレベル調整も行っていたと考えられる。で、相手によって難易度を変えるのはともかく、絶対に攻略出来ない迷宮を作り出すって言うのは……確かにミラビリス様の主義主張的に許容しがたいのかもしれないわね」

 私の発言は出口の存在しない迷宮を作ると言う、ミラビリス様的にはあり得ない行為をヤルダバオト神官相手ならやってもいいと言っているようなもの。

 そんな疑惑は……かけられる側としては憤慨して当然だ。


「路地様。申し訳ありませんでした。私の無知ゆえにとは言え、貴方様の矜持をひどく傷つける様な発言をしてしまったことを心の底から詫びさせてください。本当に申し訳ありませんでした」

「エオナさん!?」

 だから私は謝った。

 シュピーの本体を背負っているから土下座は出来ないが、それでも下げれるだけ頭は下げて、謝意を示した。

 そうしなければならない発言を私はしてしまったのだから。


『……』

「何とか、許しはもらえたみたいね……。流石はミラビリス様に仕えているだけあって、度量の広さが違うわ……」

「そう……なんですか?」

 私の謝罪を受け入れてくれたのだろう。

 険の込められた視線が和らぐ。


「でも、迷宮に変わりはないみたいですけど……」

「そこはたぶん、挑んでいる人間が中に居る時は迷宮の構造を弄ってはいけないとか、そう言うルールがあるんだと思うわ。それを許しちゃうと、脱出直前に出口の位置を変える、みたいな私でもどうかと思う行為が許されちゃうし」

 だが、私たちの周りに広がる光景に変わりはない。

 銀色の物が混じった、上下左右総煉瓦敷きの迷路は変わらずだ。


『……』

「後、それだけでもないみたいね」

「?」

 路地様の視線の種類がなんとなくだが変わる。

 なんと言うか……何か言いたいことがありそうな感じになった。

 だが、それでも直接何かを言ってこないのは、やはりそう言うルールがあるのだろう。


「路地様。力技での攻略を許してもらえますか?」

 もしかしたら急いだ方がいい案件なのかもしれない。

 そして、攻略を諦めることで迷路の構造を変えて突破したのでは、きっと意味が無い案件でもあるのだろう。


「ありがとうございます。では……」

 ならば、路地様がやってもいいぞと言う感じの視線もくれた事であるし、力技で攻略させてもらうとしよう。


「『スィルローゼ・ウド・ミ・ブスタ・ツェーン』、『スィルローゼ・プラト・ラウド・ソンカペト・ツェーン』、『スィルローゼ・サンダ・ソン・コントロ・フュンフ』」

「これは……」

 私は代行者としての姿を現した上で三つの魔法を発動。

 すると私の足元から凄まじい勢いで茨の領域が広がっていき、『スィルローゼ・サンダ・ソン・コントロ・フュンフ』によってどのように茨の領域が広がっていくのかが私の頭の中に流れ込んでくる。


「……」

「エオナさん?」

「いえ、何でもないわ」

 やがて、今の私たちから見て壁や天井に当たる位置にまで、地面を這った茨が伸びていく。

 そして、茨が伸びていく中で、私の頭の中に地面に刻み込まれたそれが流れ込んでくる。

 どうやら、これこそが路地様の伝えたかった情報であるらしい。


「出口を見つけたわ。こっちよ」

「は、はい」

 そうこうする内に私は無数の茨の先端の一つが出口に到達したのを感じ取った。

 なので私とシュピーは出口へと向かい……路地様の作り出した迷宮を突破することに成功した。

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