85:フルムス探索-1
「さて、まずは再変装ね。『ルナリド・ディム・ミ=ヘイト・ダウン・フュンフ』」
メンシオスの屋敷を後にした私は直ぐに『ルナリド・ディム・ミ=ヘイト・ダウン・フュンフ』を発動。
私の体を周囲の暗闇に溶け込ませて、認識させづらくする。
以前にビッケンが使っていた『ルナリド・ディム・ワン・ハイド』との差は……対象が自分限定である分だけ燃費が良くなっている点や、あちらは姿を見えなくさせるだけに対して、こちらは認識そのものを難しくすると言う差がある。
つまり、相手が視覚に頼っているなら『ルナリド・ディム・ワン・ハイド』で、それ以外のも誤魔化したいのなら『ルナリド・ディム・ミ=ヘイト・ダウン』と言う使い分けが必要になる。
この手の細かい使い分けが実は要求される魔法は『Full Faith ONLine』では結構多い……と、今の状況とは関係ないか。
「えーと、髪の色を変えて……メイクも弄って……」
それから適当な家屋の陰に隠れて、周囲の安全を確認。
誰にも認識されていない事を確かめると、アイテム欄から必要なアイテムを取り出して、姿を変えていく。
つまり、髪の毛は綺麗な金色から汚れた黒に、肌の色は緑がかったものから数日風呂に入っていなさそうなものへ、メイクは落とし、衣装も粗末な物に着替え、茨の馬を消す。
そんなメイクをどうやって行ったのかは語らないが……私の採ったメイク方法では必然的に臭いなどもだいぶ変わるし、これならば道に座り込んでいるフルムスの住民たちの中にも溶け込めるだろう。
なので、ファシナティオの元に皆封じの魔荊王ロザレスと言う存在しない人物の情報が伝わっていても、これで問題は無くなった。
「で、問題は此処からよね……」
問題は此処からどうするか。
フルムスには『満月の巡礼者』の調査部隊が入っている事は分かっている。
だが、ルナは私に彼らの所在や名前を伝えなかった。
それはアチラ側から接触を図るから、私は救助に専念しろと言う事だろう。
となれば、救助対象として真っ先に挙げられるシュピー、それにシュピーの本体との接触を図りたいわけだが……。
「そうね。試してみましょうか」
私は周囲の安全を改めて確認した上で、周囲のヤルダバオト神官の気配を探ることに集中し始める。
すると当然のことながら、フルムスの全域にヤルダバオト神官は存在していることが分かった。
「ふうん、これは面白いわね……」
だが、ヤルダバオト神官の気配の大きさ……いや、濃度には差がある。
これだけのサンプル数があるからこそ分かるのだが、本気でヤルダバオトを信仰している人間ほど気配は濃く、止むを得ず信仰しているような人間ほど気配が薄い。
そして、この気配の濃淡で探るのであれば……
「ファシナティオはやっぱり生粋のヤルダバオト神官。その周囲に居る連中も、魅了によるものかもしれないけれど、熱心なヤルダバオト神官が大半。そして地下には何故か気配が薄いヤルダバオト神官が多い」
フルムスの中で最も気配が濃いのは、かつて富裕層が済んでいた地域。
つまり、今はファシナティオが拠点としているエリア。
そこでは活発に動いている気配はどれも濃く、動く様子がまるでない気配は薄く、時折濃い側が薄い側に何かをしているような様子も見られる。
要するに、この地域で気配が薄いのは無理やりヤルダバオトを信仰させられている上に、リポップ能力を利用する形で何かをさせられている人間と見るべきだろう。
「他はだいたい均一。ああでも、一ヶ所だけ空白に近い場所があるわね」
他の地域の気配の濃さはだいたい同じ。
空白地帯については……恐らくだが、今のフルムス内部で上手く立ち回っている集団が居る場所だろう。
その証拠に完全な空白と言う訳ではなく、薄皮一枚分ぐらいな感じの信仰しか持っていないヤルダバオト神官が居る。
なお、空白に近いからと言って、ここが『満月の巡礼者』の調査部隊の拠点と考えるのは早計である。
街を歩いているヤルダバオト神官にも、時折妙に気配が薄いのが居るからだ。
「メンシオスは本当にギブアンドテイクなのね……で、実験材料とやらはむしろ熱心な教徒、と」
なお、この探知方法だが、ヤルダバオト信仰の相手しか探れない上に、相手の実力と気配の濃さに相関関係はない。
その為、メンシオスの気配はこの方法だと非常に薄く感じる。
熱心なヤルダバオト神官を実験材料に使っているのは……きっとリポップ能力が、確実に、正常に、強固に、働くことが重要なのだろう。
ルナリド様が警戒心を示すほどの研究に、ヤルダバオト神官を使う理由など、それぐらいしか私には思いつかない。
「んー……上手くいくかしらね……スィルローゼ様、どうか御力を……」
さて、思わぬ収穫があったが、ここからが本題。
私はシュピーを探し出したいのであって、ヤルダバオト信仰の薄い者を探し出したいわけではない。
ではどうやって、この万を超えるであろう気配からシュピーの気配を探り当てるのか。
それは、代行者としての力を、相手がスィルローゼ様を信仰しているかを判別する力を使えばいい。
「違う。違う。そう、こんな感じで……」
勿論、本来ならば目の前の相手にしか使えないこの能力を気配だけで感知している相手に対して行使するのは、多大な集中力……と言うよりは、その相手は目の前に居るのだと自分自身に言い聞かせる誤認能力が要求される。
「よし、いけた」
しかし、スィルローゼ様に祈ったのが功を奏したのだろう。
私はそれを成功させた。
気配だけでも、相手がスィルローゼ神官であるかを判別できるようにした。
「私含めて四人居る?」
そうしてフルムス全体を走査した結果……フルムスにはスィルローゼ神官が私含めて四人居ることが分かった。
「たぶん、この二人組がシュピーたちね。この動いているのは……ヤルダバオト神官じゃない?って事は……ああ、なるほど」
私についてはどうでもいい。
二人で一緒に居て、動く様子がないヤルダバオト神官かつスィルローゼ神官であるシュピーとシュピーの本体だろう。
残りの一人、ヤルダバオト神官でないスィルローゼ神官は……たぶんメイグイだ。
ルナの命令で調査部隊と接触しに来たのだろう。
慌てている様子も、メイグイを追っているヤルダバオト神官の気配も無さそうだから、放っておいて良さそうだ。
「じゃ、シュピーに会いに行きましょうか」
まずはシュピーとの合流を。
そう結論付けた私は、シュピーが居る場所に向けて、静かに歩き出した。
06/10誤字訂正




