77:砦にて-2
本日は二話更新です。
こちらは一話目になります。
「来たか。エオナ」
「ええ来たわ。ルナの方は準備完了済みって感じね」
「「「!?」」」
ルナが使う『巡礼枢機卿』用の天幕の中には、既に大量のレイドボス素材が積み上げられていた。
そして、私と一緒に来た四人はその光景を見て、あからさまに動揺している。
「ギ、ギルマス……これは一体……こんな大量の素材を、しかも今となっては貴重品ばっかり……」
「簡単に言ってしまえば、今の状況を打開するための方法を手に入れる手段を確保するための材料。と言うところだろうな」
私は素材の状態に加えて、きちんと条件を満たしているかを確認していく。
その後ろでは一人だけ元から『満月の巡礼者』のギルドメンバーだったためだろう、サロメが震えた声でルナに質問をしている。
「そんな……これほどの量のアイテムを使うだなんて、それはどんなクエスト……」
「ルナ。ここに居る人間は全員、信用できる人間。って事でいいのよね」
「それで問題ない。一応言っておくが、全員、この先の事は他言無用だ。他の隊長格にも伝えるが、それは私の口からにさせてもらうぞ」
「「「っ!?」」」
素材の確認完了。
うん、私の手持ちと合わせれば、問題なさそうだ。
代行者の事は……まあ、ルナが今の状況下でギルドの幹部に置いているプレイヤーであれば、そこまで心配しなくても大丈夫だろう。
「じゃあ、始めるわね」
「なっ!?」
「ニャッ!?」
「おいおい……」
「これは……」
「……」
と言う訳で、私は隠蔽スイッチを解除。
スィルローゼ様の代行者としての姿を露わにし、周囲に薔薇の花と香りを立ち込めさせる。
私の姿にノワルニャンやサロメたちはこれまで以上に驚いているが……気にしている暇はない。
早いところ済ませてしまおう。
「天に居られます八百万の神々皆様に、スィルローゼ様の代行者であるエオナが僭越ながら求めます。此度はルナリド様の御力を借りて顕現する神聖なる魔法。その内の御言葉を授かるための魔法を八から十まで記した一時の書を作りたいと思います。作る理由はルナリド様の御前に向かわせたい者が居る為。どうか、皆様のお力添えの程、お願いいたします」
私の詠唱に合わせて貴重なレイドボスの素材たちがあらゆる色の光の粒になって消え去っていく。
その事にルナとサブマス以外の四人は揃って顔を強張らせている。
しかし、彼らが真に驚くのはこの先。
「『オル・オル・レコード・リド=ライ=スキルブク=エンサイクロペディア・アウサ=スタンダド』」
魔法が発動する。
虹色の光が幾何学模様を描いて、三冊の薄い本を作り出していく。
そうして光が収まる頃には、月と人の影をモチーフとしたルナリド様の紋章が描かれた本がはっきりと姿を現す。
「スキルブックを……」
「作り出した……」
「んなアホニャ……」
「これだから狂信者は……」
私は三冊のスキルブックをまとめるとルナに渡す。
「ルナ、直ぐに読んで」
「言われなくても」
そしてルナは三冊のスキルブックを開いて、内容に目を通していく。
するとルナが読み終わると同時にスキルブックは蘇芳色の炎に焼かれて灰も残さずに燃え尽き、消滅する。
「どう?」
「大丈夫だ。きちんと使える感じがある」
「そう、ならよかったわ」
ルナは目を閉じて、自分の使える魔法を確認。
無事に三つの魔法……『ルナリド・サンダ・ミ・オラクル・アハト』『ルナリド・サンダ・ミ・オラクル・ノイン』『ルナリド・サンダ・ミ・オラクル・ツェーン』が使えるようになったようだった。
つまり、これでルナはルナリド様に会えるようになったと言う事である。
「ギ、ギルマス!せ……」
「説明を求めます。ギルマス。流石に不可解な部分が多すぎますので」
「分かった。説明しよう」
で、当然ながらケンゴさんたちには代行者の事に、私が習得している三つの規格外の魔法の事を説明することになった。
そうして説明を受けた彼らは……
「エオニャン人間辞めちゃったかー」
「頭痛い……」
「ああうん、そう言う反応になるよな……」
「代行者ですか。色々と思うところはありますが……」
まあ、四者四様の反応を見せた。
ノワルニャンは何処か諦めた感じだし、サロメは頭を抱えている。
ディープスマッシュはサロメの背中をさすっているし、ケンゴさんは何か考え込んでいるようだった。
「まあ、これでこの件について安易に話せない理由は分かるな。エオナに万が一があったら……マズい」
「そうね。死んだらスィルロー……」
「エオニャンじゃなくて敵の方がヤバいって事でしょ。ギルマス」
「信仰値カンストオーバー……信仰値補正を考えると火力は……ううっ……」
「報告書通りなら都市の一つくらい平然と消し飛ばせるようだしなぁ……」
「貴方たち、私は無関係の人や味方は巻き込まないわよ……」
「哀れな犠牲者を出さないためにも細心の注意を払いましょう」
「そうですね。守秘義務の対象としてしっかりと守ります」
後、どうして私ではなく敵や戦闘に巻き込まれる周囲の方が気遣われているのだろうか。
いや、後者はまだ分かるが、前者を気にする必要など何処にもないと思うのだけど……実に不思議な話である。
「まあ別にいいけどね。で、分かっているだろうけど。ルナ、神託にどれだけの時間がかかるか分からないし、敵の行動も読めない。急いだ方がいいわ」
「分かっている。この後すぐにでも使うつもりだ」
まあいい、今はもっと優先するべき話がある。
だから私はルナに神託魔法を早く使うように言う。
「ノワルニャン、エオナに休息場所を用意してやってくれ。扱いは隊長格と同等で頼む」
「分かったのニャー。付いて来るのニャ。エオニャン」
「分かったわ」
私は他のメンバーと共にルナの天幕を後にし、天幕にはサブマスとルナだけが残る。
直後、私はルナが神託魔法を使ったのを代行者特有の感覚で捉えた。




