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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
2章:フルムス

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67:グレジハト村戦線-5

本日は二話更新です。

こちらは二話目になります。

「守れ!なんとしてもだ!」

「あの女を近づけさせるな!」

 敵の反応は異常に速かった。

 私が長と思しきヤルダバオト神官に向かって突撃を始めた瞬間、それまで戸惑っていた他のヤルダバオト神官たちが一斉に私の突撃を止めようと動き出す。

 そして、その行動は……明らかに正気を失っているものだった。


「これい……ジョガ!?」

「させ……ナビャ!?」

 味方を撃つことも躊躇わずに遠距離攻撃を仕掛けてくるなら、まだいい。

 壁を生成する魔法を発動して、私の突撃を阻害しようとするならば、だいぶ理性的な行動と言える。

 だが、大半のヤルダバオト神官は魔法の詠唱すら行わず、身を挺して私の突撃を止めようとしてきた。


「ほぼ間違いなく魅了ね。これは」

 当然、そんなものでは私の突撃は止まらない。

 遠距離攻撃は当たるものだけ鞭で叩き落せばいいし、壁は生成される前に駆け抜けるか飛び越えるかで終わる。

 身を挺して止めようとする行為など、茨の馬の棘で全身を引き裂かれて水に還るだけ。

 いずれも、足止めとしては数瞬程度しか時間を稼げていないだろう。


「止めるのだ!我らが主のために!!」

「止めるのだ!あの御方のために!!」

「止めるのだ!かの化け物を!!」

「なるほど、これは胸糞悪いわ」

 しかし、気分がいい物ではない。

 ヤルダバオト神官を轢くのはどうでもいいのだが、仲間を魅了によって操ると言う行為そのものがだ。


「なんなのよ!あの化け物は!?あんなのが居るだなんて聞いてないわ!?早く!早く何とかして!!来てる!もうそこまで来てる!!」

「なんとしてでも止めて見せます!ファシナティオ様!!」

「我らにお任せを!ファシナティオ様!!」

 長であろうヤルダバオト神官の金切り声とその周りの妙な熱を持った男たちの会話が聞こえ始めてくる。

 まあいい、今重要なのは、敵は死んだはずの元プレイヤー、ファシナティオである事。


「返事する暇があるなら行け!役立たず共!!くそっ、ミナモツキ!アンタもとにかく壁を複製しなさい!!」

 そして、ファシナティオの持つ水盆がミナモツキである事だ。

 その証拠に水盆が銀と金の輝きを放った直後、5パターンくらいしか顔と装備のパターンが無い男たちが現れ、私に向かって突っ込んでくる。

 が、私にとっては何の障害にもならないので、躊躇いなく彼らを引き裂きつつ前進する。


「捉えたわ」

「ひっ!?」

 そうして下品な衣装に身を包んだファシナティオを視界に捉えた私は、ファシナティオに突き刺すべく槍を持った方の腕を引く。


「『ミラビリス・メタル・フロト・ミラウォル・フュンフ』」

 だが、私の槍の穂先は突如目の前に出現した鏡の壁に阻まれて、ファシナティオを捉えることは無かった。


「よ、よくやったわ!おほほほほっ!残念だったわねぇ!この化け物が!!撤退よ!!」

「逃がさっ……」

「『ミラビリス・メタル・ラウド・ミラ=メイズ・ドライ』」

「ちっ」

 そして、追撃を仕掛ける間もなく、私の周囲が鏡で作られた迷宮に変化。

 割れた鏡の先に居たファシナティオを仕留めることを諦めざるを得なくなる。


「貴方……自分がやっている事を分かっているの?」

 鏡の迷宮が動き、私の周囲は広場のような形になる。

 そこにはプレイヤーの複製体が複数居ると共に、薄い水色の髪に銀色の目をした少女が震える手でレイピアを握り立っていた。

 だが、その刃先と視線は震えながらもしっかりと私に向けられている。


「「「殺せ……え?」」」

「邪魔」

「っつ!?」

 少女の周囲に居た複製体たちが私に攻撃を仕掛けようとしてきたので、私は少女以外全員を打って消し飛ばす。


「もう一度聞くわ。貴方は自分がしていることが分かっているのかしら?」

 その上で私は改めて少女に問いかける。

 何をしているのか分かっているのかと。

 正気の状態でミラビリスと言う神の魔法を私に向けて使った、スィルローゼ様とヤルダバオトの加護を受けている少女に向けて問いを発する。


「ご、ごめんなさい。でも、私は……こうしないと……」

「……」

 そう、私の前に居る少女はヤルダバオト神官だ。

 それはその身から漂っている力の気配からして間違いない。

 だが同時にミラビリスと言う神の魔法を扱っているし、私の代行者としての能力からスィルローゼ様への信仰を有していることも分かる。

 だからこそ問い詰める必要がある。

 何故、こんな行動を取っているのかを。


「こうしないと、本体が殺されてしまうんです」

 私の問いに対して発せられた少女の言葉はそれだけで、彼女が置かれている状況のマズさを理解させるには十分な物だった。


「……。貴方、自分が複製体と言う自覚があるのね」

「は、はい、あります。それでも死ぬのは怖いし、でも、その、あ、貴方には絶対に敵いませんけど。そ、それでも出来るだけの足止めをさせてもらいます。でないと、私の本体が……牢に閉じ込められてる私が……シュピーが殺されてしまうんです!」

 はっきり言って、私がその気になれば、少女……シュピーは一瞬で殺せる。

 装備と使っている魔法の威力からしてシュピーのレベルは40にも満たないだろうし、特別な防御魔法の類を使っている気配もないからだ。

 だから、その気になれば鞭の茨部分だけを動かして、少女を殺すことも私には出来る。


「……」

「ひ、ひうっ……逃げちゃダメ……逃げちゃダメなんだから……」

 しかし、正しい対処と言うのがとにかく難しい相手でもあった。

 相手……ファシナティオやメンシオスと言った敵の上側の連中の性格が分からないせいで、生かして帰すべきか、複製体であるのをいいことに一度始末してしまうべきなのかが悩ましいところである。


「エオナ様!ルナ様からの命令です!!過度の追撃は控えるようにとのことです!!しかし、残っている敵の殲滅はするようにとのことです!!」

 メイグイの声が壁の向こうから聞こえてくる。

 どうやら、ファシナティオが逃げ出したことによって、戦況は確定したらしい。


「ま、これが妥当と言うか無難と言うか、そんなところね」

「っつ!?あ、ぐっ……!?」

 私の鞭が私の意思に沿って動き、鏡の迷宮を破壊すると共に、シュピーの全身にかすり傷を付けた上で片腕を切り飛ばす。

 すると切り飛ばされた腕と、切り飛ばされた方の手の内にあったレイピアは複製体らしく水に変化して、地面に染み込み始める。


「生き延びなさい。なんとしてでも」

「……。感謝します……」

 シュピーが私に背を向けて、フルムスの方に向けて走り始める。

 シュピーが本体の元に戻れる保証はないが……戻れればメッセージが伝わる可能性もあるだろう。


「エオナ様、今の子は……」

「追わないで。どうにもフルムスの本格攻略の前にやるべき事が出来てしまったようだから」

「分かりました。やはり、中はそう言う状況なのですね」

「まあ、詳しくはまた後でね」

 そうして、シュピーが戦場から無事に去ったのを気配で確認すると、私はメイグイと共に馬に乗ってグレジハト村周辺で続く殲滅戦へと加わった。

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