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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
2章:フルムス

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62:ファシナティオと言う女

「『スィルローゼ様なんて引きこもりの足止めしかできない陰険で役立たずの神』……ねぇ。随分な物言いねぇ……」

 私は怒っていた。

 当然だ、自分が信じている神を誹謗中傷されてブチ切れない信者は居ない。


「私は他人の信仰を蔑ろにするなと口を酸っぱくしていたんだがなぁ……ははは、私の言葉に真っ向から反するとはいい度胸だ……」

 ルナも怒っている。

 当然だ、『満月の巡礼者』には様々な信仰のプレイヤーが居るし、元NPCたちもそれは同様で、誰を相手にするにしても、他人の信仰を蔑ろにするような発言が許されることなどありえない。


「ふふふふふ……」

「ははははは……」

「ひっ、ひうっ……」

 辺り一帯の空気が一気に重くなり、私とルナの笑い声が周囲に響く。


「メイグイ。その発言をしたのは誰だ?『満月の巡礼者』のギルマスとしても、『巡礼枢機卿』としても、カミア・ルナ個人としても、その人物は許しがたい。教えて貰えるよな?」

「そうねぇ、私も気になるわ。スィルローゼ様を馬鹿にするだなんて、そのお方はいったいどれほどまでに立派で役に立っているお方なのかしらねぇ。会えるのがとてもとても楽しみだわ」

「いや、あの、その……コ、コウシン……私はどうすれば……」

「ヒヒン」

 メイグイの馬が諦めろと言わんばかりに嘶く。

 安心して欲しい。

 素直に吐いてさえくれれば、メイグイに害が及ぶことだけは絶対にないから、安心して欲しい。

 だから、とっとと話してほしい。


「え、えーと……話を聞くとか、会うとか、そう言うのは無理だと思います……」

「理由は?」

「そ、その人……ファシナティオって名前の女性なんですけど、その人は既に亡くなられているんです」

「……」

「ああ、あの女だったか」

 だが、メイグイの言葉に私は片眉を上げ、ルナは納得したような声を上げる。

 そして、ルナの反応から私はそのファシナティオと言う女が何者かを悟る。


「もしかして例の魅了を悪用して処刑されたプレイヤーかしら?」

「ああ、その通りだ。ファシナティオ、レベル90、女、メイン信仰は鏡と迷宮の神ミラビリスを謳っていたが、実際は不明。性格としては利己的と言う言葉をそのまま具現したような女でな、ゲーム時代から悪い意味で問題児であり、掲示板で何度か晒されていた覚えもある」

「ふうん」

 ルナがファシナティオと言う女について教えてくれる。

 この女、どうやら『フィーデイ』に来て数日で魅了魔法の性質変化に気づいたらしく、それからは魅了魔法を駆使して他のプレイヤーから物資を巻き上げたり、元NPCに取り入って自分の欲望を叶えたりを繰り返していたようだ。

 そして、この女の行動によって、たった2週間で十数人のプレイヤーと多数の元NPCが破産したり、死に追い込まれたりした。

 だが、ファシナティオはその事を悪びれる様子もなく、己の欲望に従った行動を取り続けようとした。

 故に、ファシナティオの行動を重く見た『満月の巡礼者』にルナリド神殿、それから複数の上位ギルドが協力して捕縛、処刑したとのことだった。


「あの女の厄介なところは単純な状態異常としての魅了に加えて、肉体と精神の面から状態異常ではない魅了、洗脳を行っていたところでな。おかげで、特に洗脳が深かった連中についてはクレセートから追い出す他なかった」

「ふうん、その追い出されたプレイヤーってもしかしなくてもフルムスに居る?」

「一部はそうだな」

 しかし、ファシナティオの毒は、魅了の仕様が変わった影響で、その死後も残った。

 故にルナたちは毒の影響が著しい者は追放し、そうでない者は毒抜きを試みている、今もまだ。

 なお、この一件では『満月の巡礼者』が中心になって、事に当たったために、ルナは『巡礼枢機卿』と言う新設の役職に就くことになったらしい。


「もう一ついい?そのファシナティオ、処刑した後にちゃんと葬儀は行った?」

「勿論したとも。恨みを持って死んだ後にアンデッドとして復活するなんてのは、それこそゲームでよくある話。ゲームが現実化した『フィーデイ』でも同じことは考えられたからな。私も付き添って、入念にやった」

「そう……」

 だが、この一件で私が最も気になったのは、ファシナティオの死後だった。


「何か気になる事があるのか?」

「ええ、サクルメンテ様が言っていたことを思い出したのよ」

「サクルメンテ……円と維持の神か。何を言っていた?」

 サクルメンテ様は以前お会いした時にこう言っていた。

 きちんと弔われずに死ねば、モンスターになって復活する恐れがある、と。

 私はその事をルナたちに話し、ファシナティオがモンスターとして復活していた可能性があった事も告げる。


「きちんと弔われなければモンスターになる、か」

「モンスターになるってことはヤルダバオトの加護を受けるって事ですよね。うわっ、ヒドイ事になりそう……」

「ええ、ヒドイ事になるでしょうね。今のフルムスのように」

「……。あると思うか?」

 そして、此処まで話した時点で私とルナは一つの可能性にも辿り着いていた。


「捕まる直前までミラビリス様の魔法を使えていたかどうかが気になるところね……そこで正真正銘のミラビリス様の魔法を使えていれば、たぶんそうなってはいない」

「だが、もしも使えなくなっていたり、魔法の大本が切り替わっていれば……か。厄介な話になってきたな」

 それは処刑前に既にファシナティオがモンスターになっていた可能性。

 もしも、この考えが正しいのであれば……ファシナティオは何処かでリポップしているかもしれない。

 人間だった頃よりも強力な魔法と魅了能力を備える形で。


「やはりフルムスに攻め込む前に、異常に警備が厳重なあの区画については調べておく必要があるのかもしれないな」

 私たちの視界に夕日に照らされたグレジハト村が見えてくる。

 そして私たちは村人とグレジハト村の守備隊に歓迎されつつ村に入った。

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