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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
2章:フルムス

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61:パッシブスキル

「ではビッケン、アタシプロウ・ドンは居なくなったが、油断はしないように」

「言われなくても」

「また会おう!」

 翌日。

 私はルナ、それからルナのお付きの少女であるメイグイと一緒にグレジファム村を旅立つ。

 当然、私は魔法による茨の馬、ルナとメイグイは普通の馬に乗ってである。


「さて、ただ移動するのもなんだ。メイグイ、改めて自己紹介を」

「あ、はい」

 周囲に敵影はなく、空模様も問題なし。

 三人とも馬に乗っているので、日暮れには次の村に着くだろう。

 ならば、ルナの言うとおり、簡単な自己紹介くらいは済ませておいた方がいいだろう。


「私はメイグイと言います。レベルは53、武器は刀。信仰は馬と早駆の神ホスファスラです」

 少女の名前はメイグイ。

 金色の髪をポニーテールでまとめ、緑色の目に色白の肌と言う姿をしている。

 防具は防御力よりも身軽さを優先している感じがあるが、これは信仰している神様が馬と早駆の神ホスファスラなら当然と言えるだろう。


「なるほど。そうなると、貴方が今乗っている馬は……」

「はい、ホスファスラ様の魔法で強化を重ねていますし、日頃から世話を欠かしていません」

「良い事ね」

「私の愛馬ですから」

 馬と早駆の神ホスファスラ。

 その名から分かるように速さに特化した神様であり、プレイヤーの素早さを上げる魔法を得意としている。

 だが、それ以上に特徴的なのは自分の馬として登録した馬に跨る事で真価を発揮する魔法の存在。

 私はあまり詳しくないが、以前に別のホスファスラ神官を見かけた時は、人馬一体としか評しようのない動きをしていたはずである。

 なお、ホスファスラ様の御使いモードはケンタウロスではなく、馬の耳が生えるだけである。

 代行者になったら別かもしれないが。


「でも、ホスファスラ様だけじゃないわよね?」

「っ!?」

「ほう……」

 私の言葉にメイグイが驚きの顔を露わにする。

 ルナは……悪そうな顔をしているが、同時に知らなかったという感情も含んでいる。


「な、なんでそれを……」

「代行者としての能力よ。目の前の人間が自分と同じ神に仕えているかどうかぐらいなら分かるの」

「一種のパッシブスキル、と言う事か」

「そうね、それが一番近いかも」

 パッシブスキル。

 それはスキルブックで魔法を習得し、一度発動すれば、後は発動条件を満たしている限り発動し続けると言う特殊な魔法である。

 勿論、常時発動であるため、その効果量は基本的に特定の神の特定の魔法で与えるダメージを+1%するだとか、回復魔法で回復するHPの量を+3%するだとか、ツェーンでも+10%されれば著しく強力とされるようなものだが……これらの積み重ねの結果として、低レベルプレイヤーと高レベルプレイヤーの間にある大きな壁となるのだから、馬鹿には出来ない。


「なるほど、スィルローゼ限定だが、超強力な感知能力と考えると、色々と活用のしがいがありそうだ。スィルローゼ神官の名を騙る輩を炙り出したりとかな」

「そうね。それぐらいなら問題なく出来るわ」

 また、これらパッシブスキルの中には敵の位置を感知する物や、その場に満ちている属性がどれなのかを知る事が出来る物もあるのだが、こう言ったパッシブ系の感知スキルはパッシブスキルの中でも特に重要な物として扱われている。

 理由は……まあ、高レベルになればなるほど、不意打ちや奇襲の効果が高くなると言えば、それだけで分かるだろう。

 任意で使用する感知系の魔法は、24時間365日で使用できるような代物ではないのだし。


「で、代行者の地味にありがたい能力が分かったわけだが。メイグイ」

「は、はい、何でしょうか。ルナ様!」

 ルナがメイグイに向けて微妙に低い声で話しかける。


「私はお前がスィルローゼ神官でもある事を知らなかった。それは自己申告の書類に書かれていなかったからだ。どうして明かさなかった?」

 どうやら『満月の巡礼者』では所属しているプレイヤーにメイン信仰を尋ねるだけでなく、サブ信仰までしっかりと聞いているらしい。

 だが、これは当然とも言えるだろう。

 ビッケンから聞いた魅了関係の件もあるし、何を信仰しているのかは何を出来るかに直結しているからだ。

 『Full Faith ONLine』では自分の信仰を明かす明かさないは個人の自由で収めてもいい話であるが……流石に今の『フィーデイ』でそれは駄目だろう。


「それはその……私のスィルローゼ様信仰はサブのサブぐらいのもので、殆ど魔法も習得していないですし……精神系防御のパッシブは充実してますけど……」

「それでも申告はして欲しかったな。基本五魔法のアインスだけでも使える場面はあるんだぞ」

 メイグイは明らかに言い淀んでいる。

 どうやらよほど言いたくない事情があるらしい。

 あるらしいが……


「メイグイ。同じスィルローゼ信徒として貴方の事情を話していただけませんか?スィルローゼ様を信仰することは断じて恥ずかしい事ではありませんし、貴方がスィルローゼ信仰を明らかに出来ない事情があるのであれば、それを解決する手助けをさせてください」

 私にはそれを看過する事など出来なかった。

 だから、代行者としての姿を少しだけ露わにした上で、メイグイに微笑みかけつつ話しかける。


「エオナ様……」

「なるほど、同じスィルローゼ神官相手なら、精神系防御のパッシブがあっても平然と貫くか。やはり魅了関係の法案整備は必須だな……」

「話してくれますか。メイグイ?」

「は、はい!もちろん!実は……」

 なお、ルナの言葉はとりあえず無視する。

 こういう時に使ってこその魅了能力だからだ。


「こっちに来てから、ある人にヒドく馬鹿にされたんです。スィルローゼ様なんて引きこもりの足止めしかできない陰険で役立たずの神だって!それで私は怖くて言い返せなくて……恥ずかしくて……ううっ……」

 そしてメイグイの言葉を聞いた瞬間。


「へえっ……」

「ほうっ……」

 私の周囲に大量の薔薇の花弁が生じ、ルナの目が満月のように輝き始め、私たちを遠巻きに警戒していたモンスターたちが一斉に逃げ出し始めた。

なお、パッシブスキルにも信仰値の補正は乗ります。

なのでエオナのスィルローゼ様関係のパッシブスキルは……恐ろしいことになっています。


05/21文章改稿

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