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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
2章:フルムス

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54:羊食いの森-3

「……。エオナ、俺は今、色々と馬鹿らしくなってきているんだが……」

「……。奇遇ね。私もよ。まさかここまでとは思わなかったわ……」

 羊食いの森の中を歩くこと暫く。

 私たちの視界にアタシプロウ・ドンと思しきモンスターの姿が入ってくる。

 そして、本来ならば『Full Faith ONLine』の時よりも明らかに強大になったその姿を見て、私もビッケンも格下とは思わずに対処をするべきなのだろう。

 だが……


「人間!近クニ!居ル!臭イ!スルッ!」

 流石に太い木々が檻のようになって、首から上と片方の前足くらいしかマトモに動かせないような状態……所謂スタックした状態になっているアタシプロウ・ドンの姿を見て、緊張感を保てという方が無理と言うものだろう。


「なあ、なんでこんな事になっているんだ?」

「それは私が聞きたいのだけど……たぶん、自分の体の成長限界を外したのが原因の一端だとは思う」

 それでも最低限の緊張感は保つべきと考え、私とビッケンはアタシプロウ・ドンから少し離れた場所で、目視されない位置取りをした上で、現状についての話し合いをする。


「成長限界か……まあ、確かにゲーム時代よりは大きくなっているな。横に」

「縦も一応は大きくなっているわ。横はそれ以上だけど」

 まずアタシプロウ・ドンは……端的に言って太っている。

 体高が『Full Faith ONLine』の1.5倍……2メートル以上にはなっているが、体の太さは2倍以上になっている。

 木と木の間に挟まれて動かなくなっている腕など、挟まれている部分でくびれが出来てしまっている程だ。


「だが、部下は飢えているのに、なんでアタシプロウ・ドンだけは太っているんだ?」

「そりゃあ、ああ言う事でしょう」

「飯ッ!寄越セ!」

「ギャイン!?」

 私とビッケンの前で、やせ細ったアタシプロウが獲物であろう羊をアタシプロウ・ドンに献上しようとする。

 すると、アタシプロウ・ドンは右前足を使って部下ごと獲物を掴み……まとめて噛み砕いて飲み込む。


「共食い、獲物の独占、運動不足。これで太らない方がどうかしているわ」

「それ以上に胸糞悪いな……どうせリポップするんだろうが、リポップするからって、モンスター相手だからって許される行為じゃねえだろ。アレは……」

 ビッケンの眉間にシワが寄る。

 どうやら、アタシプロウ・ドンの行動は、奴と同じで部下を率いる立場にあるビッケンにとっては絶対に受け入れられない物であったらしい。

 それだけの怒りを放っている。


「おい、エオナ。お前はアレを恒常的に抑えられるんだよな」

「ええ、出来るわ。もう少し近づく必要はありそうだけど」

「だったら、とっととやっちまおう。見ていて本気で腹が立ってくる」

「分かったわ」

 まあ、ビッケンの怒りを抜きにしても、アタシプロウ・ドンは早急に対処した方がいい案件だろう。

 今はまだ自分で作った枷で勝手に捕らわれているが、その内にあの枷は壊れる。

 そして、枷が壊れれば、『Full Faith ONLine』の時よりも遥かに巨大になった体で縦横無尽に暴れまわりつつ、さらなる成長を遂げていくのだ。

 そうなればダイエットもあっと言う間に済むだろうし、これまでの鬱憤晴らしもあって、甚大な被害を人間側にもたらすに違いない。


「臭イ!近イ!薔薇ト煙草!」

「気付いたか。だが、部下たちじゃ俺たちはどうにもならない」

 臭いによって私たちの接近に気付いたアタシプロウ・ドンが一気に騒ぎ始める。

 そして、配下であるアタシプロウが私たちに襲い掛かろうとするが、展開されている茨の領域によって私たちの体にその牙を届かせるよりもはるかに早く力尽きる。


「えおな!我ガ主ノ!やるだばおと様ノ敵!荊ト洗礼ノ!許スマジ!」

「おお、喚け喚け。何も出来ないみたいだけどな」

「……」

 ビッケンは煽るような口ぶりだが、その足取りにも表情にも、敵を侮るような素振りは一切見られない。

 それどころか、何があっても対応できるように備えつつ、私の前を進んでくれている。

 なので私も剣を構えつつ、ゆっくりとアタシプロウ・ドンに近づく。


「いけるか?」

「いけるわ」

 私たちと私たちにお尻の辺りを見せているアタシプロウ・ドンの間にある距離が3メートル程になる。

 流石にこの距離だとリポップから茨の領域によるダメージだけでは配下のアタシプロウは倒せないため、ビッケンが大剣を振るって始末してくれている。


「では……」

 さて、此処までの素振りからして、ビッケンならば代行者としての姿を見せても、知らせる範囲は極小規模で済むだろう。

 だから私はスィルローゼ様の魔法を使うべく、隠蔽スイッチを切ろうとした。


「殺ス!」

「っつ!?」

 その瞬間、無数の破砕音と共に私の目の前からアタシプロウ・ドンの巨体が消え去っていた。


「『シビメタ・メタル・フロト・ウォル・ツェーン』!」

「グ……ギッ!?」

 そして、次の瞬間にはビッケンが生み出した金属の壁と重い何かがぶつかり合い、周囲一帯に大きな音を撒き散らしていた。


「薔薇ト煙草……殺スウウゥゥ……」

「おいおい、モンスターだからって幾らなんでも、何でも有りすぎだろ……」

「こうなったら、真正面から動けなくなるまで削るしかないわね……」

 ビッケンが生み出した金属の壁が消える。

 その壁の向こうには、自らを囲む枷を無理やり破壊したことで全身を赤く染めた代わりに、自由を得たアタシプロウ・ドンが、醜悪な口から生臭く温かい息を荒く吐き出しつつ立っていた。

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