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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
2章:フルムス

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52:羊食いの森-1

「で、エオナ。お前は羊食いの森のボス、アタシプロウ・ドンがどんなボスかを覚えているか?」

 翌日。

 私は茨の馬に、ビッケンは普通の馬に跨って、グレジファム村から羊食いの森へと向かう。

 で、ビッケン以外にもレベル90のプレイヤーは居るそうだが、司令官不在と言う事で、グレジファム村は今日一日厳戒態勢で臨むつもりであるらしい。


「正直なところあまり覚えていないわね。適正レベルは30前後。私が必要とする魔法のスキルブックをドロップすることも無かったから……クエストと宝珠のために何度か倒したくらいかしら」

「まあ、そんなものだよな」

 羊食いの森については難易度の低いダンジョンである。

 鬱蒼として見通しの悪い森ではあるが、ボスと同じでレベルが30、それに見合った装備と魔法があれば、ソロでも問題の無い森。

 尋ねる理由としては……グレジファム村で受けられる家畜を襲うモンスターを退治して欲しいと言うクエストと、村周辺の草原で手に入るのよりも品質がいい薬草と毒草、後はモンスターの素材と果実の類くらいだろうか。

 とりあえず私が訪れた回数は数える程度であり、籠るプレイヤーもあまり居なかったはずだ。


「で、そう言うビッケンはどうなの?」

「一応、グレジファム村守備隊の隊長として一通りの資料は見てきたし、ゲーム時代に戦った覚えも昔だがある。とは言え、『悪神の宣戦』以降に姿を確認したことは無いからな。どういう変化を遂げていても異常ではないだろうな」

「ちなみにゲーム時代のアタシプロウ・ドンは?」

「部下のアタシプロウと一緒に仕掛けてくる群れ型のボスで、素早さと攻撃力に優れているタイプだな」

 ビッケンの装備は全体的に重装甲で、背中には身の丈ほどの大剣が差さっている。

 レベルは私より上で、メイン信仰の陰と黄泉の神ルナリド様は信仰値200オーバーの御使いレベル。

 サブ信仰の金と文明の神シビメタ様と剣と権力の神ブレドパワ様の信仰値も100を維持しているらしい。

 廃人ギルドの切り込み隊長であるし、『悪神の宣戦』以降の実戦経験も豊富。

 はっきり言って、相性を考えない単純な戦闘能力だけならば私より上でいいだろう。


「しかし……本当に便利だな。その馬。出し入れ自由で攻撃能力持ちとか、ホスファスラ涙目じゃないか?」

「燃費と操作性が悪いから馬関係の神様の神官のお株は奪えないわよ。たぶん、ゲーム時代には出来なかったでしょうし」

 うん、明らかに戦力過多である。

 道中のモンスターなんて、そもそも私の茨の馬に轢かれただけで死んでいるし。

 なお、ホスファスラとは馬と早駆の神ホスファスラの事であり、移動能力に特化した神様である。


「さて着いたわね」

「だな」

 そうこうしている間に私たちは羊食いの森に辿り着く。

 鬱蒼とした森は、その名の通りに迷い込んだ哀れな獲物を決して外には逃がさない複雑な迷宮であり、無数のモンスターがひしめく危険なダンジョンでもある。


「ビッケンの馬はどうするの?」

「賢い馬だからな、心配しなくても勝手に村へ帰るようになってる。ま、念のために……『ルナリド・ディム・ワン・ハイド・アハト』」

 そう言うと馬から降りたビッケンは魔法を使い、馬の姿を見えなくする。

 どうやら、ルナリド様の隠蔽魔法を使ったらしい。

 そして馬は一度嘶くと、駆ける音だけを響かせてグレジファム村へと戻っていく。


「じゃ、行くか。エンカ率は下げておくから安心しろ」

「エネヨケの葉ね。ま、アリと言えばアリね」

 私は馬から降りて、武器を槍から剣に変える。

 ビッケンも背中の大剣の位置を確かめた上で、拳を開け閉めして調子を整え、モンスター除けの効果がある煙草に火を点けて咥える。

 それから二人揃って羊食いの森へと入っていった。



----------



「明らかに異常を来しているな……」

「そうね。分かり易く異常が起きているわ」

 羊食いの森の異常は直ぐに分かった。

 と言うのも、とにかく森の木々の密度が上がっていて、以前は曇りの日くらいの明るさはあったのだが、今は昼だというのに夜のような暗さになっているのである。

 おかげで私もビッケンも暗視魔法を使用することになっている。


「この辺の骨、ゲーム時代は特に気にしていなかったが、現実となった今だとただのオブジェクトじゃないんだよな」

「普通に考えればそうなるわね」

 また、森の中に散らばっている動物の骨の数も明らかに増えている。

 これはそれだけの量の食事をこの森の中に住むモンスターがしていると言う事だろう。


「そう言えば、羊食いの森から受けるグレジファム村の被害って、今はどの程度の物なの?」

「俺たちグレジファム村守備隊が来て、グレジファム村を囲う壁を作り終わってからはほぼ皆無だな。放牧のために村の外に家畜を出す事があるんだが、その時にも一応の護衛は付けている。そっちの被害は……流石に範囲が広いから、ゼロとはいかないな」

「なるほど。ちなみに来る前は?」

「俺たちが隊舎として改装した建物の住民が持ち主含めてやられている。他にも壊滅的ではないが、被害は出ていたようだな」

「ふうん」

 そしてこの骨だが……よく見れば何度も骨そのものに齧りついて傷つけた跡や、中の髄を無理やりに食ったような跡が見受けられる。

 これにビッケンたちの仕事ぶりを考えると……


「「「グルルル……」」」

「つまり、連中は飢えていてもおかしくないのね。彼我の実力差が分からない程度には」

「あー、まあ、そう言う事にもなるか……」

 私たちを無数のアタシプロウが囲っているという現状にも納得がいくと言うものである。


「「「ガアアアアァッ!」」」

 そうして、アタシプロウたちは私とビッケンに襲い掛かった。

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