51:グレジファム村にて-8
本日は二話更新です。
こちらは二話目です。
「そうね。既に知っているとは思うけど、前提となる知識から話していきましょうか」
「頼む。流石に唐突すぎて理解が出来ないからな」
私はグレジファム村近くの森……羊食いの森にボスを表す駒を置く。
「まず大前提として、モンスターの一部……ボスクラスとその側近たちの中には、ゲーム時代の記憶を有すると共に、ヤルダバオトの力によってゲーム時代から大幅な強化と制限の解除をされている。この情報は知っているわよね」
「ああ、知っている。それのおかげで稼ぎの良いボスに挑んだプレイヤーが返り討ちにあって死んだという話を聞いているし、新人の訓練をする時にも苦労を強いられた。おまけに戦力の一部を監視役としてそちらに割く事にもなっている」
ビッケンはそう言うとクレセート近くのボスが居るダンジョンの位置を何度か指で叩く。
どうやら、この一ヶ月の間に色々とあった話であるらしい。
「次にゲートは使えなくなっている。この認識で間違っていないわよね」
「間違ってない。原因は不明だが、ゲートは全面的に機能を停止している。おかげでこっちに来た時に、僻地に行っていた連中は今でも帰ってこれてない」
ゲートは予想通り使用できない。
まあ、これについては使えない方が私たちにとって良い事なので、言うことは無い。
「ミナモツキがどんなモンスターかは覚えている?」
「俺はクエストで一度戦っただけだが……かなり面倒な相手だったのは覚えてる。後、姿については……確か、人の顔ぐらいの大きさのお盆だったか」
「正確には水盤あるいは水鏡ね。周囲のプレイヤーやモンスターを複製する事で攻撃を仕掛けてくるボスよ」
「あー、思い出した。上級者が混ざる時はわざと装備やセットしておく魔法のランクを下げておかないとヒドイ事になるんだよな。後はワザと低ランクの装備と魔法で揃えたハズレ役を作っておくのも一つの手だったか」
「そうね。そう言うモンスターだったわ」
ミナモツキはフルムスでこなせるクエストの一つで出現するボスモンスター。
クエストの内容自体がミナモツキの作り出した偽物が起こした事件の容疑者として捕まった本物から、冤罪を晴らしてほしいという事で事件を探り、最終的にはミナモツキを討伐することで完了となるクエストである。
ミナモツキ自体の実力はレベル20程度でどうにかなる程度だが……ビッケンの言うように、多少の注意を払っておかないとヒドイことになったり、逆に対策を練っておくと簡単になると言う、ある種のお手本のようなボスである。
なお、報酬の旨味は人それぞれと言う程度なので、ビッケンのように一度しか戦わないプレイヤーも居れば、複数回戦うプレイヤーも居る。
「で、そのミナモツキの複製体が敵に混じっている以上、敵にミナモツキが居るのは確定。そして、ミナモツキの複製体が街の外に出ていることからして、能力の強化と制限の解除も行われている。此処までは確定よ」
「そうだな。そこまでは俺も分かってる」
ビッケンが私の言葉に頷く。
「でも、それなら現状はおかしい」
「……。敵の数が少なすぎる、か」
「ええそうよ。私がミナモツキなら、最低でも拠点の一つは一発で落とせるだけの戦力を蓄えてから行動を起こす。理想論なら本陣含めて全てをまとめて落とせるだけの戦力を複製してから、本物と一緒に小細工を許さないように真正面から叩き潰すわ」
「そうだな。だが、実際にはそうなっていない。連日連夜仕掛けてきてはいるが、チマチマとだ」
やはり、今の状況のおかしさについてはビッケンも察していたらしい。
既にギルド上層部へ報告も上げてあるようだ。
「となれば、相手の性格的な要因を除いた場合には、こう考える他ない。能力の強化と制限の解除には、時間を含めた様々な条件を満たす必要がある。そして、今現在は牽制と情報収集、そして条件を満たすための準備をしている、とね」
「まあ、筋は通っているな。それこそ相手はモンスターなんだし、プレイヤーを殺せれば大幅に自分が強化されるとかあってもおかしくはないだろう」
なお、性格的な要因を考えてしまうと……敵の司令塔は色々と残念な頭の持ち主と言う判断を下す他なくなってしまう。
リポップするとは言え、各個撃破されるような戦力を小出しにし続けるという戦略としては最低な事をしているわけだし。
流石にそれはちょっとどうかと思うので、他の何かを裏で進めていると考えるべきだろう。
「で?それと近くの森のボスがどう繋がるんだ?」
「私が敵なら、タイミングを示し合わせてグレジファム村を挟撃するからよ」
「っつ!?」
「同盟。なんて厳密な物である必要は無い。単純に同じタイミングで、別の方向から、今よりも多い戦力で仕掛けるだけ。だけども……」
「そうやって仕掛ければ、こちらの戦力が削れる可能性は高くなる。そして失敗しても問題は無い。どうせ無限に戦力の補充は出来るのだから、と言う事か」
「そう言う事ね」
では、何を進めているのか。
私は敵の戦力を測ると同時に目晦ましを行い、その裏ではフルムスの外の勢力に繋ぎを取っていると考える。
実際、フルムスの周囲には様々な難易度のダンジョンが入り乱れており、上はマラシアカと同格のボスまで居るのだから、仕掛けるタイミングを示し合わせるだけでも、こちらの損害が増すことは確実だろう。
そして、厄介な事に私のような例外的存在でも居なければ、獲物の取り合いとなる以外に一切のリスクが存在しないのだ。
これで狙わない者は居ないだろう。
「尤も、これらは全て推測。相手が私の考えた通りに動いている保証は無いし、そもそもとして相手の司令塔の実力と傾向だって見えていない。だから……」
「とりあえず、羊食いの森のボスを潰して、その辺りを確かめる、か」
「そう言う事ね」
だから事が起きる前に先んじて潰す。
スィルローゼ様から授かった魔法でもって恒久的に排除するという手段で。
そして、追加戦力が来るはずと言う相手の狙いをくじく。
それがこの場における最善手だろう。
「……。エオナ、改めて確認させてもらうが、ロズヴァレ村は問題ないんだな」
「ええ、問題ないわ」
と、ここでビッケンが鋭い目つきで質問をしてくる。
「それはつまり、お前はモンスターの恒久的な無力化が出来るという事でいいんだな」
「論理的に考えてそうなるでしょうね」
内容は今まで敢えて触れてこなかったであろう部分。
「その手段を他のプレイヤーが使う事は可能か?」
「私の方法を私以外が使う事は不可能ね。けれど結果的に同じ事が出来るようになるプレイヤーなら居ると思うし、その手助けも出来る」
「なら……」
「けれど、そこで必要になるのはキャラとしての能力ではなく、プレイヤー本人の資質。私の目から見て資質が無いと判断したプレイヤーに言えるのは此処までね」
「そうか。つまりはそう言う手法か……。まあ、現実になったらそうだよな……」
私は詳細までは話さない。
が、私の言葉から色々と察したのだろう。
ビッケンは大きくため息を吐いた後に天を仰ぐ。
「分かった。手に入らないものは諦める。だからこそエオナ、改めてフルムス解放のために、お前の協力を求めたい」
「分かったわ。クレセートの状況が今は落ち着いているのなら、私としてもフルムスを優先して問題ない」
「感謝する。なら、一先ずはお前の言葉が事実かどうかを確かめるために、俺一人と一緒に羊食いの森を攻略して欲しい」
「グレジファム村の守りに問題が無いのであれば」
「心配しなくても俺の部下たちは優秀だから安心しろ」
そうして私とビッケンは固い握手を交わし、羊食いの森と、そこに住むボス……アタシプロウ・ドンを狩りに行く事となった。
05/13誤字訂正




