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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
1章:ロズヴァレ村

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5:スィルローゼの御使い

「異常は無いようね」

 防犯も兼ねている茨に囲われた、煉瓦の壁と藁ぶきの屋根を持つ二階建ての一軒家。

 それが『Full Faith ONLine』での私の家。

 家の中には様々な家具、各種クエストで手に入れたアイテム、常備薬として貯めこんだ消耗品、替えの武器防具、生産で使うアイテムの材料など、実に様々な物が私の記憶通りの配置と量で並んでいる。

 どうやら、現実化が起きた時にプレイヤーが持っていたアイテムと通貨と違い、家の中に置かれていたアイテムはそのまま再現されたらしい。


「ならまずは服を脱いで……適当に水で洗いましょうか」

 私は雰囲気重視で用意していた洗い場で桶に水を貯めると、身に着けているドレスに頭飾り、ブーツと言ったものをまとめて脱いで放り込む。

 そして、家の中に蓄えられておいた石鹸の類を使って、私の体の泥汚れごと洗い落とすと、適当に部屋の中で装備を干しておく。

 ドレスと呼ぶべき上質な衣装たちの洗い方としては確実に間違っているとは思うが……正しい洗い方など分からないのだから仕方がない。


「ふむ……」

 そうして洗濯を終えた私はアイテム欄から今朝焼いた肉を取り出して口に放り込んでいくと、ふと私の全身を映せる大きさの鏡に目が行く。

 そこに映っているのは現実の私に似た、けれど現実の私よりも確実に整った容姿を持つ私の姿。

 背中の中ほどまである黒い髪はあれほどの激しい戦いを経たのにほつれ一つなく、つやを保ち続けている。

 瞳の色は真紅の薔薇を思わせる赤であり、虹彩は薔薇の花を思わせる模様を描いている。

 若干白めの肌には傷どころかタコの一つも見当たらず、筋肉も少なくて、何も知らない人間が見れば深窓の令嬢としか思えないだろう。

 女子の平均よりも少しばかり大きな胸は……まあいいか、現実よりこっちの方が小さくて、むしろ楽なぐらいだし。


「そう言えば、あの仕様についてはまだ確かめてなかったわね」

 そうして何も身に着けていない自分の姿を見ていると、私の頭の中に信仰値についてのとある仕様が思い浮かぶ。

 それは御使いモードと呼ばれる状態の事だ。

 信仰値の初期値は10。

 これがプレイヤーの行動によって上下し、魔法を扱うにあたって欠かせないものであることは先に思い出した通り。

 そんな信仰値の上限は初期状態では100であるが、上限解放クエストをこなすことで、メイン信仰だけはその上限値を255にまで伸ばす事が出来る。

 そしてメイン信仰の信仰値が101以上の時にプレイヤーはそれぞれの神の御使いと呼ばれるようになり、設定で表に出す出さないは選べるが、信仰値の値に応じて外見に多少の変化が生じる。

 例を挙げるなら陰と黄泉の神ルナリドならば暗所で目が金または乳白色に輝くようになる、水と調和の神ウォーハならば耳が魚のヒレのようになる、という具合だ。

 で、当然ながら私のメイン信仰であるスィルローゼ様への信仰は基本255、一部魔法のコストとして消費されても、三日以上信仰値が250を下回っていることは無い状態である。


「御使いモードのオンオフは……」

 では、『Full Faith ONLine』が現実化し、設定の項目が消失した今、御使いモードの切り替えはどうなっているのだろうか?

 その答えは自分の精神へと意識をやれば、直ぐに分かった。

 何時の間に生じたのかは分からないが、私の中に御使いモードのオンオフを切り替えるためのスイッチとでも称すべきものが生じていたからだ。


「ああなるほど。御使いモードの方が本来で、今は隠蔽している状態なのね」

 そのスイッチは正確に言えば御使いモード隠蔽のオンオフ。

 よって今はスイッチがオンの状態であり、これをオフにする事で私の姿は御使いモードの姿に変化することになるはずである。


「じゃあ試しにオフっと」

 私は隠蔽スイッチをオフにする。

 すると変化は直ぐに生じる。

 まず初めに私の体から漂う匂いが変化し、部屋の中がとても濃い薔薇の匂いで満たされていく。

 続けて私の足元から実体のない薔薇の花弁が舞い上がり始め、それらは落ちる方向に動き出した途端に霧散する。

 最後に枝毛一つ無かった髪の毛に茨の棘が目立たない程度に現れて、ボリュームが増す。

 これが茨と封印の神スィルローゼの御使いとしての姿を現した私、スイッチの形式を考えれば私本来の姿と言う事になるだろう。

 そして、ここまでは『Full Faith ONLine』の仕様通りであり、私の想像の範疇内でもあった。


「これ……は……」

 問題はその先だった。


「ヤバ……い……」

 私の体は今までに感じたことのないほどのそれを感じていた。


「気持ち良すぎるううぅぅ!!」

 それは快楽。

 心の底より敬愛するスィルローゼ様の力に包まれていると言う喜びが、気持ちよさが、心地よさが、嬉しさが、私の肉体と精神を埋め尽くしていくのを感じる。


「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!スィルローゼさまああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 何故こんな事になったのかは分かっている。

 隠蔽スイッチをオフにしたことで、それまで隠蔽の為に用いられていた力が私の心身に巡ってきているのだ。

 より強く、より美しく、より力に溢れる形でスィルローゼ様の力を扱える体に変化した事に際限のない悦びを感じてしまっているのだ。

 『Full Faith ONLine』ではビジュアルの変化しかもたらさなかった御使いモードは、現実となった事で神官としての力を高める働きを持つようになったのだ。


「はひいっ!まずいっ!このままじゃ!私パーになっちゃう!気持ち良すぎて頭が駄目になっちゃうううぅぅ!!」

 けれど、あまりにも強すぎる快楽は人を駄目にする。

 私は今、自身の身をもってその事実を認識させられていた。

 このままでは絶頂のし過ぎで死んでしまいかねない。

 腹上死ならぬ信仰死してしまう。


「オンんんんんんんんんん!!」

 故に私はなけなしの自制心とスィルローゼ様の願いを果たすのだという圧倒的な信仰心をもって隠蔽スイッチを再びオンにする。

 するとそれだけで部屋に満ちていた薔薇の香りも、周囲を舞っていた薔薇の花弁も消え、髪のボリュームも元に戻って、私の体を襲っていた快楽の波も収まる。


「はぁはぁ……こ、これは最終手段にしておきましょう……何も用事がないのに使ってたら……気持ちよさで死んじゃう……これで死んだら……流石にスィルローゼ様に申し訳ないわ……」

 私はその場で膝と両手をつくと、息を整える。


「うひひひひ、でも、気持ちよかったああぁぁ……」

 そうして暫くの間スィルローゼ様の力に触れ続けた余韻を味わうと、色々と整えてから眠りに着いた。

04/03誤字訂正

04/14誤字訂正

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ヤタ、ゾッタ、この子、タル…… VRプレイヤー主人公達の精神性の強靭さと狂人さが半端ないと思います。 少なくとも、巫女さん達よりも遥かに上な気が……
[一言] あれ?もしかして主人公ってヤバい奴なんでは……いや、いつもの事かw
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