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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
2章:フルムス

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43:旅立ち-2

「うーん、風が気持ちいいわね……」

 『スィルローゼ・プラト・ラウド・ソンカペト・ツェーン』と『スィルローゼ・サンダ・ソン・コントロ・フュンフ』を組み合わせて作った茨の馬の乗り心地は想像よりもはるかに良かった。

 薔薇の花弁のような魔力と薔薇の香りを残しながら草原を疾走すると言うのは、ゲーム時代でも出来ることではなかった。

 そして、そんな乗り心地の良さを維持できるのは、私の意思によって茨が動かせる事で、棘が体に刺さらないようにしたり、硬さなどを調整することによって馬に乗った事などない私でも快適に座り続ける事が出来るようになっていたからである。

 うん、本当に快適である。


「この分だとクレセートまででも1週間かからないわね。良いことだわ」

 また、馬と言う形態をとっただけあって、その速さには目を張る物がある。

 私はあまり車に乗らない生活を送っていたので、正確な速さは分からないが、今の時点でもこの茨の馬は時速60キロから80キロくらいは平然と出しているだろう。

 それも一切の休みなくだ。


「そう言えば、ゲートとか今ってどうなっているのかしら。フルムスの事を考えると……閉鎖されているか、利用不能になっている可能性が高そうではあるけど」

 こうして移動していると、『Full Faith ONLine』の長距離移動方法を思い出す。

 『Full Faith ONLine』での長距離移動手段は主に三つ。

 一つ目は単純に歩いていくことで、時間はかかるが、他の方法では飛ばされてしまう道中をじっくりと味わう事が出来たし、そうする事で隠された諸々に出会えることも多かった。

 二つ目は乗合馬車で、お金を払う事で都市から都市へ、都市から村へ、村から村へと自由に、そして瞬時に移動する事が出来た。

 ただ、今は普通に時間をかけて移動することになるだろう。

 乗合馬車の瞬間移動能力は私が調べた限りでは特に設定の類もなく、完全にゲームとして必要だから設置されたものだったからだ。

 で、三つ目はゲートと呼ばれる都市間長距離転送装置。

 こちらは大都市同士を繋ぐもので、利用にはゲートが置かれている都市を別の方法で一度訪れる必要があったが、『Full Faith ONLine』では長距離移動手段として最もよく利用された方法である。

 とは言え、今の混沌とした状況では使えなくなっている可能性も高そうだが。

 なお、これら三つの方法以外にも長距離移動手段は存在していて、普通の馬に乗って移動する方法なども当然存在する。


「フルムス。どうしようかしら……絶対にヤルダバオトの手に落ちているのよね」

 まあ、長距離移動手段が現在どうなっているかは、先々で自然に分かる事だろう。

 私が向かう先であるクレセートにはゲートも乗合馬車もあるし、経由地として選んでいる街や村にも乗合馬車くらいならばあるはずなのだから。


「ギャイン?」

「ん?ああ、また轢いちゃったわね」

 なお、私が使っている茨の馬だが、思わぬ利点もあった。

 と言うのも、この茨の馬はスィルローゼ様の代行者である私が、スィルローゼ様の魔法で生み出した茨を、別の魔法で操っているというものである。

 もっと分かり易く言えば……この茨の馬は強力な魔法の塊なのだ。

 それこそ、街や村の周辺に現れる程度のモンスターであれば、普通に轢いて仕留められる程度には。


「今晩のご飯か路銀か、いずれにしてもちゃんと回収しておかないとね。『スィルローゼ・プラト・エクイプ・ソンウェプ・ツェーン』『スィルローゼ・アス・フロトエリア・ベリ・フュンフ』」

 と言う訳で私は背中の槍……スペアアンローザを抜いて一閃。

 轢いてしまったモンスターを解体して、素材と肉を回収すると、埋葬を行う。

 そして再び走り始める。


「さて、この調子で行けるなら今日中にグレジファム村に着きたくはあるわね」

 ちなみにこの茨の馬だが……燃費はあまりよくない。

 前提として求められる魔法が高度な物である事も原因の一つだが、高速で動かしたり、柔らかい状態のまま高さを保ったりするのに案外MPの消費がかさんでいる。

 私はサクルメンテ様の魔法……『サクルメンテ・ウォタ・ミ=ライマナ・バラス・アインス』によってHPをMPに変換することでMPを確保し続けていると共に、スィルローゼ様の『スィルローゼ・サン・ミ・リジェ・ツェーン』によって消費したHPが即座に回復するようになっているから問題は無いが、一般的なスィルローゼ神官で私と同じことをやるのは少々無理があるだろう。

 そもそもとして、今の速さを出せる要因の一つは私のスィルローゼ様に対する信仰値が『Full Faith ONLine』の時の限界を超えているから、と言うのもある。

 うん、やっぱり他の神官には薦められなさそうだ。


「これは……」

 そうして走り続けていると、私の周囲の風景は花畑が広がる丘陵から、なだらかな草原へと変わっていく。

 私の記憶が正しければこの辺りは『Full Faith ONLine』の時から放牧が盛んに行われている地域であり、ちょうどロズヴァレ村とフルムスの中間点となるような場所にグレジファム村と言う長閑な村があったはずである。

 で、私は今晩の宿として久しぶりにあの長閑な村で一晩を過ごそうと思っていたのだが……どうやら、そうはいかないらしい。


「どういう事なの?」

 私の視界に入って来たグレジファム村は、かつての木で作られた腰くらいの高さの柵ではなく、石と木で作られた高い壁によって囲われており、壁から突き出すように作られた物見台の上ではかがり火を焚いて周囲の警戒を行っていた。

 そう、グレジファム村はもはや村ではなく、砦と化していたのだった。

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