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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
1章:ロズヴァレ村

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41:テスタメント

本日は二話更新です。

こちらは一話目になります。

「さて、それじゃあ始めましょうか」

「お、おう……」

 ジャックが横で見守る中、私は机の上に私の頭から生えている薔薇の花弁や、マラシアカの黄玉と言った素材類を並べていく。

 と言うか、家の中に残っていたゲーム時代の素材全てを引っ張り出してきている。


「天に居られます八百万の神々皆様に、スィルローゼ様の代行者であるエオナが僭越ながら求めます」

「うおっ!?なんつう量だ!?」

 私は隠蔽スイッチをオフにする。

 それだけで私はスィルローゼ様の代行者としての姿を現し、家中に茨と薔薇が溢れかえる。


「此度はスィルローゼ様の御力を借りて顕現する神聖なる魔法。その全てを一より五まで記せし書を作りたいと思っています。作る理由はロズヴァレ村を今後も守るため。そして封印と世界の変化により失われた書を復活させるため。どうか、皆様のお力添えの程、お願いいたします」

 そんな中で私は詠唱を続けていく。

 すると、家の中の空気は目に見えて澄んでいき、私が並べた素材はあらゆる色の光の粒になって消え始めていく。


「『オル・オル・レコード・リド=ライ=スキルブク=エンサイクロペディア・アウサ=スタンダド』」

 魔法が発動する。

 素材が変化した光の粒が幾何学模様を描いた後、その中心点に集まっていって、書物の形を為していく。

 そうして暫く経つと、光は表紙に茨と薔薇をモチーフにしたスィルローゼ様の紋章が描かれた本として姿を安定させる。


「なんて魔法だ……」

 その姿は『Full Faith ONLine』のプレイヤーならば、アイテムアイコンで幾度となく見たことがあるだろう。

 だが、こうして現物で見ることは滅多になかっただろう。


「完成よ」

 そう、これの見た目はスキルブック。

 新しい魔法を覚えるために必要なアイテムである。

 ただし、今回作り出したアイテムは『Full Faith ONLine』中で、様々な手法で手に入れてきたスキルブックとは大きく違う点がある。


「スィルローゼ様の聖書(テスタメント)

「スィルローゼ様の聖書……」

「これ一冊あれば、スィルローゼ様の魔法の内、等級がアインスからフュンフまでなら全てを習得できる。何人でも、何度でも、ね」

「とんだぶっ壊れアイテムだな……」

 それは何度でも使える事、何人でも学べる事。

 そして一冊で、幾つもの魔法を得る事が出来るという点で大きく違う。

 それこそジャックの言うとおり、これ一冊で容易にゲームバランスを崩壊させるアイテムである。

 尤もだ。


「これで覚えてもスキルスロットには登録できないから、全部暗記してもらう事になるけどね」

「……」

 スィルローゼ神官でなければ本を開くことどころか触る事すらもままならず、内容の熟読と暗記も必須。

 パッと見た限りでは魔法を使う事には関係のない分野の話も相当量混ざっているし、ゲームの神官ではなく、現実の神官として、スィルローゼ神官になろうとする人間のための本である。

 よって、これを使える人間はかなり限られることだろう。

 だがしかしだ。


「うん、問題なし。新しい部分の記憶は終わったわ」

「早いな、おい!?」

「だって私は代行者よ。この本の中身程度なら、はっきり言って再確認に近いのよ。等級がフュンフ以下の魔法だって一つしかなかったし」

「流石と言うかなんと言うか……」

「はい、と言う訳で、これはジャックに授けます」

「は?」

 ジャックならばこの本はきっと使えるだろう。


「いや待て、これどう考えても聖遺物とかそう言う類の……」

「でもジャックには必要でしょう?ロズヴァレ村に留まり続けるなら、新しい魔法を手に入れる機会はかなり限られるし」

「そう言う問題じゃ……」

「いいから受け取りなさい。持ち歩くのが不安なら、この家の中に置いておけばいいんだから」

「……」

 ジャックが百面相を浮かべる。

 どうやら本当にどうすればいいのか困っているらしい。

 だが私にしてみれば、ジャックがそうやって悩んでくれる存在だからこそ渡せると思える。

 なにせ、ジャックが思っているように、いや、もしかしたら思っている以上にこの本は大きな爆弾になるかもしれないのだから。


「分かった。受け取る。受け取るが……基本的にはこの家の中に置かせてくれ。流石にこんな代物を持ち歩く度胸は俺には無い」

「分かったわ」

 そうしてだいぶ長く悩んだ後、半ば諦めるようにジャックはスィルローゼ様の聖書を受け取る。


「それにしても、何度でも使えるスキルブックを作り出すなんて反則的過ぎるだろ……」

「作成には大量の素材が必要になるけどね。たぶんスィルローゼ様以外の聖書を作ろうとしたら、今の数十倍は必要になるわ。本来の使い方としては、こんな感じに何処にスキルブックがあるかを知るための魔法だし」

「前言撤回。チート以外の何物でもないな」

 ジャックが本を受け取ったところで、私はスィルローゼ様の聖書作成ついでに調べたことについてのメモ書きを書いていく。

 それはスィルローゼ様の魔法を記したスキルブックの内、ゼクスからツェーンまでの魔法が何処にあるのかを示したもの。

 何冊かは入手条件の都合上、手に入れられなくなっている可能性もあるが……まあ、スィルローゼ神官なら知っておいて損はないだろう。

 私にとっても必要な知識だし、今は頭を抱えているジャックにとっても何時かは必要になるであろう知識だからだ。


「さてと。それじゃあ、これからもスィルローゼ様とロズヴァレ村の事をよろしくね。ジャック」

「ああ、任せておけ。俺は村を守る。だから、エオナは世界を救ってこい。と言うか自分の道を突き抜けてこい。そうすれば勝手に世界も守られるだろうしな」

「ふふふ、どうかしらね。折角だから一緒にスィルローゼ様の布教もしていくけど」

「スィルローゼ様の負担にならないように頼むぞ……」

「そんなの当り前じゃない」

「……」

 いずれにしても、これでもうロズヴァレ村は心配いらない。

 私はジャックと固く握手を交わしながら、笑顔を浮かべた。

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