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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
1章:ロズヴァレ村

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40:代行者と準神性存在

本日は二話更新になります。

こちらは二話目です。

「ふわっ、よく寝たわ……」

 翌朝。

 目を覚ますと既に陽は天辺まで登っていて、ロズヴァレ村は普段通りの姿に戻っているようだった。


「あー、どうにもここ最近生活のリズムが崩れているのがツラいわね……」

 私は微妙に眠気が残っている感じの頭を左右に振って眠気を晴らすと、ローズヒップティーを一杯飲んでから、本来は朝にやるべき勤めをこなしていく。

 そして一通りの作業を終えたところでジャックが家を訪ねてくる。


「丸一日以上、よく机に突っ伏した形で眠れたもんだな。と、シヨンはシー・マコトリスさんと一緒にロズヴァレ村を出たぞ。お前から得た情報は早く広めた方がいいとシーさんは判断したらしい」

「そう、別れの挨拶を言えなかったのは悲しいけど……まあ、生きているなら、またその内会えるわよね」

「だろうな。と言うか一日寝てたことに対する言及は無しか」

「ん?ああ、そう言えばそうだったわね……」

「大丈夫か……色んな意味で」

 シヨンは既にロズヴァレ村を出た後であるらしい。

 私が寝すぎな件については……きっとここ最近の疲れが出たのだろう。


「で、エオナ。頭の花とかが本物になっている件については話してもらってもいいか?村の人たちに伝えてもいいかどうか含めて」

「あー、そうね。ジャックにはきちんと話しておくべきよね」

 私はジャックに今の私がスィルローゼ様の代行者と言う状態にある事を話す。

 どうしてそうなったのかも含めて。

 そして、私の話を聞き終わったジャックは……


「はぁ……つまり、ゲーム的に言えば信仰値255を超えて、信仰に耐えるために肉体の方が変化してしまった状態ってわけか」

 大きくため息を吐きつつも、正確に現状を把握してくれた。


「そう言う事ね。まあ、『Full Faith ONLine』の中にも朱雀や青龍と言った準神性存在は居たし、それらと同列の存在になったと思ってもらえれば問題は無いわ」

「ん?あれって、そう言う存在だったのか?」

「そう言う存在だったのよ。だから戦って倒すと言っても、命を取るんじゃなくて、戦闘終了後に素材をもらうって形だったじゃない」

「だったじゃないと言われても、俺は噂レベルでしか知らないから、答えられない」

「ああ、ジャックはそう言うレベルだったわね」

「引退勢だったからな」

 さて、今の私の状態であるスィルローゼの代行者と言う存在だが……これに似た存在は『Full Faith ONLine』でも少々特殊なモンスターと言う形で存在している。

 それが所謂四神、四獣と言われるようなモンスターである。


「んー、四獣の特殊な部分を分かり易く挙げるなら……そうね、四獣相手に嘘を吐いたり、あまりにも卑怯過ぎる手段を用いたりすると、信仰値が大きく下がるって特徴があったのよ」

「そりゃあ、確かに妙だな。普通のモンスター相手ならそんな事にはならない」

「で、色んなフレーバーテキストとか、碑文とかを読み解いていくと、四獣は正確にはモンスターじゃなくて準神性存在、対応する神の力をとても多く注ぎ込まれる事によって生まれた存在であることが分かるのよ。そして、その状態は……」

「エオナにも当てはまる、と」

「そう言う事ね」

 彼らがどういう存在なのか、多くのプレイヤーは正確には知らない。

 ただ、きちんと資料を読み解いていくと、青龍が木と豊穣の神ファウドの力をとても多く注がれた蛟から生まれた存在であることが分かるようになっていたりする。

 そして、そう言う生まれだからこそ、色々と特殊な仕様が存在しているのである。


「しかし、こうなってくるとこの話は……」

「ええ、出来る限り広めない方がいいわ」

「だよなぁ。だって準神性存在って事は……」

 同時に、この件についてあまり広めない方がいいだろうと言う判断もしなくてはならない。

 と言うのも……。


「要するにアレだろ。今のお前は全身レア素材の塊」

 こう言う風に見てくるプレイヤーが絶対に存在するからである。


「そう言う事ね。頭の花の花弁を少し渡すとか、蔓を少し渡すとかならともかく、流石に骨とか内臓の類は嫌だわ」

「だよなぁ……てか、そう考えるとゲーム中の玄武とか朱雀はよく甲羅とか骨とかを渡してくれるもんだ……」

「本当よねぇ……」

 幸いにしてジャックはそう言う人間ではないので、話しても問題は無い。

 シヨンも私がそこまでの存在とは気づいていないだろうから、多分大丈夫だろう。

 で、今後会う人物たちについては……まあ、上手く判断するしかないか。

 約一名ほど話したら最大効率で搾り取ってきそうな奴も私の知り合いには居るから、本当に注意しないと拙いが。


「分かった。なら、この件については外では絶対に話さないようにしておく」

「ええ、お願いね」

 私とジャックはしっかりと頷き合う。


「それでエオナ。お前はこれからどうするんだ?ロズヴァレ村の守りについては……その、俺が務めるつもりなんだが」

「!?」

 私はジャックの言葉に驚く。

 確かにジャックが村に留まって守ってくれるならロズヴァレ村は今後も安全を保てるだろうし、私も出来ればジャックに頼みたくはあった。

 だが、まさかジャックが自分からそう言い出すとは思っていなかった。


「言っておくが、善意とかじゃなくて単純な打算だぞ。マラシアカが居なくなった以上、ロズヴァレ村は下手な大都市よりもよほど安全な場所なんだからな」

「それでも嬉しいわ。信用できる相手がロズヴァレ村とスィルローゼ様を守ってくれるなら、私も安心して外に出れる」

 私は嬉しさから素直にほほ笑む。


「信用って……そんな簡単に信じていいのか?」

「大丈夫よ。悪意ある相手にスィルローゼ様が魔法を使えるようにするとは思えないもの」

「は?」

「あら?気づいていなかったの?ジャック、貴方はスィルローゼ様の魔法を使えるようになっているのよ?」

「いや、それは知っているが……あー、そうか、これも代行者としての力って事か。同じスィルローゼ神官なら分かるんだな」

「ん?ああ、そう言えばそうね」

「いいのかそれで……」

 と、どうやら私が把握していなかったスィルローゼ様の代行者としての能力がまだあったらしい。

 あまりにも自然過ぎて気が付いていなかった。


「何にせよ。ジャックが村を守ってくれるなら、アレも託せるわ」

「託せる?」

 いずれにしても、これはいい流れである。

 だから私は今日これからの予定として、遠慮なく一つのアイテムを作る事に決めた。


「ええ、スィルローゼ様の聖書よ」

 ゲーム時代には絶対に有り得なかった一つのアイテムを。

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