33:ロズヴァレ村の戦い-2
本日は二話更新になります。
こちらは二話目です。
「『シビメタ・メタル・エクイプ・エンチャ・ドライ』……せいっ!」
「『ヤル』……うぐおっ!?」
ロズヴァレ村を守るための戦いは続いていた。
ジャック・ジャックの短剣がカミキリ魔法兵の頭と胸を貫いて、死に至らしめる。
「『ソイクト・アス・エクイプ・エンチャ・フュンフ』……はっ!とうっ!」
「ぎびっ!?」
「にんげぎゃっ!?」
シヨンの槍がカミキリ兵の首を刎ね、薙ぎ払い、その数を確実に減らしていく。
「『シンセップ・メタル・クラフト・スチルボルトズ=スリー・フュンフ』。いやー、豊作っすねぇ。嬉しくない豊作でやんすが」
「ごふっ……」
「うごっ……」
「がぎっ……」
シー・マコトリスの矢がカミキリ兵たちの眉間に吸い込まれていき、生命活動を停止させていく。
「囲め!囲んで叩け!!」
「俺たちだってやれるってところを見せてやる!」
「『ソイクト・アス・エクイプ・エンチャ・アインス』!」
「ぎごっ、がっ、ごげっ……!?」
拙い付与魔法をかけた村人たちが孤立しているカミキリ兵を囲み、一斉に武器を振り下ろすことで一匹ずつ、確実に始末していく。
「くっ……思いのほか抵抗がつよ……ぎいっ!?」
「虫がごちゃごちゃうるせぇ!」
エオナが枯れ茨の谷に展開している茨の領域によってカミキリ兵たちの戦力がだいぶ削られているのもあるだろう。
戦いそのものはロズヴァレ村側が有利な形で進んでいく。
だが、有利なだけであって、絶対ではない。
「うぐおっ!?」
「ギシシッ……げぎゃ!?」
「ターゴ!?しっかりしろ!」
「神殿に連れていけ!」
決死の攻撃を仕掛けてくるカミキリ兵によって、ロズヴァレ村の村人は確実に手傷を負っていき、薬と回復魔法を使えるものが揃っている神殿へと運び込まれていく。
そして、怪我人と怪我人を神殿に連れていく者が戦線を離れた為に戦力が少なくなり、戦力が少なくなっている間に新しい怪我人が出てくる。
治療が終わって戦線に復帰する村人も居るが、治療が間に合わないあるいは当たり所が悪くて即死した村人も居る。
ロズヴァレ村の戦力は確実に削られて行っていた。
「敵が……尽きない……HPもMPもまだ大丈夫……だけど……このままじゃ……」
「そりゃあ……そうだ……敵の大本が……マラシアカが健在な以上、リポップだって止まらねえだろ……」
シヨンとジャック・ジャックの戦闘能力も確実に削られていく。
HPとMPが減っていくという意味ではなく、長時間の戦闘に伴う疲労と集中力の低下と言う形で、戦う力が失われていく。
「エオナさんは……敵のリポップを止める手段を持っているんだよね」
「ああ、それは間違いない。だから、エオナを信じて俺らは戦い続けるしかない……『シビメタ・メタル・エクイプ・エンチャ・フィーア』!」
「第四等級が使えるようになってる……」
「これだけモンスターを倒し続けてればレベルも信仰値も上がるに決まってるんだよ!!おらあっ!まだまだ行くぞ!」
だがそれでも二人は村側の最大戦力として暴れ続け、カミキリ兵たちの数を確実に減らしていく。
エオナがこの状況をどうにかしてくれると信じて戦い続ける。
「カミキリ魔法兵……ヤルダバオトの魔法を使えるようになったカミキリ兵っすか……今までに居なかったのが不思議でやんすねぇ。ま、それはそれとして、このままだとジリ貧でやんすね。敵は尽きず、こちらの薬、信仰、魔力には限りがある。どこかからか補給が無ければ潮時でやんすかねぇ……」
シー・マコトリスは神殿の屋上から村の外に向けて矢を放ち、カミキリ魔法兵を優先して仕留め続けている。
しかし、長引く戦いからか、その表情には焦燥の色が浮かびつつある。
「「「人間……殺す……神官……殺す……」」」
「でも、本当にどうするの?このままじゃ、私たち……」
「くそっ、せめて、強力な回復薬の類でもあれば……」
「貴方たちは逃げても構いませんよ。シヨン、ジャック。貴方たち二人とシーさんならば、この囲みも破れるでしょう。そもそも、貴方たちはこの村の人間ではなく、流れの神官なのですから……」
「「それだけはお断りです」」
「そうですか……」
少しずつ、少しずつロズヴァレ村を囲うカミキリ兵たちの輪は狭まっていく。
カミキリ魔法兵の使う魔法によって、幾つかの家に火が付けられ、燃え上がる。
夜の闇がロズヴァレ村を覆い、村の外がまるで見えなくなる。
それらはそのまま、ロズヴァレ村の住人の残りの命も表しているようだった。
「そうだ、薬!」
「ジャック?」
「どうしました?」
そんな絶望的な状況の中でジャック・ジャックが一つ、思い出す。
「エオナの家だ!アイツの家には強力な薬、それに装備品の類が幾つもあるはずだ!」
それはエオナの家に置かれた品々の内容。
3年近く前に『Full Faith ONLine』を辞めたジャック・ジャックには見覚えのない品も多かったが、見覚えのある中でも瀕死の重傷者でも全回復させるような薬が無数にあったし、攻撃や補助に使えるアイテムも常備薬として置かれていた。
また、村人たちが使っているような簡素な盾に元作業用具の武器ではなく、しっかりとした造りの武器防具も無数に存在していたはずである。
それらを使えば、この状況をひっくり返して、まだ持ちこたえる事が出来る。
ジャック・ジャックはそう考えた。
「ですが、エオナ様の家は……」
「アイツは言っていた。足りないものがあるようなら、家の中の物を好きに使ってくれって!」
「「「!?」」」
そう考えたからこそ、ジャック・ジャックは思わず嘘を吐いてしまっていた。
「ぼ、ぼく、取りに行ってきます!」
「一人じゃ無理だ!俺も行くぞ!」
「わ、私もだ!」
「お願いします!エオナ様の薬と装備品があれば、それだけで状況は変わります!!」
それは間違いなくロズヴァレ村の住民の事を思って吐いた嘘。
そして、もしも今のロズヴァレ村の状況をエオナが知っていれば、エオナが迷いなく家の中の物を持っていけるように許可を下したことは想像に難くない。
だが、嘘は嘘であり、悪行である。
「くっ……」
故にジャック・ジャックには世界の理に従って、信仰値が引き下げられると言うペナルティが課せられることになる。
「ジャック?」
「すみません、戦い続けたせいで疲れが出てきたみたいです。でもまだいけます(今の目眩は……信仰値が減らされたのか)」
「……。すみません、お願いします。今、シヨンと貴方が欠けたら、戦線は確実に崩壊します」
「はい……(知った事か。信仰値なんて物よりも、ロズヴァレ村の住民の命の方が大事に決まっている!)」
ジャック・ジャックは知らなかった。
エオナの家の周囲を覆う守護茨は敵対者を刺し貫くことで防衛すると言う危険極まりない植物であることを。
自身の吐いた嘘が人の命を危うくさせるものであったために、通常の嘘よりもはるかに多くの信仰値が削られている事を。
そして、知る必要などなかった。
「薬も装備もありました!」
「よし!薬は直ぐに神殿の中へ!装備も直ぐに配布を!!カミキリ兵たちの武器もです!鋏だって棒に紐で縛りつけて槍にすれば使えます!!」
「はいっ!!」
「分かりました!」
エオナの家から必要な物を取ってきた村人たちが五体満足なまま戻ってきたのだから。
「よし、これならまだまだ行けるぞ!(何だ?妙に力が湧いてくる。まるで、信仰値がいきなり増えたよな……それに覚えのない魔法が頭に浮かんでくる?)」
減った信仰値が特例措置として回復すると共に、一時的な加護に近い形で新たな力を得たのだから。
「ジャック、行くよ!」
「おう!分かってる!『スィルローゼ・ウド・エクイプ・エンチャ・アインス』!」
そうしてシヨンとジャックの二人はもう何度目かも分からない突撃を行い、夜の闇に包まれた中で燃え上がる家を明かりにして、カミキリ兵たちを屠っていく。
そして同時刻、枯れ茨の谷で一つの火柱が沸き上がった。




