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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
1章:ロズヴァレ村

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32:ロズヴァレ村の戦い-1

本日は二話更新です。

こちらは一話目になります。

「戦えない者は七大神様の神殿へ!戦える者は何でもよいから武器を持った上で神殿の前へ!」

 エオナとマラシアカの戦いが枯れ茨の谷で行われている頃。

 エオナの求めに応じて駆けてきたジャック・ジャックの言葉によって、ロズヴァレ村も慌ただしくなっていた。


「エオナ様はこのことを懸念しておったのじゃな……」

「スィルローゼ様……ルナリド様……どうか……どうかこの村を……」

 女、子供、老人と言った戦いはおろか、荒事にも向かない者たちは神殿の中へと集められ、身を寄せ合うようにすると共に、これから起きることに備えて薬や食料、水に薪と言った物資の確認をしていた。


「此処は俺たちの村なんだ……絶対に守り切って見せる……」

「ああそうだ。エオナ様にばっかり頼っていられるか……」

 戦える者は若い男たちを中心に神殿の前に集まる。

 ただし、その手にあるのは剣や槍と言った戦いのためだけにある武器ではなく、斧やクワ、木槌と言った日常の中で使う道具の中でも武器として転用出来る物が殆どであり、盾にしても木の板に獣の皮を張り付けた簡素な物が大半だった。


「全員、分かっているとは思いますが、絶対に一対一、一対二では戦わず、三人以上で相手をする事。付与魔法を切らさない事。傷を負ったら、直ぐに退く事。そして敵が逃げても追いかけないように」

「「「はいっ!」」」

「よろしい。では……『ルナリド・ムン・ウィ=エクイプ・エンチャ・ドライ』」

 だが、彼らの目は戦意に満ちていた。

 そして、彼らの手にした装備品には、シヤドー神官の魔法によってくすんだ赤とでも言うべき光が薄くまとわりつき、ヤルダバオトの加護を持つモンスターたちにも通用するようになる。


「きゅっきゅっきゅー、いやー、明日出発の予定だったんでやんすが、思わぬトラブルっすねぇ」

「ごめんなさい、シーさん。でも……」

「心配しなくてもあっしも手伝うでやんすよ。ロズヴァレ村が滅んで得をするのはヤルダバオトだけ。あっしらにとっては一文の得にもならないでやんすからね。流石に命が危うい状況になったら逃げざるを得ないっすけど、それまでは誠と商売の神シンセップ様の名に懸けても全力を尽くすっすよ」

「あ、ありがとうございます」

 そんな集団から少し離れたところでは行商人であるシー・マコトリスとシヨンがそれぞれの得物……弓と槍の調子を確かめた上で、戦いの準備を済ませていた。

 その動きは戦い慣れていない村人たちとは明らかに別物であり、見る者に安心感を与えると言ってもよかった。


「来たぞ!奴らだ!村の中に入ってくる!!」

「「「!?」」」

 そうして武器に加えて、村人たちの手によって家財道具などによる簡易のバリケードなどを設置し終えた頃。

 村の外の様子を窺っていたジャック・ジャックが息を切らしながらも村の中に入ってきて、叫び声を上げる。

 叫び声を上げたジャック・ジャックの後方に居たのは……


「着いたぞ……ロズヴァレ村だ……」

「此処がスィルローゼを信仰する村……」

「人間だ……人間が沢山居るぞ……」

 数体の傷ついたカミキリ兵。

 エオナの攻撃と茨の領域を正面から辛くも逃れた彼らは、全身が傷つき、個体によっては四肢や触覚の一部を失っている者も居た。

 その有様は一見すれば敗残兵のようにも見え、これならば簡単にトドメをさせると思った村人も居た。

 だが、その考えは直ぐに捨てることになる。

 何故ならば。


「殺せ。一人残らず殺せ。若きも赤子も老人も等しく喰らえ。我らが神、悪と叛乱の神ヤルダバオト様のために」

「殺せ。一人残らず殺せ。奴らがこの地に居たという証拠すら残すな。我らが神、悪と叛乱の神ヤルダバオト様のために」

「殺せ。一人残らず殺せ。枷を破った我らの力を見せつけるのだ。我らが神、悪と叛乱の神ヤルダバオト様のために」

「「「っつ!?」」」

 カミキリ兵たちが自分たちに向けてきたのは、一人でも多くの人間を殺してやると言う強烈でありながら冷たい殺意。

 手足がもげ、首から上だけになろうとも敵の命を噛み切らんとするような闘争心。

 此処に辿り着くまでに死んだ仲間たちの分まで敵を殺すと言う復讐心。

 いずれも平穏な生活を送ってきた村人たちにはまるで縁のないものだったからである。


「「「殺せえええぇぇぇ!」」」

 カミキリ兵たちが一斉にロズヴァレ村の七大神の神殿に向けて駆けだす。

 ロズヴァレ村を滅ぼすために。


「うっ、あっ……」

「こんなの……」

「あ、あっ……」

 それに対してロズヴァレ村の村人たちは恐慌状態に陥り、腰が砕け、おおよそ戦える状態に無かった。

 そのため、このままいけばロズヴァレ村は蹂躙され、滅んでいただろう。

 だが、そうはならなかった。


「『シビメタ・メタル・エクイプ・エンチャ・ドライ』!」

「『ソイクト・アス・エクイプ・エンチャ・フュンフ』!」

「きゅっきゅっきゅー、『シンセップ・メタル・クラフト・スチルボルトズ=スリー・フュンフ』」

「「「!?」」」

 白色の光に包まれた二本の短剣を振るうジャック・ジャックが先陣を切って、カミキリ兵の戦線を乱す。

 そこへ黄色の光に包まれた槍を持ったシヨンが続けて突っ込んで、ジャック・ジャックへの反撃をしようとしていたカミキリ兵の頭を刺し貫いて殺す。

 そして三本の金属で出来た矢が飛来して、残ったカミキリ兵の体を射抜いて動きを鈍らせ……直ぐにジャック・ジャックとシヨンが残りのカミキリ兵たちにトドメを刺す。


「行くぞシヨン!絶対にロズヴァレ村は守り抜く!」

「言われなくても!私たちがこの村を守って見せる!」

 そう、この村には戦いに不慣れな村人だけではなく、ジャック・ジャックとシヨンが居た。

 二人は意気軒昂な様子で、カミキリ兵たちへの攻撃を仕掛けていった。


「さあて、稼ぎ時っすねぇ。きゅっきゅっきゅー」

 シー・マコトリスも本格的に動き始める。

 その動きに淀みはなく、『Full Faith ONLine』の頃からプレイヤーの間で密かに言われていたとある事が事実であると思わせるのに十分な物だった。

 そう、マコトリス行商協会の十人兄弟はどんな辺鄙な土地にある村であっても一人で行商にやってくる。

 だから、もしかしなくても彼ら、彼女らは、一般NPCと比較して桁違いに強いのではないかと言われていたのだった。


「私たちも続きますよ!確実に一匹ずつ!協力して仕留めていくのです!!」

「「「お、おおおぉぉぉ!!」」」

 そうして、彼らの戦いに励まされ、後に続く形でロズヴァレ村の村人たちも動き出す。

 ロズヴァレ村を守るための戦いはこうして本格的に始まった。

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