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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
1章:ロズヴァレ村

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31:マラシアカ-3

「『ルナリド・ムン・ミ・ナイトビュ・フュンフ』『ルナリド・ムン・ミ・リジェ・ゼクス』、夜の闇程度で私をどうにか出来るとでも?」

 私は日暮れと同時に、自分に暗視能力と月光による自動回復をもたらす魔法を詠唱、発動しておく。


「まさか。ルナリド神官でもある貴様が夜の闇を見通せないなど有り得んだろう」

 対するマラシアカは元々夜の闇など関係ないのだろう。

 しっかりとした足運びで、私に向けて正確に槍を突き出してくる。

 なので私はそれを普通に避けて、マラシアカを切りつけ、浅い傷を付ける。


「我の狙いはこちらよ」

 そして、日暮れと同時に行われた一回目の攻防直後。

 マラシアカは喜びの色を含んだ声を上げる。


「これは……」

「「「アアアァァァッ……」」」

 周囲の地面から茨を掻き分けて、枯れた茨を体に巻き付けた人間の死体型モンスター……カレイバゾンビが湧いて出てくる。


「言っただろう。夜は我らモンスターの時間。そして、モンスターの中には夜にしか活動しない者も居る。エオナ、貴様は昼の間に倒せるだけのモンスターは倒していただろうが……ヤルダバオト様の理に基づいて新たに現れるモンスターを倒す事など出来るはずがない。つまりだ……」

 そしてカレイバゾンビたちの出現に合わせて、数が減っていた枯れ茨の谷のモンスターの数を補給するように、カレイバモールやカレイバルンと言った昼夜関係ないモンスターたちも何処からともなく湧き出してくる。

 その結果。


「貴様は今、袋のネズミと言う訳だ」

「「「オアアアァァァッ……」」」

「「「グモモモ……」」」

「「「ーーーーー……」」」

 私の周囲には百を超えるモンスターが出現し、私への殺意を露わにしていた。


「さあかかれ!如何にエオナが化け物と言えども、所詮は一人!数の暴力の前にはどうしようもないわ!!」

 なるほどこれは確かに拙い。

 この数のモンスターに対応すること自体は可能だが……対応している間にマラシアカが別に何かを仕掛けてくるのが拙い。

 現に他のモンスターたちが私に向かってくる中、マラシアカは一人後方に下がりつつ、何かの魔法の詠唱を始めているようだった。


「『スィルローゼ・サンダ・ミ・シン=チャム・ゼクス』『ルナリド・ダク・ラウド・レジダウ=フォグ・フュンフ』」

 だが、こう言う状況だからこそ輝く魔法と言うのもある。

 私は二つの魔法を詠唱。

 すると、私の体と周囲に敷かれている茨の領域から蠱惑的な薔薇の香りが漂い始め、その香りに薄い煙のようなものが混じる。

 そして、その香りを吸ったモンスターたちは……


「「「ーーーーー!!」」」

「ぬぐおっ!?な、何をするお前たち!?」

 マラシアカに襲い掛かり、数の暴力でもってその詠唱を強制的に中断させる。


「おのれ!魅了の魔法か!!」

「正解」

 『スィルローゼ・サンダ・ミ・シン=チャム・ゼクス』、それは私を見た他者を魅了し、自分にとって有利に動くように仕向ける魔法。

 『ルナリド・ダク・ラウド・レジダウ=フォグ・フュンフ』は薄い煙のような物を周囲に漂わせ、触れたものの状態異常に対する抵抗力を僅かに落とす魔法。

 この二つを組み合わせる事によって、マラシアカのようなボス格かつ属性相性が悪い相手はともかく、そこら辺の雑魚モンスター程度ならばどうとでも出来るようになる。

 これが対集団戦における私の戦術の一つ。

 また、『ルナリド・ダク・ラウド・レジダウ=フォグ・フュンフ』を含めた抵抗力低下魔法こそが、私が初期の繋ぎの信仰としてルナリド様を取っていた理由の一つでもある。


「小癪なああぁぁ!!」

「ちっ」

「「「ーーーーー!?」」」

 と、ここでマラシアカは四本の腕に両刃の鋏の刃を一本ずつ持った上で、その場で回転。

 モンスターも茨も関係なく切り払い、宙に舞わせていく。


「茨が……」

「斬れる?」

 そして、その光景に私は……それからマラシアカも気付く。

 私が周囲に張り巡らしている茨の領域の欠点に。


「ははは、そうだ。考えてみればそうだ。どうやら思考の枷を外してもなお、我は知らず知らずのうちに枷に縛られていたらしい」

「そうね。私もうっかりしてたわ。茨は実体として存在している。それなら、貴方の鋏は……私の茨を断ち切る事が出来て当然だわ」

 そう、『Full Faith ONLine』では斬れなかったが、『フィーデイ』では茨は斬れるのだ。

 他の領域魔法……氷や沼、熱、瘴気と言ったものを展開するそれらと違って。

 そして、茨が斬られるという事は?


「はははははっ!これで貴様の厄介な茨の領域も効果激減だなぁ!!」

「ちいっ、『スィルローゼ・ウド・フロトエリア・ソンウェイブ・ズィーベン』!」

 マラシアカが茨とモンスターを切り払いつつ、私に向かってくる。

 それは自分のダメージと状態異常を抑制するだけではない、正円に近ければ近いほど効果が上がると言うサクルメンテ様の魔法の効果の減少も表している。

 私はこれ以上茨の領域が削られるのを防ぐべく茨の津波を出すが……


「効くかあっ!」

「くっ……」

 マラシアカは平然と茨の津波を切り払って私に迫ってくる。

 なので私は茨を操って後退し、マラシアカの攻撃範囲から外れ続ける。


「ははは、思わぬところに逆転の目があったものだ。さあ、これで攻守逆転だ」

「そうね……」

 現実化の影響を甘く見ていた、そう言うほかない。

 だがしかしだ。

 現実化は私にとってもメリットがあった。


「『スィルローゼ・ファイア・フロト・イグニ・アハト』」

 確かに茨は斬れるようになった。

 だが、斬って散らばった茨は直ぐには消えず……


「そん……うぐおおっ!?」

 私の放った着火用魔法によって激しく燃え上がるための燃料に変化するようになった。

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