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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
1章:ロズヴァレ村

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29:マラシアカ-1

「またそれか!『ヤルダバオト・ミアズマ・エリア・イロジョン=デストロ=ユズレスライズ=ディスペル・フュンフ』」

「ふふっ、『サクルメンテ・アイス・エリア・ディスペル=ガド・フュンフ』」

 茨の領域が展開されると同時にマラシアカは領域解除魔法を放とうとする。

 それを見て、私も一つの魔法を発動。

 私が展開した茨の領域に薄い靄のようなものがかかる。

 そして私の魔法に一瞬遅れてマラシアカの魔法は……


「なっ!?対領域解除用の魔法だと!?」

「同じ戦術をそう簡単に通すわけないでしょ『スィルローゼ・ウド・エクイプ・エンチャ・ツェーン』」

 発動して、効果を発揮せずに終了した。

 理由は単純。

 『サクルメンテ・アイス・エリア・ディスペル=ガド・フュンフ』と言う領域魔法を解除するための魔法を防ぐための魔法を私が発動したからだ。


「だが……」

「『スィルローゼ・サン・ミ・リジェ・ツェーン』」

 マラシアカが金属で覆われた土の槍を投擲してくる。

 私はそれを『スィルローゼ・ウド・エクイプ・エンチャ・ツェーン』を付与した剣で打ち払いつつ、次々に魔法を詠唱していく。


「『スィルローゼ・プラト・ラウド・ソンカペト・ツェーン』『サクルメンテ・ウォタ・サクル・エクステ・フュンフ』」

「させるかあっ!!」

 マラシアカは次々に攻撃を放ってくる。

 土の槍と金属性の槍を織り交ぜた攻撃、酸のブレス、領域解除魔法、それらを組み合わせて、こちらのリズムを崩すように打ち込んでくる。

 それに対して私は冷静かつ的確に対処をし、空いた時間で自己強化と領域強化を重ねていき、強力な自然回復に防御を備えつつ、相手を足止めし、弱らせるための力を上下含めた全方位に向けて放っていく。


「『スィルローゼ・ウド・ミ・ブスタ・ツェーン』『サクルメンテ・カオス・ミ=バフ・エクステ・フュンフ』」

「くっ、何故決まらん!?属性はこちらの方が有利なのだぞ!?」

 勿論、防ぎきれなかった攻撃もある。

 だが、バフを強化するバフではなく、戦線を維持するために必要なバフを先に張って攻撃を凌ぎ、それから強化されたバフを改めてかけ直すことで、私は自分の命を繋ぎつつ、自分に有利な状況を作り出していく。


「『スィルローゼ……』」

「『ヤルダバオト・ミアズマ・エリア……』」

 勿論、マラシアカだって黙ってはいない。

 領域解除は隙あらば狙ってくる。

 今のように、私が別の魔法の詠唱を始めたタイミングで仕掛けてくる。

 だが問題は無い。


「『サクルメンテ・アイス・エリア・ディスペル=ガド・フュンフ』」

「『……イロジョン=デストロ=ユズレスライズ=ディスペル・フュンフ』くそっ!?」

 後出しじゃんけんは『Full Faith ONLine』のPVPにおける基本にして奥義であり、この程度の後出しも出来なければ『Full Faith ONLine』の都市間模擬戦争で上位層と単独で渡り合う事など出来る筈が無いのだから。


「化け物めがっ!ぐごっ!?」

「不思議な話よね。私対策って考えると、どいつもこいつも同じような対策を練ってくるんだから。まあ、ゲーム時代はそれでよかったんだろうけど……スキルスロットの無い今、そう上手くいくとは思わない方がいいんじゃない?」

 私はマラシアカの顔面を切りつける。

 ダメージは属性相性が最悪なため、殆どないに等しい。

 が、別に問題は無い。

 どの道、今の私にマラシアカを倒す事は出来ないし、倒してはならないからだ。


「だが、我が此処で足止めされている間にも我が兵たちがロズヴァレ村を……」

「『スィルローゼ・ウド・フロトエリア・ソンウェイブ・ズィーベン』」

 私はマラシアカの言葉を無視して、後方の地中に向けて茨の波を引き起こす。


「エオナアアァァ!!」

「させるわけないでしょ。『スィルローゼ・アス・フロトエリア・ベリ・ツェーン』」

 そして、怒りに燃えて突きかかってくるマラシアカをあしらいつつ、地中に生じた死体をトンネルごと挽き潰して土葬していく。


「くそっ、だが全てを潰すことは不可能だ!」

「そうね。だから、抜けたのはジャックたちに頼むしかないわ」

 目で捉えられない地中のモンスターを地上からすべて始末するのは流石に無理がある。

 しかし、私の張った茨の領域と言う結界でダメージを受けた上に、数が減ったカミキリ兵たちならば、シヨンとジャック、それに村の人間たちだけでもなんとか対処は出来るだろう。


「『スィルローゼ・プラト・ワン・バイン=ベノム=スィル・ツェーン』」

「効くかぁ!」

 それにしても厄介だ。

 マラシアカが金属性になった事でも、地中をカミキリ兵たちが進んでいる事でもなく、今のマラシアカを倒すわけにはいかない事がだ。


「くそっ!何を狙っているエオナ!普段の貴様ならもっと積極的に攻勢を仕掛けてくるだろう!」

「答えてやる義理は無いわね。『サクルメンテ・ウォタ・ラウド・ブロ・フュンフ』」

「ぬぐおっ!?」

 そう、今のマラシアカは倒せない。

 倒してもリポップするだけ、そしてリポップと言うのは心身の再構築を行うものと言ってもいい。

 となれば……そのタイミングならば、色々と手を加えやすいだろう。

 ヤルダバオトにとっても、マラシアカ自身にとっても。


「くそっ……攻め切れん……ならば……」

「あら、ヤルダバオトにでも祈って、新たな魔法か、体の作り替えでもする気かしら?でも、そんなのをさせると思う?」

「ぐおっ!?」

 私は何かをしようとしたマラシアカの腕と頭を叩いて怯ませ、行動を中断させる。

 だが、大きなダメージは与えない。

 勿論、今の私にはマラシアカを根本的に倒す方法はある。

 その為の魔法はスィルローゼ様から授かっている。

 だが、今はまだ使えない。


「エオナアアァァ……」

 マラシアカがどれだけ怒り狂い、私に殺意を向けていようとも。


「さあマラシアカ……」

 ヤルダバオトが私を怪しみ、監視している間はスィルローゼ様たちのために使う訳にはいかない。


「日付が変わるまで。付き合ってもらおうかしら」

「ふざけるなあああぁぁぁ!!」

 だから私は笑みを浮かべつつ、マラシアカの槍を弾き飛ばした。

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