284:戦い終わりて-5
「分かった。教皇様たちに対する説明は私の方でやっておこう」
ラス・イコメク討伐を祝した宴の次の日。
私、エオナ=フィーデイはルナ、タイホーさん、イナバノカグヤさん、マクラ、ヤマカガシ、ゴトス、メイグイ、それに他数人の今回救援に来てくれたメンバーの中でも上層部として扱われる面々を集めて、話をしていた。
「ふむ……確かにG35がパシフィオに向かっていると言うのであれば、一刻も早くそれを追いかけるのは当然の事ではあるな」
「そうだね。G35がこれまでにラビネスト村、クレセート、フルムス、それに元々の所属である『ジェノレッジ』でやって来た事を考えると、放置は絶対に出来ない」
「エオナさんのターゲッティング能力によって直接的に誰かを傷つけることは出来なくなってますけど、それは傷つける方法が無いと言う意味ではありませんからね」
「なんだったら、LISBのように自分の意思通りに動く人形でも作って、そいつに必要な作業をやらせてもいいわけだからな。無力化は出来ていないだろう」
話の内容としては、G35がクレセートから見て北西の方角にある水と調和の神ウォーハ様の御膝元であるパシフィオにG35が向かっていると言う話であり、私がそれを追うべくクレセートであとやるべき事をルナたちに丸投げしたいと言う話である。
そして、丸投げの件についてはルナは快く……ではないが、受け入れてくれた。
G35の危険性がよく分かっているからだろう。
「で、エオナ。情報源は誰だ?私たちの誰かではないし、ルナリド様たちでもないんだろう?」
「まあ、気にするところではあるわよね」
問題は私が情報源を明らかにしなかった事。
情報源がカケロヤと言うヤルダバオトからのメッセンジャーであると正直に言うのは……私にとっては何の問題もなく、ヤルダバオトにはむしろ迷惑をかけたいので構わない事だ。
しかし、医者として私の治療を行い、今も『フィーデイ』の何処かで医者として活動しているカケロヤにとってはあまり良くない話だろう。
「でも、黙秘するわ。それで察して」
「分かった。察しておこう」
だから、察しろ……人を害する気のないヤルダバオト神官だと言う。
それでルナが理解し、ルナが理解したのを見て、他の面々も呆れた様子を見せつつも受け入れてくれる。
「だが、そう言う事ならメイグイは連れて行ってもらうぞ。お前にはお目付け役が居ないと、不安要素が多すぎる」
「……。分かったわ」
「分かりました。ギルマス。よろしくお願いしますね。エオナ様」
まあ、メイグイが付いてくる程度なら問題は無い。
連絡もヤマカガシの土の蛇があるから、定期的なものならば問題なく出来る事だろう。
ラビネスト村の後処理は私が関わる事ではないし、ロズヴァレ村はジャック・ジャックとルナたちに任せておけばいい。
うん、大丈夫そうだ。
「では、行動を始めましょうか。元の世界に戻るためにも、そして『フィーデイ』を守るためにも、それぞれにやるべき事はあるのだから」
そうして私たちはそれぞれに行動を開始した。
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数日後。
エオナ=フィーデイ、メイグイ、ゴトスの三人はクレセート地方とパシフィオ地方の境にある大河へとやってきていた。
聞けば、現在この河には巨大なイカ型のモンスターが出現していて、行き交う船を手当たり次第に襲っており、通行不能の状態に陥っているらしい。
とは言え……狩って、封印するだけならば、エオナ=フィーデイだけでも一日どころか一時間もかからないだろう。
今の私はそれほどまでに強い。
「スィルローゼ様」
だから私……エオナ=フェイスは『フィーデイ』の様子を窺うのを止めると、茨と封印の神スィルローゼ様への祈りを再開する。
「私はこの先の道がどれほど険しく、それこそ茨に覆われ封じられていても、先に進みます。それが私の役目だからです」
スィルローゼ様はとても忙しそうにしている。
恐らくだが、『Full Faith ONLine』の時代には居なかったモンスターが未設定領域を利用する事で出現し始めていて、リソースの確保に追われているのだろう。
『Full Faith ONLine』の時から居るモンスターの一部は『フィーデイ』では逆に居なくなっているが、それも何時までの事かは分からない以上、そちらの力を回すわけにもいかない。
実に厳しい状況だと言える。
「スィルローゼ様が世界を守る茨ならば、私は世界を支える大樹となりましょう。ヤルダバオトを太陽とするのは少々どころでなく不服ではありますが、それもまた世界を維持するために必要な事ならば、受け入れるに値します」
だからこそ私が動かなければいけない。
私たちが動いて、スィルローゼ様を少しでも楽にしなければいけない。
「そしてスィルローゼ様。スィルローゼ様自身は嫌がるかもしれませんが、スィルローゼ様の教えも多少ですが広げさせていただきます。今回の件で手数が足りなければ、対応しきれないと痛感させられましたから」
幸いにして、この世界では信仰の力があれば、大抵の苦難は乗り切れる。
だが一人では出来る事も限られている。
だからこそ私は……
「我が信仰と祈りは何時でもスィルローゼ様の為にあります。どうか貴方様の助けになる事をお許しください。スィルローゼ様」
この満ちた信仰のままに、私の道を行き、同士を増やしていこう。
そうすればきっとスィルローゼ様の助けになれるはずだから。
「さて、正しくスィルローゼ様の教えを広げるための準備をしなければ」
そして私はスィルローゼ様の教えを広めるためだけの本を書くために筆を執った。
本話にて「信仰値カンストの神官、我が道を行く」は一度終了となります。
理由はキリが良いのと、この後の話を思いついていないためです。
長い間の応援と感想、ありがとうございました。
新作は……たぶん、年末年始の何処かになると思います。




