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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
4章:クレセート

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283/284

283:戦い終わりて-4

「それでは、ラス・イコメク討伐を祝って……」

「「「カンパアアァァイ!!」」」

 そこら中で飲み物が入った木製の器がぶつかり合い、歓喜の声が上がる。


「一時はどうなるかと思ったが……いやぁ、何とかなったな」

「ああ、エオナのおかげで最終的な死者は0。大勝利だ」

「しかし、トンデモない戦いだったよなぁ……」

「あの威圧感。今でも思い出したら体が震えるってもんだ」

 ラス・イコメクの討伐完了からおおよそ丸一日。

 日暮れと共に『エオナガルド』の中ではラス・イコメク討伐の宴が開かれた。

 飲み物は『エオナガルド』の生産区で取れた果実を基にしたジュースあるいは酒。

 食べ物は『エオナガルド』産の肉であるアイブリド・ロージス、金毛の羊、銀牙の猪、銅羽の鶏、鉄鱗の魚に、生産区で取れた野菜や香辛料、それに塩を組み合わせて作られた料理。

 で、どんな料理が作られたかと言えば……


「カレーライスだああぁぁ!?」

「牛丼!?肉じゃが!?アイエエェェ!?」

「と言うか米だ!普通に米があるぞ!?」

「リゾットにドリア……ああ、懐かしい。本当に懐かしい……」

「てーりやき!てーりやきぃ!!」

 まあ、プレイヤーが喜びそうなものが大半だ。

 ステーキやキッシュ、ピザなどもあるのだが、やはり元が日本人であるためなのか、米が使われている料理が圧倒的に人気なようだ。


「何故、あれほどまでに喜んでいるのだろうか?」

「さあ?俺たちにとっては米はもう普段の食事なんだけどな」

「ハハハハハ……」

「まあ、喜びたくはなるわよね。」

 なお、『エオナガルド』住民の中でも『フィーデイ』の人間を基にした複製体の面々は、プレイヤーたちの喜びように首を傾げているし、プレイヤーを基にした複製体の面々は苦笑いを浮かべている。


「はい!エオナ様!私ゲッコーレイは『エオナガルド』に移住したいです!!」

「却下。此処は基本的に封印の為の都市よ」

「せめて取引だけでも……定期的な取引だけでも……」

「そっちも厳しいわね。足りてない物なんて無いし」

 移住については認めない。

 複製体の面々だって、一部を除けば自我確立までの間の一時逗留と言う名目なのだ。

 相応の理由が無ければ、『エオナガルド』の中に入れる事だって無いのだから、断るのが普通である。


「あ、エオナさん。僕の土の蛇を出すための甕は置いておいていいですよね」

「まあ、連絡要因にもなるし、それぐらいなら構わないわ」

「よしっ!じゃあ、早速準備しておきますねー」

「くっ……代行者ほどの力が無いのが恨めしい……」

 理由さえあればアイテムを置くぐらいは許可するが。


「治療中だと言うのに随分と楽しそうだな」

「楽しいと言うよりは嬉しい、かしらね。戦いが終わって喜んでいる人を見るのは幸せな事だから」

 さて、そうして宴が行われている場所から少し離れた小部屋で、私ことエオナ=フィーデイはラス・イコメクから受けた右肩の傷を治療するための手術を受けていた。


「貴方だって、元気になった患者を見るのは嬉しい事じゃないの?カケロヤ」

「そうだな。それは否定しない」

 施術者の名前はカケロヤ。

 ヤルダバオト神官であると同時に、メンシオスから黒い霧以外の全ての知識と技術を受け継いだ人間であり……『Full Faith ONLine』時代の中身は既に死んでいる流れの神官である。

 どうしてここに居るかは……よく分からない。

 数時間ほど前に『エオナガルド』を訪れて、私の居る場所に真っ直ぐ進んできて、治療を申し出てきたのだ。


「で、実際の所、私はラス・イコメクからいったい何をされたの?」

「自分の事だから分かっていると思ったが?」

「外から見た意見が欲しいのよ」

 私の右肩はラス・イコメクの最後の攻撃によって動かなくなっていた。

 筋肉や神経の問題ではない。

 右肩だと認識して構築すると、その時点で動かなくなるのである。

 複数の右肩を作ると、その全てが動かなくなるほどである。


「メンシオスの知識に基づくなら……概念攻撃の一種だな。エオナの右肩と言う概念自体を破壊したんだろう」

「なるほどね」

「まあ、この程度なら問題なく治せるから安心しろ」

「そこは心配してないわ」

 概念攻撃。

 私がボスたちを封じ込めてリポップや多少のバージョン違いでの新生を許さないようにしているのに近いか。

 腐っても偽神と言うべきか、それとも窮鼠猫を噛むのように追い詰められたからこそなのか、ラス・イコメクは最後の最後に厄介な力に目覚めていたらしい。


「ああそうだ。ヤルダバオトからの伝言があるぞ」

「……」

「そんな顔をするな。俺だって押し付けられただけだ」

 と、私の右肩に差し込んでいた妙な機器を引き抜きながら、カケロヤがあまり出してほしくない名前を出す。


「伝言の内容は?」

「『問題のある信者が『フィーデイ』の北の方角、パシフィオの方に向かっている』だそうだ」

「そう」

 悪と叛乱の神ヤルダバオトをもってして問題のある信者など一人しか居ない。

 ほぼ間違いなくG35だろう。


「手術は完了した。伝言も伝えた。薬は要らんが、念のために二日ほどは安静にしているように。じゃあな」

 そうしてカケロヤは部屋から去っていき、そのまま『エオナガルド』からも去っていった。

 そして私は……


「パシフィオね……」

 頭の中でこれからの予定を組み始めた。

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