282:戦い終わりて-3
「ふむ、確かに呪いは消えているわね」
私が同時にやっている事はまだある。
それはラビネスト村の調査だ。
担当はエオナ=フィーデイ、つまりはメインの私だ。
『……。間違いないの?』
「ええ、間違いなく呪いは消えているわ。これなら踏み込んでも大丈夫だと思う」
と言っても、今の『フィーデイ』に居る私は『エオナガルド』の入り口として位置を固定した状態になっているのと、ラス・イコメクの最後の悪あがきの影響で『フィーデイ』で活動できない状態になっている。
なので、実際に調査をするのはスヴェダ、メイグイ、それにヤマカガシの操る土で出来た蛇であり、私はスヴェダの五感と自分の五感をリンクさせて、『エオナガルド』から指示を出すだけだが。
『エオナ様、ラビネスト村の人たちは……』
「そっちについても大丈夫。妙な物が仕掛けられていないのは私の方で確かめたし、今はイナバノカグヤさんとマクラの二人が対応してくれているわ」
ラビネスト村の住民はG35の仕掛けた呪いによって、無限の殺し合いをさせられていた。
それも殺し合いの期間を夜だけに定めて、日が昇れば夜の間に何があったのかを全て忘れると言う細工によって、得られる恐怖などの負の感情の量を可能な限り損なわないようにすると言う嫌らしさつきである。
ただ、スヴェダの目を通してみる限り、ラス・イコメクとの戦闘中にもあった報告通り、呪いは既に解除されている。
また、保護されたラビネスト村の住民たちにも普通の人間には無い物が付けられている様子はなく、安全な状態になっている。
「しかし、妙な話ではありますよね」
「そうね。何かがおかしいわ」
うん、おかしい。
呪いが解除された原因がラス・イコメクの復活か、それとも別の要因によるものなのか分からないと言う事もあるが、呪いが解除されているのはおかしい。
あのG35が継続的にエネルギーや材料を得られるように仕掛けを施していたのに、その呪いがいつの間にか解除されていると言うのは明らかにおかしい。
だから私は隣に座って疑問の声を上げたヤマカガシの言葉に頷く。
「メイグイ、スヴェダ。G35の工房があったと思われる場所に向かって」
『……。分かった』
『分かりました』
私は二人が移動している間に改めてラビネスト村の住民の様子を窺うと同時に、彼らの会話を聞く。
そうして分かった事としては……住民の何人かが消えている、それと住民でない人間が混じっている、と言う事だった。
消えた住民は何かしらの理由で復活が上手くいかなかったか、逃れる事に成功したのか……と言うところか。
外の人間には行方不明だった人間も混じっていそうだ。
『此処がそうですね。ですが……』
『何も無い』
メイグイとスヴェダの二人が付いたのは村で一番大きい家の地下。
壁に赤い染みがついていたり、黒い木製の台が置かれていたりするが、それだけだ。
それ以上は何も無いように見える。
見えるだけだが。
「スヴェダ」
『分かってる。この部屋には良くないものが色々と染みついてる』
『えっ、それって……』
「残りカスみたいなものだから、干渉されることはないわ」
少し見方を変えれば……まあ、色々と行われたのが分かる。
恐らくだが、クレセートのセキセズ枢機卿の部屋が人肌張りになるまでは、ここでG35の道具が作られていたのだろう。
利用されるだけ利用されたものたちが染みついている。
そして、ごく最近まで、此処にはG35が利用していた何かがあったのだろう。
よく見てみれば、遺留物に渦のような流れを感じる。
「んー、ああなるほど。破壊されたと判断して、逆探知をかけられる前に切ったのかもしれないわね」
「ああ、そう言う事ですか。それなら切る理由にはなりますね」
『えーと?』
『今のG35はエオナのターゲッティング対象になってる。で、ラビネスト村で得たものを吸い上げる機構が、ターゲッティングの制限に引っ掛かっているんだと思う』
『なるほど』
だいたいはスヴェダが説明した通りだ。
G35はラビネスト村に施された仕掛けによって力や素材を集めていた。
が、私のターゲッティング能力によって何処かのタイミングから力を得られなくなった。
だから、罠の一つも仕掛けることなく、ここの施設を切って、追われる可能性を減らしたのだ。
それならば、呪いが解除される理由にもなる。
しかし……
「エオナさん、ターゲッティングの仕様って結構謎ですよね」
「謎ね。まあ、イベントで強制的に一対一になると言う仕様を元のイベントの外に持ち出しているから、謎と言うか不具合を抱えていてもおかしくは無いのだけど」
これはこれで謎が生じる。
しかも検証も迂闊に出来ない。
何より、今のG35がどういう状態になっているのかがよく分からないと言うのも、問題である。
「まあ、プログラーム様曰く、この世界には致命的なバグが幾つも放置されているらしいから、これも無数にあるバグの一つと言う事なんでしょうね」
「僕らにとっては有益なバグなら放置しておいてほしいですけど……無理ですかね」
「無理でしょう。後回しにはしてもらえても、バグである限りは修正されるわ。プログラーム様だし」
「いっそ仕様になってくれませんかねぇ」
ターゲッティングが機能している以上、G35が誰かを直接傷つけることも、G35を誰かが傷つける事も出来ない。
仕様通りならそうなっている。
今はそれがうまく働いている事を祈るしかないか。
「こうなったら情報待ちかしらね……目撃情報くらいは無いと、動くことも出来ないわ」
「ですよねぇ」
『エオナさん、私たちは帰還しますね』
『戻る』
「分かったわ」
ラビネスト村にはG35を追うのに役立つような証拠は残っていない。
しかし、罠の類もない。
今はそれでよしとするほか無さそうだった。




